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≪本編≫

【本編37】※暴力的行為の表現有り

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「…ぎっ‥あがっ…」

悲鳴に近い痛みを我慢する声がリビングに木霊する。

俺は耳を塞ぐ事が出来無いから、せめて目を瞑る。

見られたく無いだろうし、見たくない。

…十夜さんが無理矢理…犯されているところなんて…。

男は俺の存在を狡猾に使った。

十夜さんが言う事を聞かないと、俺を殴ったり首を絞めたりして言う事を聞かせた。

正直、俺の意識は朦朧としていたが、十夜さんの耐えている声で現実に引き戻されていた。

ごめんなさい、ごめんなさい…。

俺、足手まといで何も出来なくて…ごめんなさい…。

「…こんな‥何でもな‥い。ひ…で‥みのが…大事‥から…ひぃっ…」

失いそうな意識の中、涙を流す俺に十夜さんはそう言って歯を食い縛る。

男は後ろを攻めるのに飽きると、口でする事を強要する。

十夜さんが少しでも躊躇すれば、男の手は俺の首を絞めた。

「やる!やるから、秀臣から離れろ!…ぅぐっ…」

その度に十夜さんは男に頭を掴まれて…。

どれぐらい時間が経ったのか、男の何度目かの絶頂に十夜さんの声が聞こえなくなった。

まさかと思ってうっすら目を開けると、十夜さんから体を離した男が見えた。

「…っ」

小さい声だったけど十夜さんが呻いたので、少しホッとした。

「小夜?寝たのかい?」

男が十夜さんを横たえて寝かせる。

…今更だけど“小夜”って誰だ?

十夜さんの頭を撫でながら、ブツブツと呟いている男の言葉を聞いて、俺は耳を疑った。

そんな…。

…意図せず知ってしまった真実に呆然とした。

まさか、そんな事…。

男は十夜さんを見ていない。

十夜さんと同じ顔の小夜さんという人を見ていた。

なるほど。

確かに、顔に執着しているって言ってた。

それで…。

俺は目を瞑って混乱している自分を落ち着かせる。

しばらくすると何も聞こえなくなった。

不思議に思いながら薄目を開けると、男の頭がゆらゆらと揺れていた。

寝てる?

俺は首を絞められる度に暴れて緩んだ腕の紐を、出来るだけ音を立てないように左右に引っ張った。

悪戦苦闘の末、何とか左手だけ抜く事が出来た。

右手は直接テーブルと繋がっているみたいで動かせばテーブルが揺れる。

右手を外す事を諦めて、上着のサイドポケットから何とかスマホを取り出す。

実は、取り上げられたスマホは十夜さん用のものだった。

出掛けに持たせようと思って手に持ったままだったのを、同じスマホだったから俺もうっかり自分の胸ポケットにしまったんだよね。

それを見た木村さんが、俺のだと勘違いしてサイドポケットに入っていた方を見落とした。

急がないと!

一番上にあった竜也さんの電話に繋ぎ、猿轡を無理矢理顎まで下げて口から異物を吐き出す。

トゥルルルル

トゥルルルル

着信が長い。

運転中かもしれない。

高千穂さんにかければ良かった。

焦ったがかけ直す事も出来ない。

「…あ」

なぜなら、男がこっちを見ていたから…。

「お前ぇぇぇぇぇっ!」

激昂した男が俺を目指して立ち上がろうとしていた。

手にはその辺にあったテレビかエアコンのリモコンを握っている。

それで殴られたら痛いな。

妙に冷静になってしまった俺は、スマホから竜也さんの声がするのに気付いた。

『秀臣?おい?秀臣!?』

「元のマンション!早く!!十夜さんを助けてっ!」

それだけ叫んだ。

「くっ!?」

瞬間、十夜さんが男に体当たりしていた。

男の手からリモコンが飛び出したが、逆に十夜さんが吹っ飛んでしまっていた。

「十夜さん!」

男は十夜さんに近付くと十夜さんの腹を蹴り上げた。

「…がっはっ」

吹き飛ばされた十夜さんを乱暴に掴み、うつ伏せに押さえ込んで無理矢理後ろに捩じ込み、頭を掴んで何度か床に打ち付けた。

十夜さんから鮮血が飛び散る。

「…ひっ‥がぁっ…ぃあ‥ぐっ…」

痛みからか十夜さんが悲鳴をあげて痙攣している。

ぐったりした十夜さんを見て、俺は何とか動く片手を使ってテーブルごと這いずって移動する。

「ははははは!小夜は俺のものだ!誰にも渡さないっ!!」

狂ったように腰を打ち付ける男。

十夜さんは気絶しているのかピクリとも動かない。

俺が近付くのも構わずに、行為に耽る男のシャツを背中から勢い良く掴んで引っ張る。

重そうに感じた男は前後運動のタイミングが合ったのか、上手い事十夜さんから引き剥がせた。

男が俺の方に尻餅をつく。

「…ぅ‥」

倒れている十夜さんと目が合った。

良かった。

意識がある。

「ああ。お前が居るから小夜が恥ずかしがって俺を拒否するんだな?」

ゆらりと立ち上がった男が、シャツを掴んでいる俺を振り返った。

その手は俺の首に伸びてきて…。

「…かはっ…」

スローモーションを見てるみたいだった。

さっきまでの嬲るような首の絞められ方じゃなかった。

ギリギリと音を立てて絞められていく首。

「…っ」

焦点の合っていない男の目。

「…だ‥めぇ…やめ‥て…お‥ぅ…ん」

男を止めようと男の足に縋り付く十夜さん。

正直、もう駄目だと思った瞬間、玄関から凄まじい音と共に、竜也さんと高千穂さんの声が聞こえた。

ああ。

助けが来たんだ。

良かった。

2人共、早く十夜さんを助けてあげて?

十夜さんが俺の名前を呼ぶ声が遠くで聞こえる。

俺はそのまま意識を手放した。
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