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第四章 ドアの鍵は君が持っている
8 君のもの
しおりを挟む 「!」
今まで使っていた楽器にない違和感を覚える。唇にフィットし過ぎず、若干の抵抗感があるのだ。本当に若干。この微妙な差がポイントなのだと思う。
小さな穴に息を吹き込む。
違いは、すぐにわかった。
音の立ち上がりがはっきりとしていて、無駄な空気の音がない。音色の厚みが増して、響きも広がる。
こんなにまとまった音を出せるとは思ってもいなかったので、自分自身が一番驚いた。
まるで体と楽器が共鳴しているかのよう。音を出すたびに体の芯がじんじんと震える。ちゃんと音が当たっている証拠だ。
もしかして、リッププレートの抵抗感がそうさせているのか。
ふむと言わんばかりに、福岡くんは私の出す音に耳を傾けた。
「聴いている方としては音は良いけど、演奏する側として音が出しにくくないですか?」
「…………」
私は開けっぱなしの口から言葉が出ないまま、ひたすら彼を見つめる。言葉にならない感情をどう表現しようか。
「眞野さん?」
不安げな表情になる彼を見つめたまま、一旦楽器をゆっくりテーブルに置いた。傷をつけないように。転がってしまわないように。
わなわなと震える体。その体の内側で噴火しそうな感情を抑制する。
なにかを察した彼は、キュッと眉を寄せ、再び名前を呼んだ。
「眞野さん、もしかして吹きづらかったですかね……?」
「いーーーーえ!」ガシッと、彼の両手を掴む。
「すっっっっっっごく良いよ!」
ぶんぶんと上下に振って、今までに感じたことのない、音を出した瞬間の感覚を表現する。
「私、ずっと初心者向けのモデルを使ってたんだけど……なにが違うの? 私のもハンドメイドだったけど、SRモデルもそうだよね⁉︎」
「そうですね。モデルの違いがあるとしたら、グレードによって洋銀製か総銀製か……一番わかりやすいのはその辺りでしょうか。ちなみにSRは総銀製ですね」
「楽器に使われている銀の量……⁉︎ 銀のなせる技なのかぁ! 凄く音が出しやすい! 感動どころじゃないよぅ‼︎」
「気に入ってもらえたなら嬉しいです」
「なにこれなにこれなにこれ……! いや、ただの楽器なんだけど……いやいやいや、ただの楽器じゃないよね。これって、やっぱりshow先生とか福岡くんも吹いた楽器?」
「あー、こっちのは先生のお下がりじゃないんで、俺しか吹き込んでないです」
「ええええ! 本当? 癖が強い演奏者が使った楽器って吹きにくくなるもんだけど、こんだけ吹きやすいってことは……」
ジッと彼を見つめる。もうキラキラとした眼差しで。
「な、なんですか?」
テンションの高い私に引いてることにも気づかず、私は腕をブンブンと振った。
「福岡くんがすっっっっっっごくフルートが上手だってことだよ!」
ニッコリ。自然に笑顔が出た。
彼も驚いたように少し目を大きくしたが、すぐに目を細くし、微笑み返してくれた。私の褒め言葉を、素直に受け取ってくれたように。
「凄く楽しい……もっと吹きたいって思う楽器は初めて」
「じゃあ相性が良いなら、その楽器でいきますか。日付が変わっちゃったし、今日はもう寝て、また明日の朝から頑張りましょ」
「うん! そうだね。明日早く起きなくちゃ」
彼の言う通り、私もこの楽器との相性が良いと思った。
ここまで相性がよければ、明後日の本番はどうにかなるかもしれない。
とはいっても、実質練習できる日は、たった一日。不安は拭いきれない。
でも、高まる鼓動。ドキドキとワクワクが止まらない。
こうやって新しい楽器に触れ合うと、また楽器が欲しくなっちゃう。お父さんに買ってもらったフルートが直らないだろうから、たぶん買うようにはなるだろうけど。
次に買うメーカーを同じムラアツにするのもいいけど、今、福岡くんが使ってるアルトスも吹いてみたいなぁ。
こんな時に楽しみができちゃうとは思わなかった。胸元がほかほかして温かい。
「ふわぁ~楽しい~」余韻に浸っていると、申し訳なさそうに声を掛けられる。
「あの」
「はい?」
「手、離してもらってもいいですか」
楽器を片付けたいんで。
そう言われて赤面し、パッと手を離した。
