婚約を正式に決める日に、大好きなあなたは姿を現しませんでした──。

Nao*

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 こうして私は、遂に二人の元へと辿り着く事が出来たが…二人が居たのは、マリアンヌ嬢の養父が所有する別荘だった。



 するとマリアンヌ嬢は、やって来た私を見るなり鬱陶しそうな表情を浮かべ…そして彼女の隣に座るルーカス様は、気まずそうにこちらをチラチラと見て来た。



「ルーカス様…久しぶりの再会が、こんな形になるとは夢にも思って居ませんでした。」

「いや、それはあれだ…そもそも俺達が婚約しようと言う話になったのは父親達の口約束によるものだろう?だから俺が成長し、気持ちに変化が出て来るのは仕方ない事じゃないか。マリアンヌはそんな俺に対し、許婚など今時古い…そんなものに縛られるなどあなたは可哀相だ、もっと自由に恋愛を楽しんで良いと言ってくれたんだ。」

 そう言って、ルーカス様は隣に居るマリアンヌ嬢の手をギュッと握った。



 するとマリアンヌ嬢は、私に向けて勝ち誇った笑みを浮かべこう言った。



「ルーカス様から、いずれ正式に婚約する女が居ると聞かされましたが…その女は全く可愛げはないし、性格も愛嬌が無い。おまけにちょっと賢いからって留学にまで付いて来ようとする鬱陶しい女と言われ、どんな女かと思ったら…わざわざこんな所にまで押しかけてくるなど、本当に鬱陶しい女だったわね。」

「な、何ですって…!?」
 
 彼女の余りの言い方に、私は思わず言葉を失ってしまった。



「彼があなたに会いに行かなかったのは、逆上したあなたに何をされるか恐ろしかったから。大体、正式に婚約を決める日に姿を現さないなら自分がどう思われて居るのか位すぐ理解できるでしょう?そして良識ある女なら。潔く身を引くわうよ。なのにわざわざこんな所にまで押しかけてくるなど…全く、田舎育ちの女は品が無くて嫌になるわ!」

 彼女の言葉に、私はどちらが恐ろしく品が無い女なのかと心底怒りが湧いた。



「…私はこの関係が終わるにしても、ちゃんと話をしてケリを付けたかったのです。なのに話し合いで終わらせようとしなかったのは、そちらの方でしょう?あんな男達を寄こして、私をここに来られない様にして─。」



 私は先程起きた出来事を伝えたが…マリアンヌ嬢はそんな者達は知らない、自分の事を好きな男達が暴走し勝手にやった事だろうと言ってのけた。

 一方ルーカス様は、私の話を聞きハラハラした表情を見せ…もしかしたら、あれは彼女が独断で決行した事なのでは無いかと私は思った。



「白々しい…あの男達は、あなたの取り巻きなのでしょう!?」

「じゃあそこまで言うなら、私があの男達をけしかけた証拠でも見せてみなさいよ?それが無いのに私を責める何て…あなたが昔、彼を好きな令嬢を虐めたと言う話も納得だわ。そんなふうに底意地が悪いから、いくら賢くても彼に選ばれなかったのよ。やっぱり殿方は、私のように容姿も中身も可愛げがある女がお好きなのよ。」


「わ、私は虐めなどして居ないと、あの時父のおかげでハッキリしました!ルーカス様…あなたは、私の事をずっとそんなふうに見て居たのですか?確かに、私は顔立ちも性格もキツく可愛げは無いですが…それでも、あなたを一途に思う気持ちは全く何も伝わって居なかったのですか…?」

 思わず涙する私だったが…ルーカス様はそんな私を慰める事無く、目線を外すとコクリと頷いた。



 それを見た私は絶望し、その場に崩れ落ちそうになったが…その時部屋のドアが開き、別室に控えて居たはずのレイモンド様がある物を手に持ちこちらへとやって来た。

 そして私の傍に来ると、その長く美しい指でそっと涙を拭ってくれた。



「レイモンド…話が終わるまで待って居るよう言ったでしょう!彼の友人とは言え、余り出過ぎた真似をすると─」

「どうなるって言うんだ?タダで済まないのは、俺ではなくお前の方だと思うが?」

 そう言ってレイモンド様が彼女に付き出したのは、一枚の紙切れだった。



 そこには契約書、報酬と言った文字が書かれ…そしてかなりの桁の数字が書かれて居た。
 
 またその下には、サインだろうか…男の名前とマリアンヌ嬢の名が書かれて居る。



「これは、お前があの男達を雇った際に作った契約書だ。彼女を襲いここに来られないような身体にしたら、その報酬として多額の金を払うと言う話になって居たんだろう?これと同じ物を、先程ここへ案内させた男が大事そうに懐にしまって居た。そして、お前の元にはこの誓約書の原本があると言われたから…別室で控えている間に、こっそり探させて貰った。」

「そ、そんな泥棒のような真似をして…!」

「悪人がよく言うな。お前は先程、彼女の事を底意地が悪いと罵ったが…色々と悪事を働いて居るのは自分の方じゃないか。」



 その言葉に、マリアンヌ嬢は言葉を詰まらせ何も言い返せないで居る。

 するとそんな彼女に、レイモンド様は更なる追い打ちをかけるべくこんな話を始めた。



「あの学園に居た時、お前が平民上がりだと言う理由で虐められたと問題にして居たが…それもお前の捏造だったんだな?そうする事で、自分よりも可愛くルーカスと親しい女生徒を陥れようとしたんだろう?俺は副会長としてずっとこの件を疑問視し調べて来たが、漸くお前の悪事の証拠を見つけた。」

 そしてレイモンド様が懐から取り出したのは、彼女の手帳だった。



 そこには、学園で起きたと言う彼女への虐め事件を捏造したとハッキリ書かれており…彼女は私以外にも悪事を働き、別の娘を不幸な目に陥れて居たのだった。



 結局その女生徒は自分が虐めの主犯になった事で、後に学園を自主退学してしまたそうだが…そうなるまで生徒会長であったルーカス様は、ずっとマリアンヌ嬢の言葉だけを信じ彼女に味方しその令嬢の言葉に全く耳を貨さなかったと言う。



 だからその頃には、ルーカス様は生徒会長として皆からの信頼をほぼ失って居る状態で…代わりに副会長のレイモンド様が、学園のあれこれを仕切って居たらしい。


 
 そんな事を聞かされ、私は一層ルーカス様に幻滅してしまった。
  
 もう今のルーカス様は、私の好きだったあの頃のルーカス様と違う。

 いや…彼は最初から、愛を捧げる程の男に値しなかったのだろう─。
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