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第二章
四十三話 重大な指令
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耳にデバイスを当てると、聴き慣れたキザな声色が返ってきた。
「こんにちは……いや、こんばんは、かな? 暗翔君」
「普通の回線を使っての連絡か。用件は?」
「どうやら、面白い展開になっているらしいね。【レグルス女学院】と【アルカディア魔学園】のランク争奪戦は、君が裏で糸を引いてるのかな?」
察しがいい。否――この男は分かった上で質問しているのだろう。暗翔の反応を楽しみたいという側面が昔からある。
「挨拶返しってところか?」
「それは夜雪君に関することだろう?」
まるで微風が吹き抜けるかのように、男が事実を示した。
情報の回りが早い。
【アルカディア魔学園】は、アルカディア国が母体となり運営されている。暗翔の入学には、国家絡みでの手回しが関係していた。
無論、暗翔の所属する組織はアルカディア国の直属。工作員やスパイ、暗殺者はどの国家であれ、配置されているだろう。
「情報が早いな」
「少々予定が変わるかも知れないのさ。それで、夜雪君とランク争奪戦には、なんの因果関係があるんだい? あと、勝手に君が能力を使用した件についても、詳しく説明を頼むよ」
わざとらしく舌打ちを鳴らしてみたが、男の様子には変化が見られない。
「夜雪は妹さんを人質に取られてたんだよ。【レグルス女学院】の理事長に。それで、俺を暗殺しようとして来た。能力の件については、ただのノリだ。あのスカした理事長の部屋を破壊したかったんだ」
あはは、と電話口で笑い声が響く。どうやら、男にとって想定外の返答だったらしい。
「暗翔君らしいね。能力については、見逃そう。これから行う計画の中に、君の能力の使用が含まれるからね。ただし――夜雪君には相応の罰を下す必要があるんじゃないかな?」
「実質組織に対するスパイだった訳だからな。だが、罰は俺が許さない。夜雪は必要以上に情報を渡してない。加えて、戦力的にも申し分ない。今後は俺が監視する。手は出すな」
語尾を強めて、男に言葉を投げる。手を出せば、容赦はしないという意味合いを含めて。
暗翔の意図を汲み取ったのか、男は軽やかな口調で言い返して来た。
「冗談だよ、冗談。上も処分検討は考えないだろうね。暗翔君がバックに居るんだから、さ」
「やけに甘いな」
「はは。レグルス国を潰す絶好の機会なのさ、今回は。実はね、暗翔君の身元と能力に関して探るような輩が、あの国には居てね。多分、情報が渡った。夜雪君の存在のせいでね。といっても、彼女もまた暗翔君の能力の存在は知らないんだけどね」
先を促すように、暗翔は黙って男に言葉を譲る。
「もはや君の存在を隠し切るのは不可能だ。組織の情報流出も踏まえた上で、対応する必要があるのさ。僕たちも人工島に行くよ」
「……あんた達が動くとは、相当だな」
「幸い、二校がランクポイント争奪戦を行うようだしね。招待枠を通じて人工島に入り込むさ」
ミルクとシュガーを全てカップに入れると、ふんわりとした香りが部屋に充満する。紅茶を一口飲むと、デバイスから音声が響いた。
「その紅茶を淹れたのは夜雪君かな?」
あぁ、と相槌を打つ。
「彼女は組織から解任されるだろうね。ランク争奪戦が終わったら」
「なぜだ?」
「裏切りの件が一点。彼女の存在がバレてる以上、あまり動かすことはもうできない。そして、本来の暗殺者ではなく普通の人間としての道を歩んで貰うためさ」
「……あんたが手回ししてくれたのか」
デバイスを掴む指先に、ぎゅっと力が入り込む。硬い感触が、心の壁のように感じた。
まろやかなアップルティーの水々しさが、肩の力を抜かしていく。
「拾った暗翔君自身が罪を感じているみたいだからね。精神的な負担は仕事にも影響するからって理由で。それほど、君の存在は組織にとって優先事項なのさ」
「……そうか」
「総括するよ。夜雪君と君の能力使用の件は許そう。そして、君はランク争奪戦時、組織と一緒に人質の解放及び、レグルス国の上層部捕縛と情報抹消を行う」
「向こうの上層部がそう簡単に集まると思うか?」
「問題ないよ。君が能力を使用してくれたおかげで、初代【ヴラーク】の能力所有者が確定した。奴らは血なまこになって君の能力のありかを探していたのさ。訪れるに決まってる」
「そこを叩くということか」
「もう一つ。君に重大な指令が出たんだけどね――」
男がなにか言い掛けたその矢先。突然外から、爆発音のようなものが聞こえた。地面が爆ぜるような、尋常ではない音。そう、例えるのなら紅舞が能力を使用した時のような――。
