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弐 錦繍で彩る時
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黒い鴉が、鳴く。
物悲しそうに、ひたすら鳴く。
肌寒い風が、朱に染まった紅葉を揺らす。ゆらりゆらりと紅葉は舞った。
まるでそれが合図だったかのように鳴くのをやめた鴉は、ゆっくりと羽ばたき、その風に乗って飛んだ。その風は、鴉の姿が見えなくなってから暫くすると止んだ。
鴉も、山も、人も紅く照らしていた紅の世界は終わりを告げる。紺色の闇が一斉に空を覆い始め、紅の世界を飲み込んでいく。
紺の世界を照らす、丸い月。
淡く光る月は、己が存在を誇示することなく、ひっそりと佇んでいた。
その月が照らす、ある母屋の縁側に、一人の男が座っていた。
足元さえ見えなくなる暗さになれば、人は灯りを必要とする。しかし、そこには月光以外に灯りはなかった。
普段は油に火を灯しているのだが、この男の気分がそうさせなかったのだ。
母屋の奥から、小さな火を灯した行灯と上品な布がこすれる音が近づいてくる。
「源次郎」
女性の艶のある声で、縁側に座る者の名を呼ぶ。
その声に誘われて、名を呼ばれた者はゆっくりと振り返った。
彼の名は、真田左衛門佐信繁。
彼は短く「ん?」と返した。
家屋の影から月の光に照らされ出たのは、黒曜石のような髪を持つ女性。名を安岐と呼ぶ、信繁の妻だ。
「こんなところで何をしてるの?」
そう言いながら、そっと灯りを足元に置き、信繁に羽織を肩から掛けさせた。
そして、着物が崩れないように手で押さえながら、信繁の隣で膝を折り、正座をする。その二人の姿はごく普通のこと。違和感は全くない。
「あまりにも月が綺麗だったもんだから」
無精髭を生やした信繁は、顎を撫でながら月を見入る。
警戒心の欠片もない彼の様子に、安岐は溜息を吐いた。そして、「いつか暗殺されるよ?」と心配する言葉をかけるが、彼はニヒヒと笑いながら、「来い来い。俺が叩きのめしてやる」と笑い続ける。
彼は、その言葉に続けて、「それにここにはそんな物好きな輩はおらんだろうに」と言った。だが、その言葉は安岐には届いていないようだ。
彼は片手で打刀を抱えている。いつでも刀が抜けるように。
しかし、この屋敷に済んでから、今まで打刀を持っているところを見たことがなかったのだが。
どこからか得た打刀があれば、いざ、そのような場面に遭っても戦うことができるだろう。
しかし、彼女にとってそうではないのだ。生き残るために戦う、当たり前のことだが、言いたいことはそういうことではない。
「もう!」
彼女は語尾を強くして、そっぽを向いた。
この世は乱世。
明日も必ず生きていることは約束できない時代なのだ。戦が全ての世界。
そんな時代の中、徳川から恐れられている父を持っている為、名だけは知られている。
彼女にとって、自分の命よりも大切な人だからこそ心配をしているというのに。
どうしても苛立ちを隠すことができなかった。
貴方は、ここで死ぬべき人ではないのに。
「そう拗ねるな。なあ? 安岐姫」
いつもは安岐と呼ぶのに、まるで茶化すように姫付け。この人が安岐姫と言うと、何故か胡散臭く感じるてしまう。
信繁はいろんな言葉を投げかけるが、安岐は反応しない。何度名を呼んでも、安岐は信繁の方を向こうとしない。口も聞かない。聞いたとしても、「ふんっ」と会話にならないものばかり。
いつまでも臍を曲げる安岐の頭をぽんぽんと痛くないように叩いた。
「わたしは子供ではありませんっ」
思わず、安岐は信繁に目を移した。
するとそこには、ニヤニヤ笑う信繁の顔。
「やっとこっちを見たのぅ」
「あっ……!」
こんな安易な手に引っかかるとは。
安岐は未だに子供のような自分がいることに嫌気が差したが、いつまでも拗ね続けても仕方がない。むしろ終わり方をどうしようかと悩んでいたところだ。
信繁を一瞥し、一度深く息を吐いてから、心を落ち着かせる。
「源次郎。少しは歳を考えて。もう三十五よ?」
「いやいや、まだ三十五歳だ」
首を横に振り、安岐の言葉に訂正を入れる。
「んもう!不意を突かれたらどうするの⁉︎ 貴方はここで死ぬわけにはいかない、じゃない……」
「おいおい、泣かなくてもいいだろう?」
