6 / 6
6(完)
しおりを挟む
「奥様、しっかりして下さい!さぁ、この薬湯を飲んで下さい。」
「わ、私はもう助からないわ。シャルが手に傷を負ってるから、この子に飲ませてあげて?この子は、私にとってとても大事な子なの。勿論、あなたもよ。二人共、今迄私を支えてくれてありがとう」
私の目は、いよいよ近くにいる二人の姿さえ見えなくなって来た。
もう自分で薬湯を飲む力も無いし、吐き出してしまい無駄にするならシャルに──。
「奥様……失礼します」
「……ンッ!?」
サムは手にした薬湯を自身の口に含むと、そのまま私の頬に手を添え口移しでそれを与えた。
そして私は、口に入って来た薬湯をコクリと飲み干した。
でも、少しは呼吸が楽になったものの……それ以上の回復は見込めなかった。
「どうしてだ……これを飲んだら善くなる筈なのに!もう遅すぎたのか?」
「そんな……嫌だよ!奥様、僕とお父さんと、三人で家族になろうって言ったじゃない!僕の新しいお母さんになって欲しいって……だから死なないで!何で……何でこのバラは願いを聞いてくれないの!?」
涙するシャルの手から力が抜け、バラがポトリと床に落ちた。
「シャルと奥様は、そんな願いを──」
そう呟いたサムは、そのバラを拾い上げこう言った。
「奥様……今までこの願いは叶わぬものと思い口にしませんでしたが……私も、何時しかあなたとシャルと三人で家族になりたいと思うようになりました。私の育てた花を愛で、そしてそれ以上に息子のシャルを愛してくれるあなたに、私は想いを募らせて行ったのです。あなたを大事にしない旦那様よりも、ずっとあなたを大事にしますから……ですからどうか元気になってシャルの母に、私の妻になって下さい。シャル……奥様も、このバラを握って下さい。三人で植えたバラだ……三人同時に同じ事を願えば、今度こそ願いは叶う筈です」
「サムが、私の事を……?嬉しい、とても嬉しいわ。なりましょう、家族に……。その為にも、私は今ここで死ねない──」
私は最後の力を振り絞り、近くあるシャルの手を取ると……サムが握るそのバラへと手を伸ばした。
そして私達は、同時に目を瞑り……三人で新しい家族になり、この先は皆で幸せに暮らして行きたいと心を一つに願うのだった。
するとその瞬間、バラは眩い光を放ち……それは私達三人をすっぽりと包んだ。
そしてその光が消える頃には……私の身体はすっかり元気になり、シャルの手の傷も綺麗に消えて居た。
それに気づいたシャルは、大喜びで私に抱き着き……私はそれを受け止めると、その頭を慈しむように撫でた。
そしてそんな私達を……サムがその太く逞しい腕で、二人まとめてしっかりと抱き締めてくれるのだった──。
その後……ダリスとエリザの罪が確定し、二人は死ぬまで牢に入る事が決まった。
実は偽薬を入手し、エリザに預けたのはダリスで……彼は私を殺す為、しっかりとその手を悪事に染めて居たのだった。
また彼は、エリザの夫の命が危険に晒されて居る件についても早くに知って居たらしく……それで、彼女と同じように重い罪になったのだ。
そして暫く牢生活を送って居た二人だったが……劣悪な環境のせいで、ダリスは気がおかしくなり廃人に──。
エリザは病に倒れ、大層苦しみながらこの世を去ったと言う。
一方、私はと言うと……思い切って自宅を手放し、サムの故郷で新しい生活をスタートさせる事に──。
そして新しく済み始めたそこは、周りを山に囲まれて自然が一杯の素敵な所だった。
花や木が好きなシャルは、毎日楽しそうに家の周りを駆け回って……私とサムは、そんなシャルを遠くから仲良く見守って居る。
私はここに来てすぐ、サムと結婚した。
シャルに見守られながらのささやかな結婚式だったが……私にとっては、人生の中でかけがえのない日となった。
すると不思議な事に、こうして三人で暮らし始めてから全員怪我も病気も全くしなくなり……有難い事にサムが近くのお金持ちの別荘のお抱え庭師になれた事で、お金にも困る事なくそれはそれは幸せに暮らす事が出来て居る。
