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第二部 最大級の使い捨てパンチ

「やめだやめ。もう闘わないよ」

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レナはその場に倒れたものの、すぐにふらつきながらも立ち上がった。その目にはまだ戦意が宿っている。ケイトは彼女の粘り強さに眉をひそめた。

「やっぱり頭ってだけあって、しつこいわね」

ケイトは冷静に言い放ったが、その瞬間、エレナが周囲の異変に気づいた。

「姐さん、パンチの一撃で壁が崩れてヤバいっす!」

エレナの声に反応したケイトが振り返ると、洞窟の壁が崩れ、巨大な岩がレナの手下たちの方へと落ちてくるのが見えた。パニックに陥った手下たちは必死に逃げようとするが、岩の速度に追いつくことができない。

「いわぁぁあ!!!」
「たすけてぇぇ!」

その瞬間、レナも岩の落下に気づき、驚愕した顔を見せた。しかし、間に合わないと分かっていても、彼女は絶望的なまでの気迫で岩に向かって駆け出した。

「間に合わな——」

だが、その刹那、ケイトの手が再び動き、魔法を放った。

風刃ウィンドバード!」

ケイトの魔法が岩に直撃し、岩にひびが入る。続いて、ロットがすかさず剣を構え、全力で突きを放った。

突獅とっしん!」

ロットの剣が岩を完全に砕き、手下たちを救った。その瞬間、手下たちは歓喜の声をあげた。

「岩が砕けた!」
「助かった…!」

ケイトは岩を砕いたものの、ロットと少し距離が離れてしまったことに気づく。ケイト自身の魔力はもうほとんどなく、手を離してしまったことにより魔力譲渡による魔力もみるみる抜けていっていた。

「ちっ、ロットと離れちゃったわね…」

「ケイト、すぐ戻るから!」

ロットの声に応じようとするケイトだったが、その時、レナが槍をゆっくりと下ろし、ケイトの眼前に迫っていた。この距離ではもう回避は間に合わない。少しでもダメージを軽くするためレナの出方をじっと待つがいつまで経っても槍は振るわれなかった。

「待ちな!もうやめだよ」

レナは槍を手放し手を挙げた。降参の意を示しながら話し続ける。

「あんたたち、ただあたいらを目の敵にして討伐依頼を受けてきたわけじゃなさそうだね」

完全に攻撃の意思は感じられなくなったていた。ケイトは一先ず助かったことに安堵しつつ答える。

「そりゃあ、私たちはあなたたちが誘拐したルミナリアって子を助けに来たんだもの」

レナの顔には、まるで狐につままれたような表情が浮かんだ。彼女は混乱した様子で問い返した。

「なに?待っておくれよ。あたいらは山賊なんてやってっけど、これでも一応義賊を名乗ってんだよ。馬鹿な貴族から取り上げることはあっても、人の命を弄ぶようなことはしないよ」

その言葉を聞いたパンチが怒りを抑えきれず、声を張り上げた。

「嘘つくんじゃねぇ!俺のお嬢をどこやった!うちの使用人たちがてめぇらに連れ去られたっつってんだ!」

パンチの怒声が響き渡る。レナはその声に怯むことなく、冷静に彼を見据えた。レナが率いる山賊は確かに義賊を名乗り、今まで誘拐などといったことをやってこなかった。悪人であっても命に関しては取らないでいたのだ。

レナはふと何かに気づいたように目を細め、怒りを抑えきれない表情で手下たちの方へと向き直った。拳が震え、そのまま怒りが爆発するのを必死に抑えているようだ。

「……おいてめぇら」

レナの声が低く響くと、手下たちは一斉に硬直し、顔を青ざめさせた。

「「「へ、へい……」」」

何かを悟った手下たちは、おそるおそるレナの前に立つ。彼らの目には、今にも襲いかかりそうなレナの怒気が見て取れた。

さらに数名、明らかに怯えている。

「もしかして、あたいの約束破って、人攫いに手ぇ出したのか」

その問いに、誰も何も答えない。空気が一瞬で張り詰め、手下たちはますます小さくなっていった。レナの鋭い目が一人ひとりの顔をじっと見つめた。

「よーし、誰もやってねぇってんだな。目を瞑れ。いいか、よーく聞くんだよ。いまなら怒らねぇ。もし、金にでも目が眩んで人攫いに手ぇ出した大バカ野郎がいるってんなら、ゆっくり手を挙げな。誰も目を開けるんじゃないよ」

まるで学校の先生のように、落ち着いた口調でレナは言った。しかし、その言葉には威圧感があり、手下たちは無言のまま目を閉じた。

ケイトはその様子を見て、呆れたように肩をすくめた。

「そ、そんなの誰が正直に手を挙げるのよ…」

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