安岐の双眸から大きな涙が溢れ流れていた。
そのことに気づいていても、止めることができないのが涙である。安岐は袖で涙を拭いながら、信繁をずっと見つめた。
いっそのこと、信繁の手を取りたいと、右手がふわっと上がるが、すぐにそれは降ろされた。
女から男に触れようなど、誇り高き正室の者が盛りのついた獣のように感情任せに動いてはならない。
女として産まれた瞬間から、どんな時でも男を敬い、どんな状況でも冷静に、家族を支えていかなくてはならない。この身を夫の信繁と子供達の為に捧げる。
しかし、この男に関わると、どうも調子が狂う。
あれだけお母様とお父様の教えを忠実に覚え、こなしてきたというのに。
それなのに、源次郎を目の前にすると、どうして上手くいかないのだろうか。こんな時だからこそ、生きていく為の生活を守り、武士としての彼に尽くしていなければならないのに。
涙なんて流してから……みっともないわ……。
「安心しろ」
信繁は安岐にしか見せない顔を見せた。
その顔を見た瞬間、安岐は顔を背けた。今の顔を見せたくない。
お願いだから、優しくしないで……。
嗚咽が漏れないように、安岐は下唇を噛む。
そんな安岐の様子に、ふっと息を吐いた。
今度は無理に振り向かせようとせずに、信繁は言葉を続けた。
「俺はこんなところで死なんよ。俺の死に場所は他にあるしなぁ」
信繁は立ち上がると、裸足のまま外へ歩きだした。全く躊躇せずに、歩みを進める。
それに気づいた安岐は、思わず信繁の袖を掴み、引いた。
「源次郎! 草鞋も履かずに何を……!」
はっと我に返った安岐は、パッと袖を離した。
「よそよそしいのぅ」
「妻として恥じる行動をしてしまったので……」
謝ろうとした瞬間、信繁の言葉によって遮られた。
「利世はいつもそうだ」
何を考えたのか、信繁は安岐と呼ばずに利世と呼んだ。
呼ばれた刹那、安岐は顔を真っ赤にして、狼狽する。
「こんな時にその名で呼ばなくてもいいじゃない!」
「ん? 別に問題なかろう? 利世と寝る時に呼……」
耳まで紅に染まった安岐は、両手で信繁の口を押さえつけ、続けようとする言葉を遮ることに成功した。
恥ずかしくて顔から火が出る思いの安岐には力の加減ができないようで、思いきり押さえつけている。それに加えて、あまり見ずに押さえているものだから、鼻も一緒に塞がれている為、徐々に信繁の顔色が青くなっていく。
鼻と口を塞ぐ安岐の手首を掴む信繁の力が弱まったことに気づき、安岐は彼の青白くなった顔を見た。
そしてそこで、ようやく己の行動がやり過ぎたことに気づく。
悲鳴をあげながら慌てて手を離し、咳き込む信繁に抱きつきながら、必死に謝り続けた。
「源次郎ぉ! ごめんなさい!」
「うん、うん、もう、大丈夫だから……ゴホッ」
「でも、源次郎だって悪いのよ⁉︎ 急に利世って呼ぶから!」
「今、二人きりだから、そう変わらないだろうに」
「き、気持ちってのがあるじゃない! その名前は、その名前は……」
その続きが言えないようで、安岐はそのまま口をつむんだ。
しかし、信繁が躊躇いなく続く言葉を口にした。
「利世と体を重ねる時にしか使わないという約束だろ? たった今だって、俺ら以外にいないじゃないか」
何が違うんだと、信繁は不思議そうに首を捻る。
そんな信繁の胸に、安岐は渾身の力で叩き続ける。しかし、鍛え抜かれた体には痛みなど全くないようで、信繁は涼しい顔をし、笑っていた。
するとそこに、寄り添う二人に割って入るかの如く、風が吹いた。
あまりの寒さに安岐は身震いした。
そして、震える安岐の肩に、一枚の紅葉が止まる。
「もう体が冷える季節だな。中に入って体を温めよう」
月光が二人を照らす中、紅葉を摘み、それを安岐に差し出した。
ある部屋の奥から機で織る音が規則的に聞こえる。その音を聞いていると、手慣れている様子だ。
その機を扱っていたのは安岐だった。傍らに竹籠があり、その中には数え切れないほどの紐が置かれていた。
ただ黙々と、真田紐という紐を織る。
「あ、横糸にゴミが……」
と言いながら、横糸をピンと伸ばし、ゴミを摘み、綺麗にしてから、再度パタンパタンと糸を織り込んでいく。
そして、真田紐の端になると、沢山あるうちの二本の糸を使って、束になるように巻きつけ、固く結んだ。
長さも揃っていない糸を串で梳き、ハサミで切り、長さを揃えた。