「あのバラは、本当に私達の願いを叶えてくれたのね……」
「えぇ。でも、ここで皆で一緒に暮らしてみて思ったんです。この先もずっと幸せであろうとするなら、そうなれるよう一日一日を大事に生きて行こうと言う気持ちが何より大事だと。あなたとシャルを今以上に幸せにする為、もっと頑張りますね」
「そうね……この先の幸せが続くかは、自分達次第ね。でもね、早速新しい幸せが訪れたのだけど……実は、家族がもう一人増えるの」
そう言って、私はそっと自身のお腹を撫でた。
「ま、まさか………。あ、ありがとう……本当にありがとう──!」
サムは喜びの余り、私をその胸にギュッと抱きしめ……するとそれを遠くから見たシャルが、僕も混ざると言ってこちらに駆けて来た。
そんなシャルの胸には、私の手作りのブローチが一つ付けられて居たが……それは、あの日願いを叶え散ったバラの花束をガラスに埋め込んだものだった。
するとそのブローチは、太陽の光を受けキラキラと眩い光を放ち……それはまるで、バラからの私達家族への祝福のようだと私は思うのだった───。
「わ、私はもう助からないわ。シャルが手に傷を負ってるから、この子に飲ませてあげて?この子は、私にとってとても大事な子なの。勿論、あなたもよ。二人共、今迄私を支えてくれてありがとう」
私の目は、いよいよ近くにいる二人の姿さえ見えなくなって来た。
もう自分で薬湯を飲む力も無いし、吐き出してしまい無駄にするならシャルに──。
「奥様……失礼します」
「……ンッ!?」
サムは手にした薬湯を自身の口に含むと、そのまま私の頬に手を添え口移しでそれを与えた。
そして私は、口に入って来た薬湯をコクリと飲み干した。
でも、少しは呼吸が楽になったものの……それ以上の回復は見込めなかった。
「どうしてだ……これを飲んだら善くなる筈なのに!もう遅すぎたのか?」
「そんな……嫌だよ!奥様、僕とお父さんと、三人で家族になろうって言ったじゃない!僕の新しいお母さんになって欲しいって……だから死なないで!何で……何でこのバラは願いを聞いてくれないの!?」
涙するシャルの手から力が抜け、バラがポトリと床に落ちた。
「シャルと奥様は、そんな願いを──」
そう呟いたサムは、そのバラを拾い上げこう言った。
「奥様……今までこの願いは叶わぬものと思い口にしませんでしたが……私も、何時しかあなたとシャルと三人で家族になりたいと思うようになりました。私の育てた花を愛で、そしてそれ以上に息子のシャルを愛してくれるあなたに、私は想いを募らせて行ったのです。あなたを大事にしない旦那様よりも、ずっとあなたを大事にしますから……ですからどうか元気になってシャルの母に、私の妻になって下さい。シャル……奥様も、このバラを握って下さい。三人で植えたバラだ……三人同時に同じ事を願えば、今度こそ願いは叶う筈です」
「サムが、私の事を……?嬉しい、とても嬉しいわ。なりましょう、家族に……。その為にも、私は今ここで死ねない──」
私は最後の力を振り絞り、近くあるシャルの手を取ると……サムが握るそのバラへと手を伸ばした。
そして私達は、同時に目を瞑り……三人で新しい家族になり、この先は皆で幸せに暮らして行きたいと心を一つに願うのだった。
するとその瞬間、バラは眩い光を放ち……それは私達三人をすっぽりと包んだ。
そしてその光が消える頃には……私の身体はすっかり元気になり、シャルの手の傷も綺麗に消えて居た。
それに気づいたシャルは、大喜びで私に抱き着き……私はそれを受け止めると、その頭を慈しむように撫でた。
そしてそんな私達を……サムがその太く逞しい腕で、二人まとめてしっかりと抱き締めてくれるのだった──。
その後……ダリスとエリザの罪が確定し、二人は死ぬまで牢に入る事が決まった。
実は偽薬を入手し、エリザに預けたのはダリスで……彼は私を殺す為、しっかりとその手を悪事に染めて居たのだった。
また彼は、エリザの夫の命が危険に晒されて居る件についても早くに知って居たらしく……それで、彼女と同じように重い罪になったのだ。
