同窓会

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4.淵堕

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─回想・ゲームセンター(高校三年時)─
「なんかワクワクすんねぇ!」
「そうでしょう~?私らさぁ~いっつも尻拭いさせられてるみたいじゃん?」
「言えてる~!誰のおかげで毎回楽しめるか考えて欲しいよねぇ?」
「…ごめんなさい…。」
「は?あんたに話ふってないんですけど。」
「マジ、ウザイんですけどぉ~?」
「よぉ美加!」
「あっ高井~、他のやつは?」
「西野と志賀川は場所探してるよ。」
「お~いっ!」
「おっ、来た来た!」
「あったぜ、ちょうど裏のゴミ捨て場が開いてるよ。」
「結構奥の路地だから誰も来ねぇよ。まっ、来たら来たで殺るだけだ。」
「そう言う事!」
「でさぁ、ゲームの方どうしよっか?」
「そうね、じゃあパンチングマシーンでとりあえず。」
 美加は目で合図した、全員OKサインをだす。もちろん友子はつっ立ったまま了承するはずもなく、成り行きを成す術なく見守るしかない。 バコンッ!
「見ろっ!百四十九PTSだぜ?」
「シクった~百三十五だよ…、もう一回やらしてくんない?」
「ダメダメ!志賀川も早くやってよ、瞑想とか意味ない意味ない!」 バコンッ!
「あ…ちっくしょぉ~っ!百三十八かよ!」
「じゃあ高井が一番だね。」
 全員唇の端をニタニタと緩ませ岡本を見た。一人不安に脅える彼女を男三人が囲み、人通りがない路地裏へと連れて行った。涼や恵、美加はキャァキャァ騒ぎながら後を追う。
─路地裏─
 ガタンガタンッ…、近くにあったゴミ箱がひっくり返る。
「うっ……。」
 お世辞にもキレイではないその場所に友子は乱暴に倒された。男三人はこれ以上ない下劣な笑いを浮かべ彼女を見下した。
「悪いなぁ俺が先だぜ?」
 そう言うと高井はあらかた脱ぎ出して、岡本の上に乗りかかった。
「うわっ!高井のやつ超シュミ悪いパンツ!ウケる!」
「ちぇっ!本気でやるんだったなぁ?」
 男の後ろから割入る様に美加や涼が入ってきた。黒光りするカメラを構えている。
「ばっちり撮ってあげるからねぇ~!」
「高井っ!もっと左によってよ!その子の顔が取れないじゃない。」
「じゃぁ始めますか!」
 服をちぎられ、岡本はただそこにひれ伏すのが精一杯だった。彼女達は代わりの服まで用意していて、用意周到で狡猾な悪魔であることは明白な様である。
「友子、こんなイケメンにやられるんだからもっと嬉しそうな顔しなさい。」
「そうそう!笑わないと、マジでブチ殺すから♪」
 言われる事には逆らえない、彼女は笑顔を振り絞った。
「オラッ!どうした!?何とか言ってみろ!お前初めてなんだろ!?」
 男は殴りながら言った、岡本の無表情に近いが苦痛と恐怖で硬直しているのは確かだ。
「これで痛くないだろ?えっ顔が痛い!?ハハハハハッ!」
 岡本は楽しそうに順番を待つ男と撮影をする女を涙でボヤケた光景の中眺め、本心とは異次元の笑顔でただ終わるのを待って待って…待ち続けるだけだった。

 恵はそんな回想に愁う間もなく、ついに車は岡本の一人暮ししているマンションへと辿り着いた。薄暗くひとけのない通路を二人は押し黙って歩いた。二人の足音はあらゆる方向で響き、大変大きな音に感じる。合金の螺旋階段が、悲鳴をあげているかの様だ…。
「ここだ…。」
 どの家もそうだが、マンションと言うのはすぐに人がいるかどうか判断しにくいところがある。閉塞的で隣人さえ知らない、隔離された空間が仕切りで点在している。
─ピーンポーンピーンポーン……、物音どころか一切耳や肌に音が感じられない…。
