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【14話】

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重厚な扉の前で名前が呼ばれるのを待つ。

「…緊張する」

「大丈夫だ」

「私モ緊張シテマスヨ」

緊張感漂う中、しれっとシルバーが棒読みでぶっ込んできた。

「お前はしれっと嘘をつくな!」

「エー。私ダッテ緊張グライシマスー」

全然緊張感の無いシルバーの台詞に、私は少し笑ってしまった。

「嘘つけ!生まれてから今まで緊張した事なんかないって言ってたじゃんか!」

この2人のやり取りは面白い。

シルバーは無表情装備だからか、どこか冷めたように見られがちだけど、実際はとてもひょうきん。

いつも突拍子もない事を言ったりしたりして、グレイに突っ込まれている。

本当に良いコンビだ。

「ありますよ?」

それまで棒読みで喋っていたシルバーが普通に答えた。

「「えっ!?」」

私達は驚いて、揃ってシルバーを見つめた。

「8年前。この方に仕えて欲しいと言われて紹介された物体を見た時に、何かが飛び出てくるんじゃないかとドキドキしました」

言いながらチラチラと私を見るシルバー。

「それって、お嬢の簑虫…ぶふっ…」

「…ひどーい!」

小声だから扉の向こうには聞こえないだろうけど、酷いわ!

簑虫は飛び出しません!

そんなやり取りをしていたら入場の合図がきた。

シルバーのおかげで、緊張してる暇なんか無かったわ。

私は大きく深呼吸をして扉が開くのを待った。

「ローズミスト侯爵家ご令嬢、ミモザ・ローズミスト様」

呼ばれた私は開いた扉の前でカーテシーをしてから中に一歩入る。

どよめきが起きるが、我慢我慢。

今日はネガティブ定休日!

大丈夫。

「並びに、婚約者。オーカー男爵家ご令息、グレイ・オーカー様」

そう。

これが両親が出した解決策。

グレイを婚約者にして、他者に付け入る隙を与えなくしたのだ。

そして、一緒に入場する手筈が整った時点で、陛下から正式に婚約が認められたとして、グレイは私の婚約者になった。

貴族の舞踏会は身分が下の人から入場だからね。

フォッグ伯爵夫妻が来た時に、シルバーが用事で出て行ったのは、お父様に確認しに行ったのと、自分の入場時間だったから。

そして、身分が高い方と一緒に入場する事で、その相手と結婚が確定している証明になるのだ。

グレイも入り口で、ちゃんとしたボウ・アンド・スクレープをしてから中に入り、私に腕を差し出した。

私はグレイの腕に自分の手を絡めて、グレイと見つめ合って仲良しアピールをしてから、会場の中に進んで行った。

途中で呆然としていたフォッグ伯爵夫妻と、成長したカクタス様らしき人を発見したけど、知ったこっちゃないわ。

そうして私は、デビューと共に婚約発表を済ませた。


*補足*
ボウ・アンド・スクレープとは、男性用の正式なお辞儀の事です。
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