また新しくできた真田紐を大事そうに整えて、竹籠へ収めた。
すると、遠くから近づいてくる慌ただしい足音。
こんな音を出すのは、この屋敷には一人だけ。
「安岐ー!」
スパーンッと気持ちがいいくらいに鳴る襖を開けた音。
そこから現れたのは、文を持った信繁の姿。表情は明るく、悪い話ではなさそうだが、安芸は心に引っかかりを覚えた。
「どうしたの?」
「兄上から文が届いてだなぁ」
そう言って、真田伊豆守信之と書いて締めくくっている文を広げた。
「はぁ」
ウキウキとする彼と打って変わって、安岐はそれがどうしたの?と言わんばかりに反応する。
「これと一緒に焼酎の壺が二個来たぞ‼︎」
ルンルンの信繁は、持っている文を天に掲げ、くるくるとその場で回る。
満面な笑顔で、どれだけ待ち望んでいた品かよく分かる。
ここに来てからどれほどの月日が経ったのか分からなくなる程、長い時間を過ごした。
ここでの生活は苦しくて、今日の食べ物を確保することがギリギリの状態である。毎日が飢えとの闘い。
収入といえば、安岐が織る真田紐だけ。他にもあるといえばあるが、あとの収入は毛が生えた程度である。
だからこそ、酒などの贅沢はできない。焼酎を手に入れるなど、夢のまた夢なのだ。
他に手に入る食材といえば、山に入れば山菜などが取れ、信繁が趣味である釣りで釣れる魚ぐらいだろうか。とは言っても、毎回釣れるわけでもなく、一日中釣りをして、たった小魚一匹しか釣れなかったということも珍しくない。
そんな生活の中で、信繁の兄である信之への手紙に、大好きな焼酎が飲みたいと書いた。毎日の暮らしの辛さと共に。
その彼の飄々とした性格のおかげで、躊躇せずに書き連ね、見事に信之の同情を誘ったわけである。
お目当てなものを手にして、子供のように喜ぶ信繁を見て、安芸もクスッと微笑んだ。
「よかったじゃない。ちゃんと伊豆守様にお礼しなきゃね」
そう言うと、信繁も合意を示し、ニカッと笑った。
一緒に月夜を愛でたあの夜、紅葉を差し出した信繁のその後を思い出していた。
『もう体が冷える季節だな。中に入って体を温めよう』
信繁は紅葉を簪のように安岐の髪に添えた。
黒髪に映える紅い紅葉。
そっと、安岐は紅葉に触れた。
そういえば、今までに信繁から贈り物されたことがあったっけ? と考えながら。
そうであっても、そうでなくても、暮らしの苦しさを考えれば、安岐への贈り物はこれくらいのことしか無理である。そのことも考えると、安岐は、この紅葉でも十分だと思った。
『紅葉も似合うじゃないか』
信繁はニッと笑うと、安岐の手を引いて中へと入ろうとした。
しかし、寸前に安岐に止められ、安岐は急ぎ足で寝床ではない方へと姿を消す。
信繁は促された通り、その場から一歩も動かなかった。
そして、帰ってきた安岐の手には一枚の手拭い。汚れ一つない、綺麗な手拭いだった。
安岐は膝を折り、水で濡らした手拭いで、土の付いた信繁の足を自ずからてきぱきと拭いていく。信繁が呆気にとられている間に拭き終わり、安岐はにっこりと笑った。
『これで大丈夫』
信繁の前から横へ移り、『さあ、上がって下さいな』と、信繁を屋敷の中へ招いた。
己に尽くしてくれる安岐の姿を改めて見て、信繁は『いつもすまないな』と呟くように言った。その顔は普段の明るい彼のものではなく、申し訳なさそうな表情をしていた。
そんな信繁に安岐は静かに後ろをついて行く。
ある障子を開けると、二枚の布団が敷かれていた。
配流した今の生活に布団がある方がおかしいのだが、もちろん、元々この屋敷に布団はなかったのだ。その状況に不憫に感じた信繁が様々な手段を用いて譲ってもらったと言う。
誰に貰ったのか、どんな手法を使ったのか、何一つ教えてはもらえないままだ。
信繁は、布団を寄せて、布団と布団の間をなくし、まず彼が布団に潜り込んでから安岐を手招きをした。とてもニコニコと、安岐の反応を面白そうに伺いながら。
『利世、早く来い来い』
『んなっ⁉︎』
この状態を見て安岐の頭の中に浮かぶのは、彼とは大人な関係である為、たった一つである。
顔を真っ赤に染め、安岐はぷいっと彼に背中を見せ、叫びながら早足で部屋を出て行った。
『て、手拭いを洗って、片付けてきますッ!』
いつまでも初々しい安岐の様子を見た信繁は、『相変わらず、分かりやすい奴だなぁ』とニヤニヤしながら呟いた。
