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第一部 無駄な魔力と使い捨て魔法使い
「目が覚めると助けた男の子がちょっと生意気」
しおりを挟む「ふぁあぁあ。んー、よく寝た。かな?」
まるで自室から目覚めたかのような起きっぷりである。
面食らったロットをよそにケイトはすぐに周りを見回す。
パーティを組んできた経験はここでも活かされており、自分が見当外れな目覚め方をしたのはすぐに忘れた。
そして状況把握を素早くし、どうやら目の前の少年は目を無事に覚まし、自分自身も生き残ったことを理解した。
さらにあたりに散る魔物の身体や血を見てかなりの数を少年が倒してくれたことがわかった。
感謝するとともに全くの初心者で危なっかしい子供から、そこそこ剣の腕はマシな子供に認識を改めた。
その少年が先程からどう話しかけるか困り、こちらの出方を伺っていることも見て取れた。
ま、私のほうがお姉さんなんだからここはリードしてあげなきゃ駄目ね。今まで年上と接する機会が多かったケイトはそんなふうに思う。
「私ケイト。あなたが無事で良かった。目を覚ますまで守ってくれてありがとうね」
微笑みそう言った。パーティの頃も自身が一番年下で妹のように扱われていたケイトにとって自分より年下の者と接する機会は珍しくなんだか新鮮な感じだった。
そのため少し嬉しくなっていたのをバレないようケイトなりの大人びた会話を試みた。
「あ、俺はロットです。助けていただいてありがとうございました」
頭を下げて感謝を伝える。礼儀正しいロットの返事にさらに得意げになる。
「ええ、初心者の子供があんなところで死ぬのはかわいそうだもの」
それが余計な一言となる。礼儀正しいとはいえロットは子供で、多感な時期でもあり、一番子ども扱いさえれたくない年ごろともいえる。思わず言い返してしまうのも至極当然だ。
「……ま、ケイトさんが起きるまで俺が守ってなかったら死んでたけどな」
あえて偉そうに腕まで組んでそういった。精一杯の強がりなものの、ケイトの苛立ちを高めるには十分だ。そしてそれは連鎖する。
「ね、眠っていたのは上級魔法を使ったからよ!……ま、子供のあなたには使えないでしょうけど」
上級魔法はそれなりに魔法を使って経験を積んでいる大人なら使えることは珍しくないが、子供のうちから使えるものはあまりいない。
それをわかった上で明らかに初心者なロットにそういったのだから勝ちを確信していた。なんの勝ちかは知らないが。
「お、俺だって魔法なら上級魔法をつかえるぞ!」
「なっ!?」
まさにカウンターパンチだ。上級魔法をこんな田舎っぽそうな子供が使えるなんて思いもよらなかった。
そんな事実に愕然としケイトはその場にうなだれてしまった。地面に両手を付き、今にも泣き出しそうなケイトに流石にロットもうろたえている。
「ほ、本当なの?」
この子はどう見ても子供、しかも旅なんて初めてみたいな挙動のくせに上級魔法を使えるなんて。威張ったのはバカみたいじゃない。というケイトの心の声が今にも溢れ出そうだった。
「う、うん。本当だよ!……魔力が少なくて一発しか打てないけど」
ケイトの姿が哀れにみえ、思わず言うつもりのなかった自身の魔力について漏らす。そしてその事実にケイトが強い親近感を覚えたのは言うまでもない。
「……私もなの!」
上級魔法を扱えるのにも関わらず一撃で魔力切れを起こす悲しみと周りの失望感をケイトもロットもしっかりと解っていた。
二人の間に見えない友情が芽生えた瞬間だった。
二人は無言でお互いの苦労を称え合い、肩にそっと手を置く。それ以上の言葉はいらない。同じ苦しみを味わう者同士痛みをえぐる会話は控えよう。そんな意志がお互いに込められていた。
「ところで、あれはなにかしら?」
気を取り直したケイトが聞いた。話題を変えるためでもあったが仇となる。
「人骨の山だよ。あそこに落ちたおかげで衝撃もだいぶ和らいだみたいだ」
ロットが正直に答えると途端にケイトの身体はフルフルと震えだした。
「じじじ、人骨ですって?!?わわわたし人の、骨の、上にいたってこと?」
「それもすやすやと眠ったままね」
ロットが無慈悲に付け足す。
「ぎ」
「ぎ?」
「ぎぃぃいいやぁぁあ!!!」
蜘蛛のときのロットの奇声が可愛らしく思えるほどの絶叫が部屋いっぱいに広がった。身体中を手で払い、半狂乱になりながら走り回るケイトは、先程までのお姉さんぽさは完全に消えていた。
当の本人はそんなこと全く気にならないようで、必死に目には見えない人骨に頬などが触れた、という事実を払いのけようともがいている。
その姿があまりにも可哀想で、慰めの意味も込めてロットは水魔法を使ってやった。
「下級水魔法、ウォーターボール」
魔力が小さな水の球に変換される。その水を見るやいなや飛び込む勢いで顔を洗い始めたケイトを微笑ましい気持ちでロットは眺めた。
ひとしきり顔を洗い終わったケイトは限りなく魔力の消費を抑えつつも髪の毛を乾かすため風を作りながら口を開く。
「……ロット君、あなたいい子ね」
爽やかな笑顔でそう言われたロットは今更取り繕うには無理があるだろうと思ったが優しさで何も触れてあげなかった。
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