 表札は確かにワープロの文字で『岡本』とある。しかし情報が確かなものなのか疑問を感ぜずにはいられなかった。実はここがお勧めの物件ですよ、そんな冗談をあの人ならしかねない。そんな淡い期待を抱きながら恵はそっとドアノブに手を伸ばした。カチャ…開いていた。中は外の光を完全に食い尽くし、闇が蠢いていた。二人は息を飲んで躊躇した。
「入ろう……。」
 恵は手招きしている闇に負けて、自己意識が薄いのかフラフラと入っていく。風山も後に続いた。ここまで来て入らない訳には行かない。
─中は部屋の輪郭がボヤケて見えるだけで、要として何があるかわからない。バタン…玄関が閉まると同時に完全な闇暗が二人の目の前に広がった。
「ちっ…ちょっと!閉めないでよッ!」
「勝手に閉まったんだよっ!くそっ!玄関もわからなくなった!」
 二人の前に人の気配が漂う、次第に目が慣れてきたせいか割とはっきり姿を確認できる。
「いらっしゃい…。」
 か細い声、生きている人間のものと比べるとまるで生力が感じられない。
「…っ……。」
 確かな事は彼女が友子である事だ。声を聞いてそれは二人ともすぐに理解できた。
「ゆっ…友子!?いっ…イヤァーーッーッ!」
 傍に居た恵は突然闇の中へ走り出した。広くない部屋なのに、どうなっているんだ?まるで果てのない空間だ。い…、そもそもそんな概念的な理屈すらない闇そのもだ…。
「恵!落ち着け!!幻聴だっ!」
「いゃぁっ!」
 ドサリと遠くで何かが倒れる音が耳を突いた。恵が部屋を闇雲に走り回る音がパタリと途絶え、さっきまで隣で心の支えをしていた存在は例によって闇に葬れた様だ…。
 つい先まで居た恵…、本当にさっきまで居たのかさえ疑問に感じる。本当の幻聴は恵…そんな気さえする。…どこからともなくクスクスと笑い声が聞えた。なんとも嫌な笑い声。…いや、罵声かと思う程禍禍しいものだ。風山の目の前に再び友子がスッと現れた。今度はハッキリわかる…。月の光に蒼白く浮かぶその顔から風山は目を離さなかった。
「あの子も楽に死ねたね…、自分では何もできないくせに、死ぬ時は楽なんだ…。私なんか苦しくて苦しくて…、いつまでも楽になれないのに…。」
 友子はついさっき自分が殺したソレの死に対して、無い物ねだりをする子供の様に吐き捨てた。風山は腹を括った、どうして自分が最後なのか聞こう…と。
「…どうして俺が最後なんだ…?」
「…忘れたの…?アハハハッ!本当に?ねぇどうやって忘れたの?私にも教えてよ。」
 彼女は笑いに侮蔑を目一杯込めた。屈託のない姿は、さっきまでとは別人の様に思いっきり笑っている。風山は腑に落ちない顔でそれをただ傍観して突っ立て居た。
「何の事だよ!?」
「…あなただけは一回殺しただけでは本当に足りないわ、心底腹が立つ…。」
 急に笑うのを止めた彼女の言葉は、人の心など微塵も感じさせない程鋭かった。
「俺はお前に何もしていない!そりゃっ…助けたりしなかったけど、涼に比べたら…!」
 風山は涼の話を思い出していた…=見ている事自体がいじめ=確かに自分も立場的には加害者だ。しかし、皆と差はない…そんな酷い事をした記憶は一切ない。
「良いわ…思い出させてあげる…。」
 岡本は彼の目の前に立った。ビデオの中の彼女にあった人間にない目は見た限り無い。
「元々私はイジメられてなんかなかったわ…、確かにね、ちょっと暗かった。けど…友達もいたし、涼ちゃんとも仲良かったぐらいだよ…。」
「うっ…嘘だっ!お前は最初から涼にっ…!」
「私の前にイジメられていたのは…あなたじゃない…風山君…。」
「は…?」
「それとも“ほら風“って他の人の事?恐ろしいねイジメって…、被害者が加害者に寝返えっちゃうんだもん…。あげくに自分がやられた事をキレイに消しちゃってさぁ。」
 風山はふつふつと湧き上がる記憶を押し潰したかった。かつて自分がクラスで一番いじめられ、ホラ吹きの風山…通称“ほら風“と皆に罵られていた事を…そして自分がなぜ最後の標的になったかを…。忘れていたのではない、硬く封印していただけだ…。