手拭いを片付け、戻ってきた部屋の手前で、安岐は胸に手を当てて、必死に落ち着こうとしていた。しかし、手に伝わってくる鼓動はとても速く、一向に遅くなる気配がない。分かれば分かるほど速くなっているような気もしてくる。
半狂乱になりながらも、安岐は何度も深呼吸を繰り返した。
そして、何回目か分からない程の深呼吸をしていると、突然視界が開けた。というよりも、見慣れた人物が仁王立ちをしていた。
『いつまでもそこで何してんだ? 利世』
薄着になって、寝る気満々の姿の信繁。
『あ、いえ、し、深呼吸をば……』
〝ば〟……? 『深呼吸をば』の続きが気になるなぁ。
安岐の言葉に気になりながらも、信繁は少し強引に安岐を部屋の中へ引き、障子を閉めた。
そして、安岐の羽織っている着物を剥ぎ取り、薄着にする。
信繁は覆いかぶさるように布団と共に安岐を押し倒した。
『げ、源次郎! 心の準備が、心の準備ができてないんだけど!』
大袈裟に頭を横に振り、真っ赤な顔で、信繁に一時停止を懇願する。信繁が今から行うだろう行動が嫌なわけではない。ただ、あからさまなこの展開が恥ずかしくて仕方がないのだ。
彼女の心は爆発する寸前だった。
しかし、
『利世~、月夜を楽しんでいたら月見酒が飲みたくなるよな~~』
身震いをした信繁は寒いのか、ぴったりと安岐にくっ付いたまま、そう言った。確かにそう言った。
その瞬間、彼女は石にでもなったかのようにピタリと動かなくなった。真っ赤になっていた顔色もスーッと戻る。
安岐が想像していた展開とあまりにも異なっていた為、頭の中が疑問符で埋め尽くされていたのだ。
そして時間が経ち、我に返ると、恥ずかしい展開を考えていた己に嫌気が差し、深い溜息と共に信繁に背を向けた。
あの時、信繁は焼酎への思いが高ぶっていたのだろう。
月見酒と言ったが、どうせ酒を飲むなら好物の焼酎がいいだろうし、思い立った信繁の行動は何よりも早い。
焼酎が飲みたい! だが、金はない!
買えぬなら貰ってしまえ!
貰うなら、金を持っていて頼みやすい奴は兄上だな!
兄上は基本的に優しいし……、同情させるような言葉を添えて要求すれば、兄上のことだから贈ってくれるに違いない!
彼の思考はこんなところだろうか。
安易に思い浮かぶ信繁の姿に、安岐はクスッと笑った。
ふと気付けば、信繁は既にいなかった。
恐らく、兄への文を書こうと部屋に戻ったのだろう。
彼の部屋からガタガタと物を動かす音が聞こえる。
更に「墨~墨~」と墨を探す声も聞こえ、安岐は信繁の元へ歩いて行った。
九度山に閉じ込められ、日に日に憔悴していく信繁の父。
父は、一日中布団の中で過ごす。
いつの頃だろうか。立つことも、歩くこともしなくなった。
半開きな目は虚ろで、唇は乾き、滅多に話すことはない。口にすることはほとんどが後ろ向きな返答で、何を言っても心に響くことはなかった。むしろ、言えば言うだけ苦しめたのかもしれない。
そして、肉がかなり落ちた顔や体は骨が浮き出て、まるで骸骨を見ているようだ。体が大きかった父が、今では誰よりも小さく見える。
かつては徳川を二度も追い詰めた猛将として、日本中に名を知らしめた父が、ここまで弱気になり、体が痩せ細くなっている姿を誰が想像するだろうか。
その姿を見る度に信繁は、言葉にならないほど落ち込んでいた。
頭に浮かぶ父は、元気な姿で、優しい声をかけながら家族に歩み寄ってくれる。いつも家族を一番に考えてくれていた。それが普通だったし、これからもそうだと思っていた。
現実に呼び戻され、横になっている父を見る度に心が乱され、引き裂かれるような気持ちだった。
こんな父の姿なんて見たくない。
また父の隣で歩きたい。
口が悪い父は、たまに息子を悪く言うけれど、そんな憎まれ口をこれからも言ってほしい。
この世に留まることが辛いなら一層の事楽にしてあげたいと思うけれど、それでもまだ一緒に生きていたいからできなかった。
それでも、最近の信繁は元気にしている。子供が増え、大きくなっていく様を見ていると、自分はまだ〝生きて〟いかなければと、思っていた。
そんな信繁は、どこか振り切れたような表情をしていた。
だが、暮らしの苦しさは変わらず、満足はしていない。むしろ、父と同じように少しずつ痩せつつある。
それでも彼の目の奥は輝きを失っていなかった。