断りを入れて着信を一旦切り終えると、暗翔は慌てて玄関を飛び出た。
「こんにちは……いや、こんばんは、かな? 暗翔君」
「普通の回線を使っての連絡か。用件は?」
「どうやら、面白い展開になっているらしいね。【レグルス女学院】と【アルカディア魔学園】のランク争奪戦は、君が裏で糸を引いてるのかな?」
察しがいい。否――この男は分かった上で質問しているのだろう。暗翔の反応を楽しみたいという側面が昔からある。
「挨拶返しってところか?」
「それは夜雪君に関することだろう?」
まるで微風が吹き抜けるかのように、男が事実を示した。
情報の回りが早い。
【アルカディア魔学園】は、アルカディア国が母体となり運営されている。暗翔の入学には、国家絡みでの手回しが関係していた。
無論、暗翔の所属する組織はアルカディア国の直属。工作員やスパイ、暗殺者はどの国家であれ、配置されているだろう。
「情報が早いな」
「少々予定が変わるかも知れないのさ。それで、夜雪君とランク争奪戦には、なんの因果関係があるんだい? あと、勝手に君が能力を使用した件についても、詳しく説明を頼むよ」
わざとらしく舌打ちを鳴らしてみたが、男の様子には変化が見られない。
「夜雪は妹さんを人質に取られてたんだよ。【レグルス女学院】の理事長に。それで、俺を暗殺しようとして来た。能力の件については、ただのノリだ。あのスカした理事長の部屋を破壊したかったんだ」
あはは、と電話口で笑い声が響く。どうやら、男にとって想定外の返答だったらしい。
「暗翔君らしいね。能力については、見逃そう。これから行う計画の中に、君の能力の使用が含まれるからね。ただし――夜雪君には相応の罰を下す必要があるんじゃないかな?」
「実質組織に対するスパイだった訳だからな。だが、罰は俺が許さない。夜雪は必要以上に情報を渡してない。加えて、戦力的にも申し分ない。今後は俺が監視する。手は出すな」
語尾を強めて、男に言葉を投げる。手を出せば、容赦はしないという意味合いを含めて。
暗翔の意図を汲み取ったのか、男は軽やかな口調で言い返して来た。
「冗談だよ、冗談。上も処分検討は考えないだろうね。暗翔君がバックに居るんだから、さ」
「やけに甘いな」
「はは。レグルス国を潰す絶好の機会なのさ、今回は。実はね、暗翔君の身元と能力に関して探るような輩が、あの国には居てね。多分、情報が渡った。夜雪君の存在のせいでね。といっても、彼女もまた暗翔君の能力の存在は知らないんだけどね」
先を促すように、暗翔は黙って男に言葉を譲る。
「もはや君の存在を隠し切るのは不可能だ。組織の情報流出も踏まえた上で、対応する必要があるのさ。僕たちも人工島に行くよ」
「……あんた達が動くとは、相当だな」
「幸い、二校がランクポイント争奪戦を行うようだしね。招待枠を通じて人工島に入り込むさ」
ミルクとシュガーを全てカップに入れると、ふんわりとした香りが部屋に充満する。紅茶を一口飲むと、デバイスから音声が響いた。
「その紅茶を淹れたのは夜雪君かな?」
あぁ、と相槌を打つ。
「彼女は組織から解任されるだろうね。ランク争奪戦が終わったら」
「なぜだ?」
「裏切りの件が一点。彼女の存在がバレてる以上、あまり動かすことはもうできない。そして、本来の暗殺者ではなく普通の人間としての道を歩んで貰うためさ」
「……あんたが手回ししてくれたのか」
デバイスを掴む指先に、ぎゅっと力が入り込む。硬い感触が、心の壁のように感じた。
まろやかなアップルティーの水々しさが、肩の力を抜かしていく。
「拾った暗翔君自身が罪を感じているみたいだからね。精神的な負担は仕事にも影響するからって理由で。それほど、君の存在は組織にとって優先事項なのさ」
「……そうか」
「総括するよ。夜雪君と君の能力使用の件は許そう。そして、君はランク争奪戦時、組織と一緒に人質の解放及び、レグルス国の上層部捕縛と情報抹消を行う」
「向こうの上層部がそう簡単に集まると思うか?」
「問題ないよ。君が能力を使用してくれたおかげで、初代【ヴラーク】の能力所有者が確定した。奴らは血なまこになって君の能力のありかを探していたのさ。訪れるに決まってる」
「そこを叩くということか」
「もう一つ。君に重大な指令が出たんだけどね――」
男がなにか言い掛けたその矢先。突然外から、爆発音のようなものが聞こえた。地面が爆ぜるような、尋常ではない音。そう、例えるのなら紅舞が能力を使用した時のような――。
断りを入れて着信を一旦切り終えると、暗翔は慌てて玄関を飛び出た。
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