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告白が許されない世界で
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殺菌剤の独特な香り。桐原教論は、意識を戻さない。眠っている。
口元に覆われている呼吸器。息を吹き掛けられる度に、白色に染まる。六台の機械が、桐原教論の身体を取り囲むように設置されていた。時折り、ピーピーと拍数メーターが鳴る。
葵は、唇を噛み締める。だが、桐原教論の瞳は開かれない。
「桐原先生は言いましたよね。自分なんかを好きにさせなければ良かったと。でも、多分それは違います。その生徒さんは、ただ純粋に想いを受け取って欲しかったんだと思うんです……桐原先生に」
葵は小さく首を下に傾け、顔に影を落とす。桐原教論の罪悪感を反映させるように。
科学室で一緒に飲んだ珈琲の苦味が舌に広がる。
「消失することなんて構わない。その覚悟、想いに対して、桐原先生が負い目を感じることは間違っています」
だって、と唇が先の言葉を発しようと動く。大人しげながらも、どこか繊細さを持つ桐原教論の瞳は、もう向けられない。葵は、力なく横たわる身体に近寄る。自然と口元が緩む。愛くるしいと言わんばかりに、心の叫びを微笑みに変える。
一筋の涙が、すらりと桐原教論の手元にこぼれた。銀色に反射し、生命の輝きを表現する。
葵の虹彩が、儚げな光を受け止める。
「桐原先生のこと、大好きですから。私もその生徒さんの気持ち分かります。ただ、この抑えられない感情を……好きってことを知って欲しいんです」
愛情を注ぐように、桐原教論の指先をそっと撫でる。雪のような冷たさ。
彼の唇が微動する。ありがとうの文字に映った気がした。
口元に覆われている呼吸器。息を吹き掛けられる度に、白色に染まる。六台の機械が、桐原教論の身体を取り囲むように設置されていた。時折り、ピーピーと拍数メーターが鳴る。
葵は、唇を噛み締める。だが、桐原教論の瞳は開かれない。
「桐原先生は言いましたよね。自分なんかを好きにさせなければ良かったと。でも、多分それは違います。その生徒さんは、ただ純粋に想いを受け取って欲しかったんだと思うんです……桐原先生に」
葵は小さく首を下に傾け、顔に影を落とす。桐原教論の罪悪感を反映させるように。
科学室で一緒に飲んだ珈琲の苦味が舌に広がる。
「消失することなんて構わない。その覚悟、想いに対して、桐原先生が負い目を感じることは間違っています」
だって、と唇が先の言葉を発しようと動く。大人しげながらも、どこか繊細さを持つ桐原教論の瞳は、もう向けられない。葵は、力なく横たわる身体に近寄る。自然と口元が緩む。愛くるしいと言わんばかりに、心の叫びを微笑みに変える。
一筋の涙が、すらりと桐原教論の手元にこぼれた。銀色に反射し、生命の輝きを表現する。
葵の虹彩が、儚げな光を受け止める。
「桐原先生のこと、大好きですから。私もその生徒さんの気持ち分かります。ただ、この抑えられない感情を……好きってことを知って欲しいんです」
愛情を注ぐように、桐原教論の指先をそっと撫でる。雪のような冷たさ。
彼の唇が微動する。ありがとうの文字に映った気がした。
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