こんな自分でも機会さえあれば、まだ戦える。
だから……、
必ず、
ここから抜け出してやる。
物悲しそうに、ひたすら鳴く。
肌寒い風が、朱に染まった紅葉を揺らす。ゆらりゆらりと紅葉は舞った。
まるでそれが合図だったかのように鳴くのをやめた鴉は、ゆっくりと羽ばたき、その風に乗って飛んだ。その風は、鴉の姿が見えなくなってから暫くすると止んだ。
鴉も、山も、人も紅く照らしていた紅の世界は終わりを告げる。紺色の闇が一斉に空を覆い始め、紅の世界を飲み込んでいく。
紺の世界を照らす、丸い月。
淡く光る月は、己が存在を誇示することなく、ひっそりと佇んでいた。
その月が照らす、ある母屋の縁側に、一人の男が座っていた。
足元さえ見えなくなる暗さになれば、人は灯りを必要とする。しかし、そこには月光以外に灯りはなかった。
普段は油に火を灯しているのだが、この男の気分がそうさせなかったのだ。
母屋の奥から、小さな火を灯した行灯と上品な布がこすれる音が近づいてくる。
「源次郎」
女性の艶のある声で、縁側に座る者の名を呼ぶ。
その声に誘われて、名を呼ばれた者はゆっくりと振り返った。
彼の名は、真田左衛門佐信繁。
彼は短く「ん?」と返した。
家屋の影から月の光に照らされ出たのは、黒曜石のような髪を持つ女性。名を安岐と呼ぶ、信繁の妻だ。
「こんなところで何をしてるの?」
そう言いながら、そっと灯りを足元に置き、信繁に羽織を肩から掛けさせた。
そして、着物が崩れないように手で押さえながら、信繁の隣で膝を折り、正座をする。その二人の姿はごく普通のこと。違和感は全くない。
「あまりにも月が綺麗だったもんだから」
無精髭を生やした信繁は、顎を撫でながら月を見入る。
警戒心の欠片もない彼の様子に、安岐は溜息を吐いた。そして、「いつか暗殺されるよ?」と心配する言葉をかけるが、彼はニヒヒと笑いながら、「来い来い。俺が叩きのめしてやる」と笑い続ける。
彼は、その言葉に続けて、「それにここにはそんな物好きな輩はおらんだろうに」と言った。だが、その言葉は安岐には届いていないようだ。
彼は片手で打刀を抱えている。いつでも刀が抜けるように。
しかし、この屋敷に済んでから、今まで打刀を持っているところを見たことがなかったのだが。
どこからか得た打刀があれば、いざ、そのような場面に遭っても戦うことができるだろう。
しかし、彼女にとってそうではないのだ。生き残るために戦う、当たり前のことだが、言いたいことはそういうことではない。
「もう!」
彼女は語尾を強くして、そっぽを向いた。
この世は乱世。
明日も必ず生きていることは約束できない時代なのだ。戦が全ての世界。
そんな時代の中、徳川から恐れられている父を持っている為、名だけは知られている。
彼女にとって、自分の命よりも大切な人だからこそ心配をしているというのに。
どうしても苛立ちを隠すことができなかった。
貴方は、ここで死ぬべき人ではないのに。
「そう拗ねるな。なあ? 安岐姫」
いつもは安岐と呼ぶのに、まるで茶化すように姫付け。この人が安岐姫と言うと、何故か胡散臭く感じるてしまう。
信繁はいろんな言葉を投げかけるが、安岐は反応しない。何度名を呼んでも、安岐は信繁の方を向こうとしない。口も聞かない。聞いたとしても、「ふんっ」と会話にならないものばかり。
いつまでも臍を曲げる安岐の頭をぽんぽんと痛くないように叩いた。
「わたしは子供ではありませんっ」
思わず、安岐は信繁に目を移した。
するとそこには、ニヤニヤ笑う信繁の顔。
「やっとこっちを見たのぅ」
「あっ……!」
こんな安易な手に引っかかるとは。
安岐は未だに子供のような自分がいることに嫌気が差したが、いつまでも拗ね続けても仕方がない。むしろ終わり方をどうしようかと悩んでいたところだ。
信繁を一瞥し、一度深く息を吐いてから、心を落ち着かせる。
「源次郎。少しは歳を考えて。もう三十五よ?」
「いやいや、まだ三十五歳だ」
首を横に振り、安岐の言葉に訂正を入れる。
「んもう!不意を突かれたらどうするの⁉︎ 貴方はここで死ぬわけにはいかない、じゃない……」
「おいおい、泣かなくてもいいだろう?」
安岐の双眸から大きな涙が溢れ流れていた。
そのことに気づいていても、止めることができないのが涙である。安岐は袖で涙を拭いながら、信繁をずっと見つめた。
