婚約を正式に決める日に、大好きなあなたは姿を現しませんでした──。

Nao*

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 私にはただ一人、昔からずっと好きな相手が居た。

 それは同じ領地に住む男の子で、名はルーカスと言う。



 彼の家は私の家よりもかなり裕福だったが、家同士の関係は良好で…特に父親同士は同級生と言う事で仲良くして居た。

 だから彼とは幼い内から何度も顔を合わせ…明るく活発なルーカス様に、私は自然と惹かれるようになって行った。
図れずに
 

 でも私は性格的に少しあまのじゃくな事もあり、その気持ちを真っ直ぐ彼に伝える事は出来なかった。

 その上、私の顔立ちがツンとしているおかげで性格までキツイと受け取られ…自分としては恥ずかしくて彼との距離を上手く図れずに居るだけなのに、彼に素っ気ない態度を取る可愛げのない女の子に見られてしまう事も多々あった。



 でも私のお父様は、私のルーカス様への想いに一早く気付いてくれたようだった。

 何とお父様はルーカス様のお父様に話を付け、私達が年ごろになったら婚約しようと話を取り付けてくれたのだ。



 そして後日、父からそれを聞かされた私は飛び上がるほどに喜んだ。


 
 大きくなったら、大好きなルーカス様と婚約出来る…?

 だったらその日までに、ルーカス様が誇れるような素敵な女性になろう。

 彼が喜んで私を婚約者に迎えてくれるような、そんな女性に─。



 一方、自身の父親からこの話を聞かされたルーカス様だが…彼に特に反対の意志は無く、それを了承してくれたと言う。

 

 その後実際に彼とお会いする機会があり、その件について話をする事もあったが…彼はその日が来るのを楽しみにして居ると言って下さった位だ。



「エミリー、君といずれ婚約する事に俺は異議は無いよ。」

「…本当ですか?」

「だが、俺は友人と同じようにいずれは王都の学園に留学したいんだ。そこで色々な事を学びたいから、その学園での留学を終えこの地に戻ってから君と婚約する…そういう流れでも構わないだろうか?」



 ルーカス様が王都に留学?

 ルーカス様は、以前から都会で学ぶ事に夢を見て居たし…彼と離れるのは寂しいが、同じくらい彼の事を応援したいと言う気持ちがある。



「分かりました…。だったら私は、この地でルーカス様がお戻りになるのを待ちます。あなたが帰って来たら…その時は正式に婚約致しましょう?」

 私がそう答えたのを見てルーカス様は安堵したように微笑み、私の頭を優しく撫でてくれた。



 私はそれがとても嬉しかったが…つい恥ずかしくなり、皆が見てますと彼の手からそっと逃れて俯いてしまった。



 でも、それがきっとダメだったのだろう。

 この時、ルーカス様が私に対しどんな表情を浮かべていたのかきちんと見ておけば…後々、私はあんな思いをする事は無かっただろうに─。



 それからルーカス様と私はいずれ婚約する者達として、別れの日までを仲良く過ごす事となった。

 そして数年後…彼は予定通り、王都の学園へと留学する事に─。



 その頃には私の家も彼の家と同じくらい裕福となり、また努力の甲斐あって成績も優秀となった私は、彼と同じく王都の学園に留学できる力はあったが…一人で頑張って来たいと言う彼の言葉もあり、私はそれを諦めた。



 何よりルーカス様から、俺が戻って来たらすぐ婚約出来るように、婚約者として俺の家の事業について色々学んでおいて欲しい…父の助けになって欲しいと言われたのが大きかった。



「私ったら、ついルーカス様について行きたくなってしまったけれど…でもあなたは、婚約者として私にこの地で多くの事を学んで欲しいと思って居るのですね?」

「あぁ、賢い君に俺は大いに期待して居るんだ。今は父を助け、俺が帰って来たら今度は俺を支えて欲しい。俺が留学を終えるのは三年後…その時君がどんな素敵な女性になって居るのか、今から楽しみだよ─。」

 そんな言葉を残し、ルーカス様は翌日には私の元を去り王都へと旅立って行くのだった─。



 それ以降、私とルーカス様は手紙でやり取りするだけの関係となった。

 ルーカス様は留学先の学園で優秀な成績を修め、生徒会長迄務める程になったと言う。

 今迄留学生でそんな立場となった者は居らず、この事をルーカス様は大層誇りに思って居るようだった。



 それに対し私は、生徒会長となったルーカス様の姿を想像しその心をときめかせるのだが…それと同じくらい、生徒会長になった彼を女生徒達がどんな目で見るのか心配で堪らなかった。
 


 ルーカス様は明るい性格で容姿も良い、頭も良くて生徒会長ときたらモテない筈が無いわ。

 誰かが彼に特別な感情を抱いてしまったらどうしよう…。

 それが私と正反対で、素直で可愛らしい女性だったら…ルーカス様は、その相手に心奪われてしまったりはしないだろうか─?



 私はそれとなくその旨を手紙に綴ってみたが…彼からの返事は、そんな事になっても俺はエミリー一筋だから大丈夫─。

 今更他の女性に目移りなどしないから、安心して欲しいと言うものだった。



 そしてそれを読んだ私は心から安堵し、今後はつまらない嫉妬心を抱くのは辞めようと思うのだった。



 そう言えば昔も、ルーカス様とやたら仲良くしたがる令嬢が居て…ついその子に嫉妬してしまったら、この顔つきも相まって虐めて居ると周りから誤解を受けてしまったのよね。


 
 あの時それを解決するのに苦労したから、もう二度とそんな事が無いようにしないと─。



 それから時は流れ…遂にルーカス様がこの地に戻って来る事となった。

 その為、私は朝から彼が家を訪ねて来るのを今か今かとそわそわしながら待って居た。



 父はそんな私を見て苦笑いし、少しは落ち着けと言って来たが…でも三年ぶりの再会よ?

 しかも今日、私達は正式に婚約者となるんですもの…どれ程この日を待ち望んだ事か─。



 だが…約束の時間を過ぎても、ルーカス様は一向に現れなかった。

 始めは彼を心配して居た私だったが、不安の余り泣きそうになってしまった。

 するとそれを見た父は、遂に我慢できないと言った様子で椅子から立ち上がった。



「連絡も無しにここまで待たせるとは…あいつは一体何を考えて居るのか。もしかして、このままここに現れないと言うつもりではないだろうな!?」

「お父様…まさかルーカス様がそんないい加減な事をするはずが─」


 
 するとその時、私の元をある人物が訪ねて来た。

 それはルーカス様のご友人で、同じく留学生として王都に旅立ったレイモンド様だった。

「レイモンド様…お久しぶりです。あなたもお戻りになられたのですね?あの…実は私、今日ルーカス様とお会いする約束だったのですがまだお見えにならなくて…。何かご存じないでしょうか?」



 するとレイモンド様は、私を見て苦虫を潰したような顔になりこう言った。

「あいつは…きっともうこの地には戻って来ません。今頃あいつは、王都であの平民上がりの女と仲良くやって居るかと─。」



「ど、どういう事です!?」

 レイモンド様の言葉に、私は思わず椅子から立ち上がって彼の元へと近づいた。



 すると彼は、ルーカス様に何があったか…留学先の学園でどんな事が起きて居たのか、知る限りの事を私に語ってくれるのだった─。
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