『恋愛短編集①』離縁を乗り越え、私は幸せになります──。

Nao*

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初夜以来私を抱こうとしなかった夫に迫られましたが、それを拒否し離縁を突き付けます。

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 結婚して五年目になる、私と夫。

 そんな彼との結婚は親から言われた事だが…私は彼に密かに憧れて居た為、とても嬉しかった。

 しかし…そんな彼との仲は、今やすっかり冷え切って居た。



 と言うのも、彼に求められたのは初夜の時だけ─。

 彼はそれ以降、私を一度も抱こうとはしなかった。


 
 でも、それで彼が欲求不満になる事は無かった。

 何故なら、彼には他所に愛人が居たからだ。

 

 夫とその愛人は、実は私達が夫婦になる前からの関係だった。

 当時、その女の両親と今は亡き彼の両親同士が不仲で…二人はついに結ばれる事が出来なかったらしい。

 
 
 きっと夫は初夜の時…流石に最初だけはと、仕方なく私を抱いたのだろう。

 でも、その一回で子供が出来てしまうとは…これは、彼も予想外だったに違いない。

 

 私が二人の関係を知りながらも離縁できないで居たのは、この子の為だった。

 この子は体が弱く、大きな手術を終えたばかりだ。

 まだもう少しだけ、穏やかな生活を送らせてあげたい─。



 それから三ヶ月程が過ぎた、ある夜の事─。

 夫が急に私の部屋を訪ねて来て、私を求めて来た。

「今日は久しぶりにお前と楽しみたくて─。」

「何故、今なんです?」
 
「それは…事業が忙しかったし、何より息子が病気ばかりでお前もそんな余裕はなかっただろう?今まで寂しい思いをさせた分、たっぷり可愛がって─」

「お断りです。」



 私は、肩に置かれた夫の手を払い除けた。

「あなた…あの愛人と別れたのでしょう?」

「な、何を言って─」

「あなたにそう言う女が居た事など、とっくに知って居ました。あの女の家は…事業の失敗で破産しましたね?それで今日、あの女は娼館に売られる事になって居たそうね。」

「そ、それは…。」

「そんな彼女は、自分と共に駆け落ちして欲しいとあなたに訴えたけれど…そこまで情が無いあなたは、それを拒否して彼女を捨てた。それで次の愛人を探して居るけれど…その間の繋ぎとして、私を抱こうとしてるのよね?」



 私の言葉に、夫は何も言えず焦って居る。

「最近、私の従者にあなた達を尾行して貰って居たの。それに、あなたの考えなど大体分かるわ。これでも、私はあなたの妻なのだから…。でも、それも今日で終わりよ。」

「え…?」

「私はあなたと離縁し、息子を連れてこの家を出て行きます。」

「そ、そんな…!」

「あの子の身体ももう元気になったし…この五年の内に、あの子を養えるだけのお金も貯める事が出来た。今あなたと別れたって、私は何も困らないもの─。」



 夫が浮気に勤しむ間…私は自身で事業を立ち上げ、今や夫に頼らずとも生きて行ける状態だ。

 むしろ、夫の事業の方が最近傾き始めて居て…おまけにこれまで愛人に多額の金を貢いで居た事もあり、彼の方が私を失うとこの先苦しい思いをするはずだ。

 

 すると、夫もそれが分かったのか…離縁だけは嫌だ、これまでの事は謝ると泣きついて来た。

「無理ね…。だってあなたは私だけでなく、息子にももう必要とされて居ないから。」



 とその時、ドアをノックする音がし…私はどうぞと答えた。
 
 そして部屋のドアが開き…鞄に荷物を詰めた息子が入って来た。



「手術の時もその後も、ちっとも顔を見せてくれない父上など…僕はもう要りません。僕は、母上だけ居て下さればそれで十分です。」

 息子の言葉に、夫はショックを受け固まった。

 私はそんな夫を無視し、息子の手を取ると…実家から迎えに来た馬車に乗り込み、彼の元を去ったのだった─。



 その後、元夫は復縁を迫って来たが…それに必死になる余り事業が手つかずとなり、やがて多額の借金を抱え破産する事に─。

 おまけに、息子と同じ心臓の病になり…彼は苦しむ事になったのだ。


 
 息子の病は遺伝性と言われて居て…私も元夫も過去に検査した際、特に異常は無かったけれど…まさか今になってそんな病を発症するとは─。

 お金もなく身寄りもないでは、彼は一体どうするのかしら?

 まぁ…離縁した私には、もう関係のない事だけれど─。



 私は今、実家で息子と仲良く暮らして居る。

 息子は日に日に逞しく成長し…母上の事業は大きくなったら僕が引き継ぐと言ってくれ、これまで頑張って来て本当に良かったと思えた。

 それに…そんな息子や私を大事にしてくれる素敵な殿方と出会い、来年には再婚する事も決まったし…今、私はとても幸せよ─。
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