いっそのこと、信繁の手を取りたいと、右手がふわっと上がるが、すぐにそれは降ろされた。
女から男に触れようなど、誇り高き正室の者が盛りのついた獣のように感情任せに動いてはならない。
女として産まれた瞬間から、どんな時でも男を敬い、どんな状況でも冷静に、家族を支えていかなくてはならない。この身を夫の信繁と子供達の為に捧げる。
しかし、この男に関わると、どうも調子が狂う。
あれだけお母様とお父様の教えを忠実に覚え、こなしてきたというのに。
それなのに、源次郎を目の前にすると、どうして上手くいかないのだろうか。こんな時だからこそ、生きていく為の生活を守り、武士としての彼に尽くしていなければならないのに。
涙なんて流してから……みっともないわ……。
「安心しろ」
信繁は安岐にしか見せない顔を見せた。
その顔を見た瞬間、安岐は顔を背けた。今の顔を見せたくない。
お願いだから、優しくしないで……。
嗚咽が漏れないように、安岐は下唇を噛む。
そんな安岐の様子に、ふっと息を吐いた。
今度は無理に振り向かせようとせずに、信繁は言葉を続けた。
「俺はこんなところで死なんよ。俺の死に場所は他にあるしなぁ」
信繁は立ち上がると、裸足のまま外へ歩きだした。全く躊躇せずに、歩みを進める。
それに気づいた安岐は、思わず信繁の袖を掴み、引いた。
「源次郎! 草鞋も履かずに何を……!」
はっと我に返った安岐は、パッと袖を離した。
「よそよそしいのぅ」
「妻として恥じる行動をしてしまったので……」
謝ろうとした瞬間、信繁の言葉によって遮られた。
「利世はいつもそうだ」
何を考えたのか、信繁は安岐と呼ばずに利世と呼んだ。
呼ばれた刹那、安岐は顔を真っ赤にして、狼狽する。
「こんな時にその名で呼ばなくてもいいじゃない!」
「ん? 別に問題なかろう? 利世と寝る時に呼……」
耳まで紅に染まった安岐は、両手で信繁の口を押さえつけ、続けようとする言葉を遮ることに成功した。
恥ずかしくて顔から火が出る思いの安岐には力の加減ができないようで、思いきり押さえつけている。それに加えて、あまり見ずに押さえているものだから、鼻も一緒に塞がれている為、徐々に信繁の顔色が青くなっていく。
鼻と口を塞ぐ安岐の手首を掴む信繁の力が弱まったことに気づき、安岐は彼の青白くなった顔を見た。
そしてそこで、ようやく己の行動がやり過ぎたことに気づく。
悲鳴をあげながら慌てて手を離し、咳き込む信繁に抱きつきながら、必死に謝り続けた。
「源次郎ぉ! ごめんなさい!」
「うん、うん、もう、大丈夫だから……ゴホッ」
「でも、源次郎だって悪いのよ⁉︎ 急に利世って呼ぶから!」
「今、二人きりだから、そう変わらないだろうに」
「き、気持ちってのがあるじゃない! その名前は、その名前は……」
その続きが言えないようで、安岐はそのまま口をつむんだ。
しかし、信繁が躊躇いなく続く言葉を口にした。
「利世と体を重ねる時にしか使わないという約束だろ? たった今だって、俺ら以外にいないじゃないか」
何が違うんだと、信繁は不思議そうに首を捻る。
そんな信繁の胸に、安岐は渾身の力で叩き続ける。しかし、鍛え抜かれた体には痛みなど全くないようで、信繁は涼しい顔をし、笑っていた。
するとそこに、寄り添う二人に割って入るかの如く、風が吹いた。
あまりの寒さに安岐は身震いした。
そして、震える安岐の肩に、一枚の紅葉が止まる。
「もう体が冷える季節だな。中に入って体を温めよう」
月光が二人を照らす中、紅葉を摘み、それを安岐に差し出した。
ある部屋の奥から機で織る音が規則的に聞こえる。その音を聞いていると、手慣れている様子だ。
その機を扱っていたのは安岐だった。傍らに竹籠があり、その中には数え切れないほどの紐が置かれていた。
ただ黙々と、真田紐という紐を織る。
「あ、横糸にゴミが……」
と言いながら、横糸をピンと伸ばし、ゴミを摘み、綺麗にしてから、再度パタンパタンと糸を織り込んでいく。
そして、真田紐の端になると、沢山あるうちの二本の糸を使って、束になるように巻きつけ、固く結んだ。
長さも揃っていない糸を串で梳き、ハサミで切り、長さを揃えた。
また新しくできた真田紐を大事そうに整えて、竹籠へ収めた。
すると、遠くから近づいてくる慌ただしい足音。
こんな音を出すのは、この屋敷には一人だけ。
「安岐ー!」