「…風山君は元々ね、口が災いするタイプだった…。涼達だけじゃなく皆が色々な噂を流すあなたを鬱陶しく感じていたわ。だから、二年になってすぐあなたはイジメの標的になった…。」
「………。」
「覚えてる…?私がイジメられてるあなたに、優しくしてあげた事…。どうせ忘れたんでしょう?思い出したくはないよね、私だって同じなんだから。」
「そんなの…デタラメだ…。」
 風山は溢れ出す下劣な過去と現実から必死で逃げ様としていた。勿論逃げれる訳がない。
「優しい私にあなたはすがり付いたわ…、当然よね?クラスでは毛嫌いされ、いじめの圧力に屈してしまうのも無理ないわ。私がどんな気持ちだったか、あなたは痛い程わかるはず…。わからないはずがない、同じ屈辱を嫌という程知っているんだから…。」
「俺は…俺はいじめてられてなんか…。」
「自信無くしてあげよっか?」
 突然風山は目が奥ばった感じがした…。視界が湾曲し、醜悪にも程がある嫌なアノ記憶が怒涛の如く解き放たれ、彼の意識は理不尽にもいじめられていた頃へ飛ばされた。
~高校三年・春~
 ドンッ! 見覚えのある女…涼だ、他にも何人かが自分を鬼の形相で見下している。
「ちょっとホラ風、この前洋子が二股かけられてた事皆にバラしたでしょう?」
 彼女の瞳は殺気に満ち、声はもはや女とか男とかそう言うものを通り超えている。近くのゴミ箱に強烈な一蹴が入る。ガシャンッ! 彼女はへたり込む風山の胸倉を掴みあげた。
「だっだって、本当の事だろ…?」
 彼は口元で笑顔を作ったが、無理強いした笑いは涼にさらなる怒りを与えていた。彼女は彼の腕を捻り、今度は彼の腹に突き上げる様な蹴りを入れた。そして、涼は風山と同じ様に唇の淵で笑みを作った。風山のそれとは比較にならない、侮蔑と悪意に浸りきった笑みだ。どうんな罵倒や仕打ちより恐ろしい、本能的に邪気を背中全体で感じる。
「皆さ~ん?注~目~♪ほら風君がまた自分の事を棚に上げましたぁ~。」
 皆の冷ややかな視線が自分の所に集中砲火のごとく降り注ぐ…。ヒソヒソと自分の事を中傷する言葉を…人間性を疑う様な態度で吐き出している。
 …毎日外様にされた…。誰も自分の言う事を信じてくれない…。そんな中…彼女…そう友子だけは俺の話を聞いてくれた…。いや…、それだけじゃない…。遊び友達がいなくなった時、昼ご飯を一人で食べなきゃいけない時…。俺の孤独・絶望の日々をたった一人で埋め様と、嫌な顔一つせず分け隔て無く接してくれたのが岡本だった…。
 どうしてここまでしてくれるのか、彼女が優しいのもそうだが…俺はそれだけじゃない事に薄々気付いていた…。ただそれに気付かぬ振りを貫いて、甘えていた事を…。
「思い出せた?私は風山君の事好きだった…。余計な事をタイミング悪く言ってしまう性格だって事私はわかってたし…。本当はおおらかで、誰でも楽しませる事ができる良い人だって…。私が一生懸命作ったお菓子…、皆が文句を並べ立てる中風山君だけが『これすげぇうまいぞっ!?お前らいらないんなら俺にくれよ!』って一人褒めてくれた…。私ね…人に褒められたの…あれが初めてだった…。お父さんはいつも私やお母さんを無視して、仕事にあけくれて…お母さんもそんなお父さんに嫌気が差して他の男の人と…。昔から私は優等生である事を強制された…。どんなに努力しても誰も褒めなてくれなかった…。それが普通だって…努力して良い成績をとるのが普通だって…。お父さんやお母さんの誕生日に一生懸命料理を作ったりもした…。でも、翌日になっても誰も手を付けてなかった。忙しいだの時間が無いだの…、要するに成績以外は興味無かったのよ…。」
「俺に…は関係無い。」
「そうね…。だって、夏休みで彼女達の手が休止したのを察したあなたは私との関係を続ける事で私を彼女達の犠牲にする事を思い付いたんだからね…もう関係ない人だね…。」
