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第三部 勇者への道
「勇者様?」
しおりを挟む「なになに?緑塔の勇者の意思を継げ。次世代の勇者は君だ?」
ロットが声に出して呼んだ。一応エレナにも知らせるためだ。誤報であればよかったのになと思いつつも、違った。読みながらも疑問を浮かべる。まるで求人広告のキャッチフレーズのようなそれに眉をひそめた。
「なんすかそれ」
エレナも面白そうにそう言って自分でも号外を読み始める。すると一人の老人がいつの間にかロットたちの会話の輪に入ってきていた。
パンチが驚いて一歩後ろに下がるが、老人は気にした様子はなく、桃色のローブをズリズリと引きずり、魔法のためか歩行のためか杖を突いている。
「なんだ、あんたたち冒険者なのに知らないのかい?」
しわがれているがよく聞こえる声だった。知らないのか、とは勇者が魔族に倒されたり寿命で亡くなった時に一体何が起こるのか知らないのか?という意味である。
ケイトは冒険者として勇者についてはそれなりに知識はあり、これから何が起こるのか知っていたが、老人の語りたそうな目に知らんぷりを決め込んでやることにした。
ロットたちは本当に知らないので首を横に振り興味深そうに老人の言葉を待つ。期待した眼差しに満足そうに話し始める。
「よろしい。そもそも勇者とはどう選ばれるか知っているかな?」
まるで先生のように問いかける。
「ゆ、勇気に秀でた人のことを言うんですよね!」
ロットも年相応の少年心をもっており、手を挙げてノリノリで発言した。
「それもいいのぉ。しかし実はの、認められた5人だけが称号をもらって勇者を名乗れるのじゃ。して誰に認められるのかな?」
すっかり気分を良くしたのか老人は気取った様子で指を一本立てて問いかける。パンチやエレナも生徒役としてまんまと参加している。
顔を見合わせてあれこれ答えを言い合い始めた。
ケイトはそんな微笑ましいように思える様子を眺めながら派手な桃色のローブ姿の老人を注意深く観察している。
「うーん、王様とか?」
「ロット、たしか王様がいない国もあるって言うぜ?国の人間全員とかじゃあねえのか?」
「どちらも違うのぉ」
「わかったっす!塔に認められたらなれるっすね!」
「塔が意思を持ってるわけないだろ?」
思わず突っ込んだロットだったが、老人は思い通りの展開に笑みを浮かべたら。
「いや、お嬢さんの言う通りなんじゃ」
塔に目鼻口がついて「君は勇者だ」と言う姿を想像してロットは寒気を催した。
「しかしお嬢さん、どうしてそう思ったのかな」
「ふっふー。エルフの里も里長は世界樹の精霊に認められてなれるんすよ」
正解を当ててみせたエレナがドヤ顔になる。普段はただの食いしん坊で忘れがちだが、彼女はこう見えてエルフでありそれなりに長生きをしていた。老人も感心したのかシワでほとんど空いていない目をわずかに見開いてうなった。
「ほう、エルフもそのような決まりがあるのじゃなぁ。この年まで生きてみるもんじゃ」
「でも塔にも精霊がいるなんて知らなかったっす」
「精霊はおらんぞ」
老人の言葉に再び喋る塔を思い浮かべたロットは足もあるんだろうかと気になっていた。その横でパンチがどう認められるのか聞いた。
「ほっほ。そりゃ塔に登るしかあるまい。塔のてっぺんに行けば台座があっての。そこで凄まじい力と勇者の称号を与えられるというわけじゃな。ちなみに精霊はおらんと言ったが、女神様のような声は聞こえて、魔王討伐に向けて激励の声もいただけるぞ」
まるで見たように言う老人は懐かしむように目を瞑った。
「じいさんなんでこんなことまで知ってんだ」
いよいよ老人の正体を怪しみだしたロットたちだったが、ケイトはようやく合点がいったようで少し緊張した声で話しかけた。
「……もしかして桃塔の勇者様?」
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