スパーンッと気持ちがいいくらいに鳴る襖を開けた音。
そこから現れたのは、文を持った信繁の姿。表情は明るく、悪い話ではなさそうだが、安芸は心に引っかかりを覚えた。
「どうしたの?」
「兄上から文が届いてだなぁ」
そう言って、真田伊豆守信之と書いて締めくくっている文を広げた。
「はぁ」
ウキウキとする彼と打って変わって、安岐はそれがどうしたの?と言わんばかりに反応する。
「これと一緒に焼酎の壺が二個来たぞ‼︎」
ルンルンの信繁は、持っている文を天に掲げ、くるくるとその場で回る。
満面な笑顔で、どれだけ待ち望んでいた品かよく分かる。
ここに来てからどれほどの月日が経ったのか分からなくなる程、長い時間を過ごした。
ここでの生活は苦しくて、今日の食べ物を確保することがギリギリの状態である。毎日が飢えとの闘い。
収入といえば、安岐が織る真田紐だけ。他にもあるといえばあるが、あとの収入は毛が生えた程度である。
だからこそ、酒などの贅沢はできない。焼酎を手に入れるなど、夢のまた夢なのだ。
他に手に入る食材といえば、山に入れば山菜などが取れ、信繁が趣味である釣りで釣れる魚ぐらいだろうか。とは言っても、毎回釣れるわけでもなく、一日中釣りをして、たった小魚一匹しか釣れなかったということも珍しくない。
そんな生活の中で、信繁の兄である信之への手紙に、大好きな焼酎が飲みたいと書いた。毎日の暮らしの辛さと共に。
その彼の飄々とした性格のおかげで、躊躇せずに書き連ね、見事に信之の同情を誘ったわけである。
お目当てなものを手にして、子供のように喜ぶ信繁を見て、安芸もクスッと微笑んだ。
「よかったじゃない。ちゃんと伊豆守様にお礼しなきゃね」
そう言うと、信繁も合意を示し、ニカッと笑った。
一緒に月夜を愛でたあの夜、紅葉を差し出した信繁のその後を思い出していた。
『もう体が冷える季節だな。中に入って体を温めよう』
信繁は紅葉を簪のように安岐の髪に添えた。
黒髪に映える紅い紅葉。
そっと、安岐は紅葉に触れた。
そういえば、今までに信繁から贈り物されたことがあったっけ? と考えながら。
そうであっても、そうでなくても、暮らしの苦しさを考えれば、安岐への贈り物はこれくらいのことしか無理である。そのことも考えると、安岐は、この紅葉でも十分だと思った。
『紅葉も似合うじゃないか』
信繁はニッと笑うと、安岐の手を引いて中へと入ろうとした。
しかし、寸前に安岐に止められ、安岐は急ぎ足で寝床ではない方へと姿を消す。
信繁は促された通り、その場から一歩も動かなかった。
そして、帰ってきた安岐の手には一枚の手拭い。汚れ一つない、綺麗な手拭いだった。
安岐は膝を折り、水で濡らした手拭いで、土の付いた信繁の足を自ずからてきぱきと拭いていく。信繁が呆気にとられている間に拭き終わり、安岐はにっこりと笑った。
『これで大丈夫』
信繁の前から横へ移り、『さあ、上がって下さいな』と、信繁を屋敷の中へ招いた。
己に尽くしてくれる安岐の姿を改めて見て、信繁は『いつもすまないな』と呟くように言った。その顔は普段の明るい彼のものではなく、申し訳なさそうな表情をしていた。
そんな信繁に安岐は静かに後ろをついて行く。
ある障子を開けると、二枚の布団が敷かれていた。
配流した今の生活に布団がある方がおかしいのだが、もちろん、元々この屋敷に布団はなかったのだ。その状況に不憫に感じた信繁が様々な手段を用いて譲ってもらったと言う。
誰に貰ったのか、どんな手法を使ったのか、何一つ教えてはもらえないままだ。
信繁は、布団を寄せて、布団と布団の間をなくし、まず彼が布団に潜り込んでから安岐を手招きをした。とてもニコニコと、安岐の反応を面白そうに伺いながら。
『利世、早く来い来い』
『んなっ⁉︎』
この状態を見て安岐の頭の中に浮かぶのは、彼とは大人な関係である為、たった一つである。
顔を真っ赤に染め、安岐はぷいっと彼に背中を見せ、叫びながら早足で部屋を出て行った。
『て、手拭いを洗って、片付けてきますッ!』
いつまでも初々しい安岐の様子を見た信繁は、『相変わらず、分かりやすい奴だなぁ』とニヤニヤしながら呟いた。
手拭いを片付け、戻ってきた部屋の手前で、安岐は胸に手を当てて、必死に落ち着こうとしていた。しかし、手に伝わってくる鼓動はとても速く、一向に遅くなる気配がない。分かれば分かるほど速くなっているような気もしてくる。