そして暫く牢生活を送って居た二人だったが……劣悪な環境のせいで、ダリスは気がおかしくなり廃人に──。
エリザは病に倒れ、大層苦しみながらこの世を去ったと言う。
一方、私はと言うと……思い切って自宅を手放し、サムの故郷で新しい生活をスタートさせる事に──。
そして新しく済み始めたそこは、周りを山に囲まれて自然が一杯の素敵な所だった。
花や木が好きなシャルは、毎日楽しそうに家の周りを駆け回って……私とサムは、そんなシャルを遠くから仲良く見守って居る。
私はここに来てすぐ、サムと結婚した。
シャルに見守られながらのささやかな結婚式だったが……私にとっては、人生の中でかけがえのない日となった。
すると不思議な事に、こうして三人で暮らし始めてから全員怪我も病気も全くしなくなり……有難い事にサムが近くのお金持ちの別荘のお抱え庭師になれた事で、お金にも困る事なくそれはそれは幸せに暮らす事が出来て居る。
「あのバラは、本当に私達の願いを叶えてくれたのね……」
「えぇ。でも、ここで皆で一緒に暮らしてみて思ったんです。この先もずっと幸せであろうとするなら、そうなれるよう一日一日を大事に生きて行こうと言う気持ちが何より大事だと。あなたとシャルを今以上に幸せにする為、もっと頑張りますね」
「そうね……この先の幸せが続くかは、自分達次第ね。でもね、早速新しい幸せが訪れたのだけど……実は、家族がもう一人増えるの」
そう言って、私はそっと自身のお腹を撫でた。
「ま、まさか………。あ、ありがとう……本当にありがとう──!」
サムは喜びの余り、私をその胸にギュッと抱きしめ……するとそれを遠くから見たシャルが、僕も混ざると言ってこちらに駆けて来た。
そんなシャルの胸には、私の手作りのブローチが一つ付けられて居たが……それは、あの日願いを叶え散ったバラの花束をガラスに埋め込んだものだった。
するとそのブローチは、太陽の光を受けキラキラと眩い光を放ち……それはまるで、バラからの私達家族への祝福のようだと私は思うのだった───。
36
お気に入りに追加
112
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
竜神に愛された令嬢は華麗に微笑む。〜嫌われ令嬢? いいえ、嫌われているのはお父さまのほうでしてよ。〜
石河 翠
恋愛
侯爵令嬢のジェニファーは、ある日父親から侯爵家当主代理として罪を償えと脅される。
それというのも、竜神からの預かりものである宝石に手をつけてしまったからだというのだ。
ジェニファーは、彼女の出産の際に母親が命を落としたことで、実の父親からひどく憎まれていた。
執事のロデリックを含め、家人勢揃いで出かけることに。
やがて彼女は別れの言葉を告げるとためらいなく竜穴に身を投げるが、実は彼女にはある秘密があって……。
虐げられたか弱い令嬢と思いきや、メンタル最強のヒロインと、彼女のためなら人間の真似事もやぶさかではないヒロインに激甘なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:4950419)をお借りしています。
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
【完結】え?王太子妃になりたい?どうぞどうぞ。
櫻野くるみ
恋愛
10名の令嬢で3年もの間、争われてーーいや、押し付け合ってきた王太子妃の座。
ここバラン王国では、とある理由によって王太子妃のなり手がいなかった。
いよいよ決定しなければならないタイムリミットが訪れ、公爵令嬢のアイリーンは父親の爵位が一番高い自分が犠牲になるべきだと覚悟を決めた。
しかし、仲間意識が芽生え、アイリーンに押し付けるのが心苦しくなった令嬢たちが「だったら自分が王太子妃に」と主張し始め、今度は取り合う事態に。
そんな中、急に現れたピンク髪の男爵令嬢ユリア。
ユリアが「じゃあ私がなります」と言い出して……?
