『恋愛短編集①』離縁を乗り越え、私は幸せになります──。

Nao*

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結婚してから私にそっけなくなった夫には、想い人の聖女様が居たようです。

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 今日こそは、夫婦一緒に出掛けようと約束をしていたのに…なのに、いつもと同じように夫は返ってこない。



 結婚して一ヶ月経つが、夫と寝食にしたのは最初の数日だけ。
 
 夫はそのほとんどを、この地の外れにある神殿で過ごしていた。
 


 私は夫の帰りを待ちきれず、彼の居る神殿へと向かった。



 するとそこには、夫に腰を抱かれ寄り添う美女が─。

 仲睦まじい二人を見てしまい固まる私だったが…そんな私に気づいた夫はこう言った。



「実は、俺はこの神殿の聖女様を昔から愛して居るんだ…。でも彼女はその立場上、誰のものにもならない。俺はそれを分かった上で、彼女を心から愛している。」

「じゃ、じゃあどうして私と結婚したんです!」

 そう涙ながらに問えば、いつまでも独り身では世間体が悪いから…それで親に言われるまま、彼は私と結婚を決めたと返した。



「結婚前、あんなに私を気遣い優しくしてくれたのに…だから私はこの人ならと、結婚を決めたのよ!」

「結婚までは、お前の機嫌を損ねないよう優しくしていたに過ぎないよ。でも、流石に毎日の事になると面倒になったんだ。だからお前に優しくするのを辞めた、ただそれだけの事だ。別に、俺はお前の事が嫌いという訳じゃない…だから離縁する気も今のところ無い。それに、お前もいい年だろう?俺と別れたら後がないんだし、今のままでも構わないじゃないか。」

「そうよ、彼の言う通り今までのように従順な妻で居なさい。もし私たちの邪魔をしようと言うなら…聖女に害なす者として、罪人扱いされてしまうかもね。」

「そ、そんな…。」

 聖女様の言葉に恐れをなした私は、泣く泣く神殿を後にするのだった。



 しかし、それから一か月後…私は、偶然町で聖女様に出くわした。

 彼女は、人目をはばかるように俯き加減で歩いて居て…そのせいで彼女の方は私に気付く事なく、一緒に居る相手と楽しそうに話をしている。



 すると近くに居る私の耳に、二人の会話が次々と入って来た。



 …あぁ、そういう事か。

 あなたはあなたで、そんな事を考えて居たのね。

 どうやら夫は彼女と一緒になっても、幸せにはなれないようね─。



 それから少しして、夫の事業が経営不振に陥った。

 と言うのも…結婚前から妻を裏切っていた最低の男だと悪評が立ち、契約を次々打ち切られ資金繰りに困るようになったからだ。




「…もう俺はお終いだ。でも俺はこの先は神官の一人として愛する彼女に仕える人生を送って行くから、お前はお前で違う男を見つけて生きろ、じゃあな!」

 
 
 そう、あっさり離縁を告げた夫は…家に残って居た全ての金を手切れ金だと言って私に押し付け、足早に家を出て行くのだった。



 それが、一週間前の事だったが…今私の目の前には、この前の金を返して欲しい…何なら復縁しようと頭を下げる夫の姿があった。


 
「俺は、彼女だけを愛して来たのに…彼女はそうではなかった。彼女は俺のライバルで俺より少し金持ちの事業家とも良い仲で、いや…あっちが本命だったようだ。俺が彼女に現を抜かす間に、俺の事業を潰す…それが成功したら、沢山の貢物を送るから協力しろとそいつに言われ、彼女は喜んでそれを実行したんだ。俺の悪評を流したのも彼女だった。目標は達成したから、もう私に付きまとうな…神殿にも来るなと俺を拒絶して…。」

 

 遂に夫は泣き始めてしまったが…私は、当然復縁を受け入れはしなかった。


「私もそうでしたが、あなたも人を見る目が無かったわね。あのお金は、慰謝料として受け取りました。あなたに返す必要はないわ。あなたも、私でなく違う女でも見つけて生きて行けば?あの女以外にね。」

 そう返した私に、夫は絶望の表情で帰って行くのだった。



 そしてその後の事は、噂で知ったが…夫はこうなったのもあの女のせいだと、神殿に押し掛け彼女を襲った。

 結果、夫は聖女への反逆罪で捕らえられ牢に入る事となった。


 するとその騒ぎで、彼女のやった事が明るみになり…彼女は聖女の座を剥奪され、この地から追放され…こうして、夫の愛は終わりを迎えたのだった。



 一方私はと言うと…彼から貰った手切れ金、いや…慰謝料で事業を立ち上げる事に─。



 結婚前から夫の事業を手伝って居たから自分も…いや、彼よりも上手くやれる自信はあったのだ。

 そして思った通り、事業はあっという間に軌道に乗り…その結果あっという間に人脈が広がり、私はある素敵な殿方と知り合う事となった。



 彼はとても純粋で、真っ直ぐで…だからか、いつも私に自身の気持ちを思い切りぶつけて来てくれた。



 私は元夫との事もあり、まずはお友達からと言い彼とこれまで会って来たけど…彼にどんどん惹かれて居るのは自覚して居るし、そろそろ気持ちを固め彼に良い返事をしようと思うのだった─。
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