半狂乱になりながらも、安岐は何度も深呼吸を繰り返した。
そして、何回目か分からない程の深呼吸をしていると、突然視界が開けた。というよりも、見慣れた人物が仁王立ちをしていた。
『いつまでもそこで何してんだ? 利世』
薄着になって、寝る気満々の姿の信繁。
『あ、いえ、し、深呼吸をば……』
〝ば〟……? 『深呼吸をば』の続きが気になるなぁ。
安岐の言葉に気になりながらも、信繁は少し強引に安岐を部屋の中へ引き、障子を閉めた。
そして、安岐の羽織っている着物を剥ぎ取り、薄着にする。
信繁は覆いかぶさるように布団と共に安岐を押し倒した。
『げ、源次郎! 心の準備が、心の準備ができてないんだけど!』
大袈裟に頭を横に振り、真っ赤な顔で、信繁に一時停止を懇願する。信繁が今から行うだろう行動が嫌なわけではない。ただ、あからさまなこの展開が恥ずかしくて仕方がないのだ。
彼女の心は爆発する寸前だった。
しかし、
『利世~、月夜を楽しんでいたら月見酒が飲みたくなるよな~~』
身震いをした信繁は寒いのか、ぴったりと安岐にくっ付いたまま、そう言った。確かにそう言った。
その瞬間、彼女は石にでもなったかのようにピタリと動かなくなった。真っ赤になっていた顔色もスーッと戻る。
安岐が想像していた展開とあまりにも異なっていた為、頭の中が疑問符で埋め尽くされていたのだ。
そして時間が経ち、我に返ると、恥ずかしい展開を考えていた己に嫌気が差し、深い溜息と共に信繁に背を向けた。
あの時、信繁は焼酎への思いが高ぶっていたのだろう。
月見酒と言ったが、どうせ酒を飲むなら好物の焼酎がいいだろうし、思い立った信繁の行動は何よりも早い。
焼酎が飲みたい! だが、金はない!
買えぬなら貰ってしまえ!
貰うなら、金を持っていて頼みやすい奴は兄上だな!
兄上は基本的に優しいし……、同情させるような言葉を添えて要求すれば、兄上のことだから贈ってくれるに違いない!
彼の思考はこんなところだろうか。
安易に思い浮かぶ信繁の姿に、安岐はクスッと笑った。
ふと気付けば、信繁は既にいなかった。
恐らく、兄への文を書こうと部屋に戻ったのだろう。
彼の部屋からガタガタと物を動かす音が聞こえる。
更に「墨~墨~」と墨を探す声も聞こえ、安岐は信繁の元へ歩いて行った。
九度山に閉じ込められ、日に日に憔悴していく信繁の父。
父は、一日中布団の中で過ごす。
いつの頃だろうか。立つことも、歩くこともしなくなった。
半開きな目は虚ろで、唇は乾き、滅多に話すことはない。口にすることはほとんどが後ろ向きな返答で、何を言っても心に響くことはなかった。むしろ、言えば言うだけ苦しめたのかもしれない。
そして、肉がかなり落ちた顔や体は骨が浮き出て、まるで骸骨を見ているようだ。体が大きかった父が、今では誰よりも小さく見える。
かつては徳川を二度も追い詰めた猛将として、日本中に名を知らしめた父が、ここまで弱気になり、体が痩せ細くなっている姿を誰が想像するだろうか。
その姿を見る度に信繁は、言葉にならないほど落ち込んでいた。
頭に浮かぶ父は、元気な姿で、優しい声をかけながら家族に歩み寄ってくれる。いつも家族を一番に考えてくれていた。それが普通だったし、これからもそうだと思っていた。
現実に呼び戻され、横になっている父を見る度に心が乱され、引き裂かれるような気持ちだった。
こんな父の姿なんて見たくない。
また父の隣で歩きたい。
口が悪い父は、たまに息子を悪く言うけれど、そんな憎まれ口をこれからも言ってほしい。
この世に留まることが辛いなら一層の事楽にしてあげたいと思うけれど、それでもまだ一緒に生きていたいからできなかった。
それでも、最近の信繁は元気にしている。子供が増え、大きくなっていく様を見ていると、自分はまだ〝生きて〟いかなければと、思っていた。
そんな信繁は、どこか振り切れたような表情をしていた。
だが、暮らしの苦しさは変わらず、満足はしていない。むしろ、父と同じように少しずつ痩せつつある。
それでも彼の目の奥は輝きを失っていなかった。
こんな自分でも機会さえあれば、まだ戦える。
だから……、
必ず、
ここから抜け出してやる。
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