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第三章
五十二話 唇
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■□■□
夜雪視点
街中を駆け巡っている夜雪のシルバーヘアが、隣の男になびく。へらへらと余裕な表情を浮かべるサクトだ。
「防犯カメラの映像をジャックして分析してるけど、やっぱり見当たらないね。参ったな」
「兄様が黙って出て行く真似はしませんわ。誘拐された筋が濃厚ではありませんでして」
「かもね。【レグルス女学院】側が大人しくしている訳もないだろうし。チープな作戦だよ、まったく」
瞬間、眼前に何者かの影が現れる。
黒子色の胴体。なんと、【ヴラーク】が数体立ち塞がった。
夜雪の視線が険しいものへ変わる。
二人が街中を走り抜けてた理由――それは、突如として【ヴラーク】が出現したため。間が悪過ぎる。
夜雪が刃を構えた矢先。視界の端に現れた、巨大な黒球体が彼らを飲み込んでしまった。
膨大な音とともに、瓦礫と化したビルが崩壊し、土埃が舞った。
「黒城さんの妹さんですね」
不意に、夜雪を名指しした声。舞っている埃の向こう側から発せられたらしい。
えぇ、と躊躇いながらも夜雪が返事をする。声の主が、煙の中から姿を現した。
スカイブルーの髪色が、眼鏡の縁に反射している。知性が染み付いたかのような顔付き。
あっ、と夜雪が言葉を漏らす。【アルカディア魔学園】生徒会長。
合同遠征の際に、顔だけは目にしたことがある。
「兄様のことをご存知であれば、居場所も知っていますこと?」
唯一ランク七に到達した鬼才。
手元にある情報を繋ぎ合わせると、恐ろしいほどに逸材であることが分かる。
「いいや、私は振られたみたいです。生憎と存じ上げては居ません」
「振られた……でして?」
「ほら、すぐ嫉妬するんじゃないよ、夜雪君」
サクトが茶々を入れてくるが、夜雪は聞き流す。疑わしそうな瞳を蒼冥に向けると、軽く微笑み返された。
「言い方に語弊があったようですね。正確には、ランク争奪戦のペアに指名したんです。まぁ、彼は来ませんでしたが」
――【ヴラーク】の出現によってランク争奪戦が中断。【アルカディア魔学園】が優勢だったのですが、と蒼冥は愚痴を溢すように呟いた。
「こちらも手が少ない。手伝ってはくれませんか?」
サクトに目を向ける。どのみち、守りながらでは暗翔の行方など探し切れないだろう。
納得げにサクトが頷く。夜雪が蒼冥に振り向いた。
「承知しましたわ。一旦、連れを安全なところに置いてからでも良いでして?」
夜雪の申し出を了承した蒼冥が、【アルカディア魔学園】内にサクトを避難させた。
二人は街中を駆け抜けながら、【ヴラーク】を殲滅していく。遠くで、命の鍔迫り合いをしている戦闘音が、鼓膜に張り付いた。
頭上に現れた【ヴラーク】を蒼冥が撃破。周囲に散乱していた残党を夜雪が、真っ二つに薙っていく。
「暗翔君が持っていた能力。あれは初代【ヴラーク】のものではありませんか?」
夜雪視点
街中を駆け巡っている夜雪のシルバーヘアが、隣の男になびく。へらへらと余裕な表情を浮かべるサクトだ。
「防犯カメラの映像をジャックして分析してるけど、やっぱり見当たらないね。参ったな」
「兄様が黙って出て行く真似はしませんわ。誘拐された筋が濃厚ではありませんでして」
「かもね。【レグルス女学院】側が大人しくしている訳もないだろうし。チープな作戦だよ、まったく」
瞬間、眼前に何者かの影が現れる。
黒子色の胴体。なんと、【ヴラーク】が数体立ち塞がった。
夜雪の視線が険しいものへ変わる。
二人が街中を走り抜けてた理由――それは、突如として【ヴラーク】が出現したため。間が悪過ぎる。
夜雪が刃を構えた矢先。視界の端に現れた、巨大な黒球体が彼らを飲み込んでしまった。
膨大な音とともに、瓦礫と化したビルが崩壊し、土埃が舞った。
「黒城さんの妹さんですね」
不意に、夜雪を名指しした声。舞っている埃の向こう側から発せられたらしい。
えぇ、と躊躇いながらも夜雪が返事をする。声の主が、煙の中から姿を現した。
スカイブルーの髪色が、眼鏡の縁に反射している。知性が染み付いたかのような顔付き。
あっ、と夜雪が言葉を漏らす。【アルカディア魔学園】生徒会長。
合同遠征の際に、顔だけは目にしたことがある。
「兄様のことをご存知であれば、居場所も知っていますこと?」
唯一ランク七に到達した鬼才。
手元にある情報を繋ぎ合わせると、恐ろしいほどに逸材であることが分かる。
「いいや、私は振られたみたいです。生憎と存じ上げては居ません」
「振られた……でして?」
「ほら、すぐ嫉妬するんじゃないよ、夜雪君」
サクトが茶々を入れてくるが、夜雪は聞き流す。疑わしそうな瞳を蒼冥に向けると、軽く微笑み返された。
「言い方に語弊があったようですね。正確には、ランク争奪戦のペアに指名したんです。まぁ、彼は来ませんでしたが」
――【ヴラーク】の出現によってランク争奪戦が中断。【アルカディア魔学園】が優勢だったのですが、と蒼冥は愚痴を溢すように呟いた。
「こちらも手が少ない。手伝ってはくれませんか?」
サクトに目を向ける。どのみち、守りながらでは暗翔の行方など探し切れないだろう。
納得げにサクトが頷く。夜雪が蒼冥に振り向いた。
「承知しましたわ。一旦、連れを安全なところに置いてからでも良いでして?」
夜雪の申し出を了承した蒼冥が、【アルカディア魔学園】内にサクトを避難させた。
二人は街中を駆け抜けながら、【ヴラーク】を殲滅していく。遠くで、命の鍔迫り合いをしている戦闘音が、鼓膜に張り付いた。
頭上に現れた【ヴラーク】を蒼冥が撃破。周囲に散乱していた残党を夜雪が、真っ二つに薙っていく。
「暗翔君が持っていた能力。あれは初代【ヴラーク】のものではありませんか?」
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