『恋愛短編集①』離縁を乗り越え、私は幸せになります──。

私の妊娠を喜ばない夫は、お腹の子を自身の姉の養子にすると言い出しました。

　主治医の見立てによると、私は夫の子を身籠ったらしい。

　そしてそれを夫に報告すると、彼は喜びもせず何とも言えない表情を見せただけに終わった。



　するとその数日後、夫の口からとんでもない言葉が出た。

　それは、私のお腹の子を自身の姉の養子にしようと言うものだった。



　驚いた私が、それは一体どういう事かと尋ねれば…姉は、中々子供が出来ず悩んで居る─。

　お前は姉より若いし次があるだろう、その子の母親になる事は諦めその座を姉に譲れと言う。



　その言葉に、私は夫が正気かを疑ってしまった。

　だが彼は結婚前から美人の姉をやたら大切にして居り、そのような言葉が出てもおかしくはない。


　
　でも私は、絶対にそんな事はしたくない…私はこの子を産み、自身の手で育てて行きたいと拒否した。



　しかしそれと同時に私は以前から夫のある行動が気になっており、それについてこっそり調べる事に─。

　姉の事を想いあんな事を言っただけではなく、きっと他に大きな理由があるはずだわ─。



　そして、それから一週間後。

　私の元に、夫に関する調査報告書が届いた。



　それには、私の妊娠中に夫が浮気をして居る事が書かれて居た。

　妊婦の私を放置し夫が度々家を空けて居たのは、その浮気相手と会う為だったと言う訳だ。



　私よりも若く可愛い愛人を作った夫は、身重の私を捨ててまで彼女を新たな妻に迎えたいと考えるようになったが…その時に子供が居ては、何かと面倒な事になると考えたらしい。

　その為夫は、私のお腹の子を今の内に義姉の養子にする事を勝手に決めたのだ。



　また夫は子を望む義姉に、養子に出す事は妻のあいつも納得して居る─。

　お姉さんのような美しく優しい女性に育てて貰った方がこの子も幸せになれると言って居ると、とんでもない嘘まで付いて居たのだ。



　私はこれらの件を、すぐに義姉や義両親に報告…不貞を働いた挙句邪魔になった子供や私を捨てようとする身勝手な彼とは、もう離縁すると告げた。



　すると義姉はそんな事とは知らなかったと驚き、そのお腹の子の母親は私ではなくあなただと味方になってくれた。
　
　また義両親は、息子が馬鹿な事をして済まないと彼に代わり謝罪…私に慰謝料や教育費をしっかり払う事を約束すると同時に、罰として彼をこの家から追放するとまで言ってくれたのだ。



　その後、そんな事とは何も知らない元夫は義両親に呼び出され…私に諸々のお金を支払う為自身の財産を全て没収され、身一つで家から叩き出された。

　そうなって元夫は、愛人に救いを求めたが…お金のない男にもう用は無いと別れを切り出され、そのまま路頭に迷う事になるのだった。



　そして私はと言うと…実家に戻った後に夫との子供はお腹には居なかった、元夫の主治医の判断ミスであることが発覚した。



　それを知った私は、これまでの騒動は何だったのかと一時落胆してしまったが…新たな主治医となってくれた古い知り合いの殿方が、そんな私を優しく慰めてくれた。



　そして私はそんな彼と次第に患者と医師以上の関係になり、交際を始める事に─。



　その後結婚することまで決まり式の準備を進める中、私は元夫が路頭に迷った後に病死した事、彼の元愛人が結婚相手を見つけ漸く幸せになろうとしたのに不妊が発覚し苦しんで居る事を人づてに知る事となった。



　どうやらあの二人は、しっかりと不貞を犯した罰を受けたようね…。

　私は今度こそ妊娠し少しふっくらしたお腹を触りながら、あの二人の顔を思い浮かべたが…愛する彼に呼ばれた為、すぐに気持ちを切り替え声のした方へと向かうのだった─。