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第二部 最大級の使い捨てパンチ

「守銭奴?違うわよ、お金が大事なだけ」

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街の料理屋という感じで、店内少し古臭いが美味しい料理ばかりだった。ロットとケイトはそこで初めて思い知る。今までのエレナは食事量を抑えていたことを。

あまりの食べっぷりと話の面白さからコックだけでなく店中の客がエレナに奢り、そして話を楽しんだ。二人はそんなエレナの新たな一面に圧倒されつつもそれなりに食べた。

食事後、宿屋に戻った3人はロットの部屋で明日以降の話し合いをするため集まった。

「いやー美味かったっす」

大満足のエレナはベッドに寝転がりその膨れたお腹をさする。シャツ越しにもぽっこりと膨れていることがわかるほど食べていた。

「あなたほんとによく食べるわよね。私とロットの分合わせるより食べてなかった?」

ケイトはエレナのように開放的ではないが、それでもエレナのベッドに腰掛けて壁にもたれかかるようにしている。

「ニヒヒ、まだ入るっすよ」

起き上がって笑うエレナは本当にまだ食べそうなので恐ろしさを感じさせる。しかし既にお腹ははち切れんばかりで、一体どこに入るのだろう。

ロットはそんなことを思いつつも女の子の部屋なので同じベッドに寝転がることはできず、結果一人立ち尽くした。

「まあ、限界まで食べなかったのは良心だと思っておくわ」

「実はデザートにこの街名物ピグ饅頭を買ってたんすよ」

一体いつ買ったのか、お腹をめくるとピグという魔物の肉が入った腹持ちの良い饅頭を取り出した。なるほど、お腹の膨らみはピグ饅だったのだ。つまりあれだけ食べてもエレナの腹はすぐさま消化して栄養に回してしまっているらしい。

「うっぷ。あたしもう入らないわよ」

「俺もさすがにお腹いっぱい」

二人は文字通りお腹いっぱい食べていたので見るだけでも顔をしかめている。それを横目に口いっぱい頬張った。

「おいひいほに」

「食べながら喋らな……誰かしら?」

ベッドの上で食べだしたエレナをどかそうとしていると、部屋の扉がノックされた。
既に日は暮れて完全に夜だった。酔っ払った誰かが間違えてきたのかもしれない。追い返すために扉に近づくロットだったが

「はーひ、ほーほー」

エレナが行儀悪い姿勢で咀嚼を同時にこなしながらそう言ったので扉が開いた。

「こ、こんばんわ」

開けてすぐにロットが立っていたからかノックをした人は少し怯えた様子で挨拶をした。
安宿には似つかわしくないような質の良い服を着ているのがわかる。アクセサリーなどはあまり見られないが、結婚を示す指輪は大きな宝石がついており、目の前の女性がお金持ちであることは想像できた。

さらには手入れの行き届いた長い黒髪と、落ち着いた服装が気品を漂わせていた。

一瞬豊満な胸元に目が行き、なんとか視線を上に持ち上げたロットは平然を装う。

「どう、されましたか?」
精一杯の落ち着いた声だったが、そんな繕いも女性がすがりついてきたことで一気に崩れた。

「あの、息子を助けてくださいません!?」

「わっ?!」

女性の出ているところが押し付けられてロットはあっという間にしどろもどろし始める。

「おー、お姉さんぐらまーっすねー」

それを面白そうにエレナが眺めて、ケイトはと言うとベッドから飛び降りてその勢いのままロットの側頭部に張り手をうった。

「こらロット!お姉さんも落ち着いてください」

「いって。なんで俺殴られたの?」

殴られたロットは派手に壁にぶち当たる。その音で女性は我に返ったのか口元に手を当てて一歩下がった。

「あぁすみません。私ったら焦っちゃって」

「大丈夫ですよ。ちなみに私がケイト、こっちのがロット、そこのだらしないのがエレナというエルフです」

そう言いつつケイトも目の前の女性のスタイルに目がいく。悔しさのような感情が生まれた。

ロットに直視させないためケイトはさらに後ろへ追いやった。女性は自己紹介を聞いてしばらく黙っていたが、それぞれの視線が自分に何かを待っていることを理解して慌てて自己紹介を始めた。

「あ、申し遅れました。私はセリーナ・グレイソンと言います。息子はジュリです。よろしくお願いします!」

頭を下げ、戻って来るとしっかり揺れる場所を見つめてケイトは苦々しく思いつつも意図を汲み取る。

「もしかしなくても魔力種の件で来てくださったのかしら?」

「そうです!私の息子今5歳なんですが、思い返すと誕生日はいつも調子が悪くって。しかもだんだんひどくなっているように思えるんです。今年ももうすぐ誕生日で、いつ体調を崩してもおかしくないんですが不安で不安で」

そこまで聞いて目の前の来客が魔力種絡みであることを知ったロットは一気に元気を取り戻していく。

「任せてください、俺たちが必ず息子さんに助けますから!」

ケイトを押しのけるようにそう言うと、セリーナの満面の笑みとともにガッチリと手を掴まれる。胸が大きいのか手が短いのか。谷間に今にも埋まりそうになりながら手を握られてロットは刺激の強さに赤面する。

「あぁ!ありがとうございますぅ!」

「わっ、いや、えへへ。どういたしまし、いって!?」

そんなロットはまたまたケイトに吹き飛ばされることとなったのは言うまでもない。

「あらごめんなさい魔法が滑ったわ」

「そんな言葉初めて聞いたよ!」

「ともかく、息子さんが魔力種ならばおそらく私たちが助けられます。でももしただ体が弱い子だった場合は何もできません。あと、魔力種を取り除く時に報酬も頂きたいのですが」

街なかでやってしまったような誤解を生まないよう丁寧に話す。そういえば報酬の設定をしていなかったな、と思いつつも相手の言い値をきくためにあえてそのまま答えを待った。

「もちろんです!息子が治るんでしたら、こちらに金貨100枚があります。これで足りますでしょうか?」

ずっしりと重みのある袋を手渡されるケイト。開いてみると輝く金色のコインが詰まっていた。


「ひゃ!?たり、足ります!任せてください!」

一気に目の色を変えたケイトだったが、冒険者稼業と言えどもこれほどのお金を得ることはなかったので混乱するのは仕方ないだろう。
ちなみに金貨は100枚もあればしばらく遊んで暮らしても平気な額ではある。

金貨、銀貨、銅貨、青銅銭とあり、100枚で、次の硬貨1枚分の価値になる。青銅銭の下に鉄銭もあるが使い勝手の悪さから消えつつある。
一般的に就職したら安定間違いなしと言われている街の衛兵は月に金貨1枚なのだからかなりの高値だとわかるだろう。

「わー、姐さん守銭奴」

「なに?」

「頑張りましょうね、姐さん!」

鋭い視線で睨まれたエレナは慌ててそういった。

「ともかく、明日そちらに伺わせてもらいますね」

結局起き上がったロットが喧嘩勃発の前にそう言い、セリーナもこれ以上ここにいてもいいことはないと悟ったのか

「よろしくお願いします。私の家は宿屋を出て左手に進んだ先の坂を登った先にあります。屋根の色が黄色で特徴的なのでわかると思います。いつでもお待ちしていますのでよろしくお願いします!」

と部屋を去っていった。
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