「…そんな事してない…。」
「記憶ってさ、いくら都合良く書き換えても嫌な事は簡単に消えないんだよ…ね?」
 俺は耳を封鎖していた。自分がいかに人間として下劣で神でさえ許しはしないであろう
その悪事を鮮明に思い出しながらひたすら脅えていた。
「いくらなんでも夏休みを挟んだぐらいでイジメの対象が岡本に変わりはしない…。」
 もっともらしい一般論、口が災いする己の性を彼自身この時再確認した。岡本はひるむどころか笑ってその言い訳を蹴飛ばした、何もかも予想済みと言った感じだ。
「そうだね…、普通なら脱出できない地獄からクモの糸も使わずにまんまと逃げ切った。
私の恋人を偽った嘘でワナを作って、私と涼を陥れた…。」
「何の事か全くわからない!一体俺が何をしたって言うんだよっ!?」
「また忘れたの?私は忘れる事なんてできない…、いいえあなたも一緒でしょ?忘れた振りをしても無駄だよ?ほら…、もう頭の中では溢れ出してるんだから…。」
「何も…何も…!」
「…夏休みが終わってもイジメは終わらない…、卒業するまで…下手すればその後もずっとイジメられる…。そうったんじゃない?だからあんな事を…。」
「…それはお前の空想だ…。」
「九月十二日…、夏休み最後の日…ちょうど私の誕生日…。人生で最悪の…、あなたが全て作り上げた最初で最後の私へのバースデイプレゼント…。」
 風山からはあらゆる力が抜け、無力な棒と化していた。
「風山君は渡したい物があると言ってある場所に呼び出した…。もっと早く気付くべきだったね…、そこが涼ちゃんの家の前だって事を…。」
 朝を迎える事のない宵闇が二人を傍観している…、風山がやった事は全て記憶の中では確かな悪事だ。いや…、もはや悪事などと呼べる事では無いだろう…。
「俺は…。」
 いくら口を開こうが、岡本の迫力の前では子供と大人程の差が生じていた。
「風山君は情報は豊富だから、涼ちゃんの家ぐらい簡単に調べ上げれたでんでしょう?私は何も知らないから…、プレゼント何かなって…疑いもせずに出掛けたわ。あなたが約束した十一時頃、偶然ね涼ちゃんが家から出てきたわ…。でもそれは偶然なんかじゃないあなたにとっては予定通りの事、まさにあなたが考えた計画通り。」
「やめろ…。」
「笑って出てきた涼ちゃん…、あなた知っていたんでしょ?彼女がデートに行くって事を…、盗聴機まで使って…。…想像だけど、調べた時に一緒に仕掛けたんじゃない?」
「そんなっ…っ…はっ!」
「時限爆弾を作る方法もインターネットとかで調べたの?本当にみごとなタイミングで彼女の家は激しく燃えた…。まるで私が放火したみたいに…、完璧だった…。」
「違うっ!」
「涼は唖然としていたわ…、家を出てすぐに家が破裂音を響かせ燃え始めたら誰でもそうなるでしょうね…。タイミング良く居た私を見た瞬間の彼女が私を疑うのも当然、普通の火事じゃないもの、あなたは近くで見ていたんでしょ?」
「…っ。」
「今思えば計画はずっと前から練られていたんだなって思う…。夏休みに花火ばかり買い溜めしてたけど、アレを使ったんでしょ?あなたの計画通り…、私は涼の憎悪の的になった…。私は楽しみに待ってた。好きな人との初めての誕生日…あなたがどんなプレゼントをくれるか…嬉しくて…待ち遠しくて…。でも、あなたは始めから来る気なんてなかった。警察も真っ先に私を疑ったわ…。でも、ほとんど燃えて犯人につながる証拠は無くて私は状況証拠で最も怪しい人物というレッテルを貼られた…。涼ちゃんにも完全に誤解されて…、それがきっかけで私はいじめの標的になったわ。」
「そこまでわかっていたなら…、全て話せば良かったじゃないか。」
 友子は毅然とした表情に、恋する少女の様な柔らか味を含ませて言った。
「話せないよ…。」
 風山は自分に侮蔑の念を募らせ、彼女の話にただただ服従するしかない。