「ごめんなさい」
即、土下座。
今まで使っていた楽器にない違和感を覚える。唇にフィットし過ぎず、若干の抵抗感があるのだ。本当に若干。この微妙な差がポイントなのだと思う。
小さな穴に息を吹き込む。
違いは、すぐにわかった。
音の立ち上がりがはっきりとしていて、無駄な空気の音がない。音色の厚みが増して、響きも広がる。
こんなにまとまった音を出せるとは思ってもいなかったので、自分自身が一番驚いた。
まるで体と楽器が共鳴しているかのよう。音を出すたびに体の芯がじんじんと震える。ちゃんと音が当たっている証拠だ。
もしかして、リッププレートの抵抗感がそうさせているのか。
ふむと言わんばかりに、福岡くんは私の出す音に耳を傾けた。
「聴いている方としては音は良いけど、演奏する側として音が出しにくくないですか?」
「…………」
私は開けっぱなしの口から言葉が出ないまま、ひたすら彼を見つめる。言葉にならない感情をどう表現しようか。
「眞野さん?」
不安げな表情になる彼を見つめたまま、一旦楽器をゆっくりテーブルに置いた。傷をつけないように。転がってしまわないように。
わなわなと震える体。その体の内側で噴火しそうな感情を抑制する。
なにかを察した彼は、キュッと眉を寄せ、再び名前を呼んだ。
「眞野さん、もしかして吹きづらかったですかね……?」
「いーーーーえ!」ガシッと、彼の両手を掴む。
「すっっっっっっごく良いよ!」
ぶんぶんと上下に振って、今までに感じたことのない、音を出した瞬間の感覚を表現する。
「私、ずっと初心者向けのモデルを使ってたんだけど……なにが違うの? 私のもハンドメイドだったけど、SRモデルもそうだよね⁉︎」
「そうですね。モデルの違いがあるとしたら、グレードによって洋銀製か総銀製か……一番わかりやすいのはその辺りでしょうか。ちなみにSRは総銀製ですね」
「楽器に使われている銀の量……⁉︎ 銀のなせる技なのかぁ! 凄く音が出しやすい! 感動どころじゃないよぅ‼︎」
「気に入ってもらえたなら嬉しいです」
「なにこれなにこれなにこれ……! いや、ただの楽器なんだけど……いやいやいや、ただの楽器じゃないよね。これって、やっぱりshow先生とか福岡くんも吹いた楽器?」
「あー、こっちのは先生のお下がりじゃないんで、俺しか吹き込んでないです」
「ええええ! 本当? 癖が強い演奏者が使った楽器って吹きにくくなるもんだけど、こんだけ吹きやすいってことは……」
ジッと彼を見つめる。もうキラキラとした眼差しで。
「な、なんですか?」
テンションの高い私に引いてることにも気づかず、私は腕をブンブンと振った。
「福岡くんがすっっっっっっごくフルートが上手だってことだよ!」
ニッコリ。自然に笑顔が出た。
彼も驚いたように少し目を大きくしたが、すぐに目を細くし、微笑み返してくれた。私の褒め言葉を、素直に受け取ってくれたように。
「凄く楽しい……もっと吹きたいって思う楽器は初めて」
「じゃあ相性が良いなら、その楽器でいきますか。日付が変わっちゃったし、今日はもう寝て、また明日の朝から頑張りましょ」
「うん! そうだね。明日早く起きなくちゃ」
彼の言う通り、私もこの楽器との相性が良いと思った。
ここまで相性がよければ、明後日の本番はどうにかなるかもしれない。
とはいっても、実質練習できる日は、たった一日。不安は拭いきれない。
でも、高まる鼓動。ドキドキとワクワクが止まらない。
こうやって新しい楽器に触れ合うと、また楽器が欲しくなっちゃう。お父さんに買ってもらったフルートが直らないだろうから、たぶん買うようにはなるだろうけど。
次に買うメーカーを同じムラアツにするのもいいけど、今、福岡くんが使ってるアルトスも吹いてみたいなぁ。
こんな時に楽しみができちゃうとは思わなかった。胸元がほかほかして温かい。
「ふわぁ~楽しい~」余韻に浸っていると、申し訳なさそうに声を掛けられる。
「あの」
「はい?」
「手、離してもらってもいいですか」
楽器を片付けたいんで。
そう言われて赤面し、パッと手を離した。
「ごめんなさい」
即、土下座。
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