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≪本編≫

【本編31】

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撮影後、送ってもらった俺は家に入るとそのままリビングに行き、ソファーにうつ伏せに倒れこむ。

次に3人に会えるのは2日後、学校が終わった後、マンションでだ。

それにしても…。

「十夜さん、可愛すぎだろ…」

ため息しか出ない。

撮影用に作っている顔だとしても、あんな風に微笑まれたらやっぱりドキドキする。

あの時は仕事中だから気を張っていたけど、抱き付いてきた感触を思い出して反応してしまう自分に嫌気が差す。

あれは作られた胸だと解ってても、所詮は盛りのついたガキでしかない俺。

っていうか、探せば可愛い女の子はいくらでもいるし、ひどい話、ヤりたいだけならその辺の女だって構わない。

…ハズなんだけど、残念ながらまだ経験は無い。

頭では解っていても、やっぱり諦めきれなくて胸が痛い。

「…どうしたらいいのかな?」

答えの無い問いを口に出してみた。

「好きなら好きでいいのよ?」

…ん?

答えが帰ってきた?

「昔、病院で会った初恋の子でしょ?諦めきれないなら好きでいればいいじゃない。無理に諦めなくてもいいのよ?」

「母さん?いつから!?」

てっきり事務所かマンションにいるんだと思ってたからめちゃくちゃ驚いた。

「いやねぇ。ずっといたわよwあんた、ただいまも言わないでいきなり倒れこむんだもの。びっくりしちゃったわ」

母さんは笑いながらキッチンで掃除をしていた。

それよりも!

独り言聞かれたんだけど!

恥ずかしいんだけど!

…驚きで萎えたから良いけどさ。

「ごめん。ただいま」

「はい。お帰りなさい」

遅れたけど起き上がって帰宅の挨拶をすれば、母さんもちゃんと返してくれる。

「それにしても、好きでいていいって大胆発言じゃない?相手、男の人だったんだよ?」

「…男の人って言葉が似合わない子よねぇ」

母さんはしみじみ言う。

十夜さんを思い出しているんだろう。

「大丈夫よ!お母さん、大好物だから!気にしないわ!」

「いや、気にしてよ!いくら腐女…貴腐人だっけ?だとしても、自分の息子が男好きでいいの?」

「どんとこいよ!イケメンに生まれてくれて旦那に感謝だわ!十夜くんも超美少女系だし。うん、目の保養よね。上手く行くといいわね!」

母さんは元々腐女子と呼ばれる、所謂ボーイズラブが大好きな人だ。

事務所の先輩達もそっち系が多いのは公にしてる人以外内緒だ。

集めた訳じゃないけど、母さんの元にはそういう人が多い。

実際迫られた事もあるけども…それでもっ!

「薦めないで!」

「いいじゃない。ひっくんはさっさと結婚したかと思ったら、お嫁さん連れて発掘調査に行っちゃうし、みつくんは外国で腕試しするとか言っちゃってさっさと出ていっちゃうし、一人ぐらいそっちの道に行って楽しませてくれても…」

だからって、子供に薦めないで!!

ウチは三人兄弟で上から長男・秀一(ひでひと)、次男・秀光(ひでみつ)、三男が俺だ。

ちなみに父さんは秀平(ひでひら)と言う。

どっかの武将みたいな名前だけど、ご先祖様は武将ではありません。

で、母さん?

楽しませてって本音出ちゃってるからね?

「や、あのね、母さん…」

「おかしな子ね。周りの同性愛者には寛容なのに自分は駄目なの?」

あれ?

いいのかな?

でも…。

「でもさ、好きでいていいとしても、相手が好きになってくれないとどうにもならない訳でね…」

思わず口に出してしまった。

「応援してるわ!」

目を輝かせて自分の世界に浸る母さんを放って、もう一度ソファーに突っ伏す。

諦めなくてもいい?

いや、でも…。

「それにしてもあの時の子達が、今じゃあんな格好良く育つなんてね。2人共、モデルやる気無いのかしら?」

そんなうじうじ考えてる俺を放置した母さんはしみじみと言う。

「そういや、撮影の日、全然気付かなかったよね?」

「だって、高千穂くん女の子だと思ってたし、竜也くんの顔見えなかったんだものw」

やっぱり。

あれは気付かないよね。

「よるちゃんと美人姉妹だと思っていたわ」

「あ、それは俺も思ってた」

「うん。よし。秀臣、頑張って十夜くん落としなさい!」

「や、あの…だからね…」

「可愛い嫁ゲットよ!!」

…駄目だ。

話が通じない。

ん?

でも、竜也さんと高千穂さんが恋人同士って事は、十夜さんだって偏見は無い訳で…。

いやいやいやいやいやいやいや。

ちょっと待て、俺!

母さんにいいように誘導されている気がしてならない。

こんなんで共同生活大丈夫なのかな?

不安に思いながらも夜は更けていった…。
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