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 するとその時、後ろから急に声をかけて来る者が──。

「またお前はそんな事をして居るのか。全く、俺が忙しくして居るのに金にもならない土いじりに夢中とは良いご身分だな」

「ダ、ダリス…お帰りに気付かなくてごめんなさい」

「構わん、どうせお前は俺よりそいつらの方が好きなんだろう?好きなだけ仲良くして居ろ、俺だって好きにさせて貰うから」



 そう言って、夫は私達に背を向け屋敷の中へと入って行った。

 

「すみません、奥様。私達がお誘いしたばかりに」

「いいえ、楽しい時間をありがとう。私は夫と話をして来るので、後の事はお願いします。じゃあまたね、シャル」

「うん……。また明日、お花を見に来てね!」

「勿論よ」

 私はシャルに手を振ると、夫を追いかけ屋敷へと戻った。



 そして、久しぶりに夫と夕食を取る事となったのだが……その際、夫から驚くべき話を私は聞かされる事に──。

「所有して居る土地を、売りに出す?」

「そうだ。実は、俺の知り合いの事業主が良い土地を探して居てな。この家はいくつも土地を所有し、持て余して居るだろ?」

「まぁ、確かにそうですね。父が亡くなって、その管理も大変になって来ましたし」

「だろう?それでそいつは、その土地をかなり良い値で買ってくれると言うんだ。土地の価格が下がる前に、今売っておいた方が良い。何、その辺りの面倒なやり取りは夫の俺が全て請け負う……お前に面倒をかける事は無い」



 成程、夫の知り合いならば夫本人に任せた方が話は早いだろう。

 それに、この辺りの土地の価格も年々下がって居るし……特に有効活用できる見込みも無いし、処分するなら早い方が良いか。



 私は色々と考えた末、夫にこの件を一任する事にした。

 それが、悲劇の始まりとも知らずに──。



 その後、ダリスの話では土地の売却は上手く行ったとの事だった。

 その証拠に契約時の書類も見せて貰ったし、特に問題はなかった。



 するとそんな中、夫の外泊が急に増えだした。

 事業の関係で、他国を色々と回って居るのだと言うが……その度に彼は家からお金を持ち出し、おかげで使用人の給金緒の支払いが滞る事に──。

 そのせいで使用人達は一人、また一人と屋敷を去って行ってしまった。



「あなたは私に今の事業の事を何も話してくれませんが……余り手広く事業を始め、それで家の財産を失っては元も子も──。それに、土地を売ったお金はどうしたのです?あれがあれば、ちゃんと使用人達にお金を払えるのに」

「あれは俺が手続きしてやったんだから、俺の報酬……俺の金だ。お前を養う為に働く俺に文句を言うな。使用人が居なくなっても、お前がその分家の事を擦ればいいだけだ!」


 
 ……こんな事になるなんて、亡くなったお父様達も天国でお嘆きになって居るだろう。

 夫が出て行った後……私は庭に設置されたベンチに座り、ボンヤリと庭の花を眺めた。


 
「奥様、大丈夫?どこか痛いの?」

「シャル……平気よ。心配してくれてありがとう。そう言えばあのバラの蕾、前よりもふっくらして来たわね。あなたとお父様が、一生懸命お世話して居るからだわ。愛情の力って凄いのね」

「じゃあ……シャルが好きって言ったら、奥様も元気になる?」

「え?」

「奥様、凄く元気が無いもの。心がしょんぼりしちゃってるでしょう?お花はしょんぼりしたら、僕が好きって言って一杯大事にすると元気になってくれるの。だから奥様も──」

「シャル!」

 私は、シャルが意地らしくて可愛らしくて……その小さな体を思わずギュッと抱きしめた。



「ありがとう……あなたの言葉で私元気になれたわ。私、頑張るから…‥大丈夫だからね──」

「あら、お取込み中だったかしら?出直した方が良い?」

「エリザ…‥どうしたの急に?」



 声をかけられ振り向けば、そこには一番の親友のエリザが居た。

「あなた最近元気が無いって聞くから、これ。私の特性のハチミツ漬けを持って来たわ」

「まぁ、ありがとう。あなたのは特別美味しいのよね。じゃあシャル、また後でね」

 私はエリザを連れ、客間へと向かった。



「‥‥…そう。土地を売ったお金をねぇ」

「本当に、使用人達に申し訳が立たなくて」

「じゃあ、残りの使用人達の行き場がなくなったら、私の家で面倒看てあげるわよ。まぁそうなる前に、あなたの夫が改心したらいいわね」

「エリザ…本当にありがとう!」


 
 エリザは昔から姉御肌で、本当に頼りになる子だ。
 
 私は、いつもいつもそんな彼女に何かと助けられ……その度に彼女に感謝して居たのだ。



「今日もあの人はまたどこかへ出て行ってしまって……またお金を持ち出して居たから、きっと泊まりで二・三日は帰らないつもりよ」

「金庫の鍵を取り上げればいいのに」

「無理よ、肌身離さず持ってるし、私の力ではどうしようも……」

「じゃあ、あなたが自らお金を稼ぐしかないわね。ご両親の残した遺産はまだ無事なのでしょう?それを上手く活用するのよ」

「どういう事?」



 エリザ曰く、今話題の投資話があると言う。

 彼女もそれでかなりの額をお金を設けたらしく、親友である私に是非とも紹介したいと言う。



「でも、私に上手く行くから……」

「私でも成功したんだから大丈夫よ。心配なら、まずは少しの額から始めればいいのだし」



 そうして私はエリザを信じ、彼女の話に乗る事に─。

 結果、それは上手く行き……残った使用人達に給金を無事に払う事が出来た。

 私はホッと一安心するも、その頃から何故か急に体に不調を感じ寝込むようになってしまった。



 するとその度に、エリザは私を心配して見舞ってくれ……全く心配してくれない夫に代わり、私の事を案じてくれる彼女を益々私は頼りにするのだった。



 またサムとシャルもそんな私を気遣い、見舞いだと言って庭の花を届けてくれた。

「奥様、この部屋の窓からも良く見える所に新しい花を植えました。少しは気晴らしになるかと──」

「ありがとう。香りもここまで漂って来るし…本当に庭に居るみたい。ほら、シャルも見える?……シャル、どうしたの?こちらにおいで?」

 シャルは暗い顔をして、部屋の隅で固まって居る。



「奥様がこの所に庭にお見えにならず臥せって居るので、重病だと心配して──。奥様がこのまま消えてしまうんじゃないか、そう考え怯えて居るんですよ。あぁ、縁起でも居ない事を……申し訳ありません!」

「大丈夫よ。シャル……私は大丈夫だから、こちらにおいで?」

 私が再び名前を呼ぶと、シャルは私の元へ駆け寄って来た。



「シャル……あのバラの調子はどうかしら?蕾はどうなった?」

「うん……ちゃんと大きくなったよ。きっともうすぐ咲くと思う」

「良かった!じゃあ、シャルのお願い事が漸く叶うわね。きっとお母様が戻って来て、それで──」

「……来ないよ!戻ってなんか来ない!あの願い事はもういいの、諦めたの。これ、僕からのお花……花瓶に飾って?」


 
 シャルはベットにかけた私に数本の花を渡し、部屋を飛び出して行ってしまった──。
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