全6話で終わる短編です。
最後が長くなりました……。
ストレスフリーに、さらっと読んでいただければ嬉しいです。
ダ◯ョウ倶楽部さんの伝統芸から思い付いた話です。
わたしの浮気相手を名乗る方が婚約者の前で暴露を始めましたが、その方とは初対面です
柚木ゆず
恋愛
「アルマ様っ、どうしてその男と手を繋いでいらっしゃるのですか!? 『婚約者とは別れる』、そう約束してくださったのに!!」
それは伯爵令嬢アルマが、ライアリル伯爵家の嫡男カミーユと――最愛の婚約者と1か月半ぶりに再会し、デートを行っていた時のことでした。突然隣国の子爵令息マルセルが現れ、唖然となりながら怒り始めたのでした。
そして――。
話が違うじゃないですか! 嘘を吐いたのですか!? 俺を裏切ったのですか!? と叫び、カミーユの前でアルマを追及してゆくのでした。
アルマは一切浮気をしておらず、そもそもアルマとマルセルはこれまで面識がなかったにもかかわらず――。
私がいなくなっても、あなたは探しにも来ないのでしょうね
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族家の生まれではありながらも、父の素行の悪さによって貧しい立場にあったエリス。そんな彼女は気づいた時、周囲から強引に決められる形で婚約をすることとなった。その相手は大金持ちの御曹司、リーウェル。エリスの母は貧しい暮らしと別れを告げられることに喜び、エリスが内心では快く思っていない婚約を受け入れるよう、大いに圧力をかける。さらには相手からの圧力もあり、断ることなどできなくなったエリスは嫌々リーウェルとの婚約を受け入れることとしたが、リーウェルは非常にプライドが高く自分勝手な性格で、エリスは婚約を結んでしまったことを心から後悔する…。何一つ輝きのない婚約生活を送る中、次第に鬱の海に沈んでいくエリスは、ある日その身を屋敷の最上階から投げてしまうのだった…。
『白い結婚』が好条件だったから即断即決するしかないよね!
三谷朱花
恋愛
私、エヴァはずっともう親がいないものだと思っていた。亡くなった母方の祖父母に育てられていたからだ。だけど、年頃になった私を迎えに来たのは、ピョルリング伯爵だった。どうやら私はピョルリング伯爵の庶子らしい。そしてどうやら、政治の道具になるために、王都に連れていかれるらしい。そして、連れていかれた先には、年若いタッペル公爵がいた。どうやら、タッペル公爵は結婚したい理由があるらしい。タッペル公爵の出した条件に、私はすぐに飛びついた。だって、とてもいい条件だったから!
【完結】義母が斡旋した相手と婚約破棄することになりまして。~申し訳ありませんが、私は王子と結婚します~
西東友一
恋愛
義母と義理の姉妹と暮らしていた私。
義母も義姉も義妹も私をイジメてきて、雑用ばかりさせてきましたが、
結婚できる歳になったら、売り払われるように商人と結婚させられそうになったのですが・・・・・・
申し訳ありませんが、王子と結婚します。
※※
別の作品だと会話が多いのですが、今回は地の文を増やして一人の少女が心の中で感じたことを書くスタイルにしてみました。
ダイジェストっぽくなったような気もしますが、それも含めてコメントいただけるとありがたいです。
この作品だけ読むだけでも、嬉しいですが、他の作品を読んだり、お気に入りしていただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。
好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる