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第一部 無駄な魔力と使い捨て魔法使い

「勇者様おれがぁぁぁああああああ」

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「ここが身投げの穴……!」

兄がそうつぶやきました。

入り口は二本の柱、そのうちひとつは途中で折れています。

そして伸びたツル草の一種が全体を包み込むように生い茂り、階段へと続く入り口はなんだか神秘的な雰囲気を出していました。

「ふたりとも村から近いのにここは初めてかい?」

「はい、こんなところ普段くることはありませんから」

兄が答えます。

私も森の中に入ることがあまりないのでやはり初めてでした。

中は更に神秘的……ではないけれど、思った以上に広い空間でした。

まるでくり抜いたかのような作りで、奥にはアリの巣のようにいくつか道があって、部屋の中央には大きな穴が空いています。

この穴が身投げの穴と呼ばれているのはひと目でわかりました。なぜなら


「何だよこれ、『身投げの穴、ここから飛び降りる前にワシの家へおいで?』って書いてあるぞ?」


村長の字で書かれた看板が刺してありましたから。

丁寧に村の名前と村長の名前まで。
だから時々村長の家には変なお客さんがいることがあったんですね。新たな謎が解けました。

「ふふっ、村長は面白い人だね」

勇者様も感心して笑っています。

それにしても、こんな立て札をするということはここで命を絶つ方がいるのは事実と考えると少し悲しい気持ちになります。

私は生きたい。

兄にも生きてもらいたいし村長にも長生きしてもらいたい。

だから命を絶つなんてとっても悲しいです。

悲しむ私に兄が話題を変えようとしてくれました。

「勇者様、俺たちはどうしたらいいですか?後方支援ですか?」

よかった。兄も自分が前線を張れるとは思っていませんでした。

「ん?そうだねぇ、とりあえずこのフロアは魔物が湧くことがないエリアだからここで待っててもらおうかな。あっちで休めるよう準備してきてよ」

あ、なんだ休憩ですか。
勇者様の提案に兄はなにか言いたげでした。

しかし私の安全を考えて冒険についていくより安全なエリアで待っていた方がよいと我慢したようです。

おとなしく私たちのカバンをもって隅に置きに行きます。私も行こうとすると止められました。

「村長から聞いたんだけどロットは剣術も魔法もできるらしいね」

勇者様が私に話しかけます。

「それに努力家だから二つともなかなかの腕前だってね」

頷くと勇者様は一人で話し始めてくれました。

勇者様の言うとおり兄は腰に刺していた剣で剣術を習っています。

確か七つのときに始めたそうです。

努力の甲斐あってか十三歳の今では村の大人とも負けないほど上達したそうです。本当にすごいです。 

魔法は聞く話によると生まれて間もない頃から魔法のようなものを使い、物心ついて修行しだしてからは下級から始まって中級、上級、超級のうち上級の水魔法まで扱えるようになっているようです。

村の十三歳では自慢の実力者です。

ただ魔力が足りないって兄が嘆いていたのでもしかしたら魔法よりも剣のほうがすごいんでしょう。

「そうだね。でも剣も魔法も才能はきっとない。それでもひたむきに頑張る姿勢はとても偉いけどね」

私の思考に流れるように返事をしてきました!

この人やっぱり私の心を読んでいませんか?

驚き距離を取る私に「ふふっ」と笑いかけるのがものすごく不気味です。

兄に才能がないなんて努力を見てないから言えるんです。だから少し、いやかなりムッとして声を絞り出します。

「お、おにい、ちゃんは、すごいもん」

はー、やればできるんですね私。ちゃんと話せました。勇者様とは逆方向を向いて目もつむりましたがちゃんと言えましたよ!

「そうだね、でも剣も魔法もダンジョンを攻略にはまだ足りない。

ただそれを補える才能があるとすれば魔力だね。その量だけは本当にすごいよ」

けなしたり褒めたり忙しい人です。でも兄の魔力は認めてくれているようです嬉しい。

勇者様に褒められるくらいだから少ないって嘆いていたのは気の所為なんですね!

「とにかく行ってくるね。これくらいのダンジョンなら三十分もあれば終わるからじっと待っているんだよ」

そういうと勇者様はあっという間にたくさんの穴の内一つに入っていきました。

私は兄のもとに行くと私のために座る石や、軽い食べ物を用意してくれていました。

「勇者様は言っちゃった?」

「うん。三十分もしたら戻ってくるって」

「え?ダンジョン攻略を三十分ってどんなスピードで攻略する気なの?」

そういえばそうです。ダンジョンはたくさんの罠や魔物がいて危険な場所って聞きます。もしかして冗談で言っただけでしょうか?

「まああの人ならやりかねないのかな?」

まだ得体のしれない勇者様ですからそうかもしれません。

「まあ気長に待つとして、ソイルはせっかくだからご飯食べておいて。

俺はちょっと身投げの穴でも見てくるよ。ソイルは危ないからここにいるんだぞ?」

どうやら兄はダンジョンが気になって仕方がないようです。私だけ子ども扱いで自分は探索。

ちょっとずるいなあと思いつつも、今は良い体調がいつ崩れるか分からないのでしっかり休むことにしました。

その十数分後、うとうとしてきた私を目覚めさせる声がまさか兄の叫び声だとは予想もしませんでした。
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