「例え話したとしても信じてもらえるとも思ってなかったし…何より私は本気だった。」
「…。」
「あなたは最低よ…救い様が無い程ね…。火事で涼ちゃんは家を失い、彼女の母親は今も入院中だし…。怒りと憎しみは全て私に向かってきたわ、何も語らない…否定せずにただ風山君が本当の事を言ってくれるのをひたすら待ち続けた…。でも、そんな日はくるはずなかった。あなたはいつの間にか名声を回復してイジメ側の人間になっていたわ、そして、さも自分はいじめられてなかった様に振る舞い、そして皆も涼に従って私を標的に変えた。次第に私が元々いじめられていた様に、皆それに慣れ親しんでいった。」
「…俺はお前を利用する気は…ただいじめの仕返しを…。」
「仕返し?あれが?わざわざ私達のデートの時間にまで合わせておいて?」
 彼女は再び笑った。もはや自分に好意を抱いていた時のそれとは次元が違う。
「本当にホラ風ねあなたは…、もう良いわ…。全部話したし…、それと一つ良い?私は永遠に死ぬ事にしたの、どうしようもないあなたとただ見てた人を殺す為に。」
「何を言って…。」
「あのね…お父さんを殺したのは私なんだ。その後私とお母さんは共に死んだわ…、醜くく焼け焦げた私に誰かささやいたのよ…。“お前は憎くないのか?いじめられたのは誰のせいだ?なぜ受験に失敗したんんだ?複数の男に強姦されてなぜ悔しくないのだ?クラスメイト全員がお前の敵だ…誰も味方しない…どうしてこんな事になった?やつらは何もなかった顔してのうのうと生き、幸せを吐き捨てるぐらい手に入れているんだぞ…?“って」
「それって…まさか…。」
 友子は高笑いした、人間性などない自分を完全に侮辱している…。
「私はそいつと約束したわ…、死に続ける事で存在を認めてもらう代わりにクラス全員の命を奪えって…。願っても無い契約だった…。」
「そんな約束本気でしたのか!?」
「うん…、だってあなた達を殺し苦しませれるのに異論なんて気にする程の事じゃないでしょ?さぁ…風山君…最後に選ばれた理由を噛み締めて…、ゆっくりで良いから。」
 友子は猫なで声でそう言って、ユラユラと風山に歩み寄って来た。彼は言われるまでも無く、最後である訳を後悔しながら石の様に固まってしまった。
「見て…私の顔…綺麗でしょ?白くて透き通っていて…火傷の後も無くて、目もほら…。」
 彼女はぐっと目を近付けた…、腐蝕され死んだ魚より濁った目。乾燥した皮膚が裂ける音、眉の上に引かれた鮮血のアイラインがミチミチと割れていく。もはやその音も彼の耳には届かない。キョロキョロと真新しいガラスの様な目が自分の目を射る…。

「~~っ~~っ!!」
 彼女の目の前にはかつて恋した者が凍りつく様な床に突っ伏していた、彼女は空虚の骨頂を痛感しながらそれを見下し続けた。夜が明ける…、部屋にはカーテンの隙間から光が射し込み、精神が死んでしまった風山だけを照らす…。長い夜はようやく終わりを告げた。
 あなたも同窓会があるだろう、勿論それは楽しい行事である事に違いない。しかし、誰でも人には言えない過去や思い出がある、それを抱えながら日々何事もないかの様に過ごしている。因果応報、自分した行いはいつか自分の所へ帰って来ると言う意味だ。
 もし、あなたのクラスでいじめがあれば実話になってしまうかもしれない。いや、いじめのない学校などもはや現代社会ではほとんど皆無と言って良いだろう。
 『傍観』とは参加していない立場ではない、無言の賛成だ。そして無言の否定でもある。
 だが、時としてそれは『観客』であり『加害者』にさえなるのだ。イジメは被害者のみが確定している事、故に加害者や傍観者がNOと言っても、被害者がYESなら全てYESなのだ。それがいじめと言う闇なのではないだろうか?
─終わり─
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