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いつまで待っても夫の心が手に入る事はないと分かったので、この結婚生活を終わりにします。

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 家同士の約束である殿方と結婚する事になった私。

 するとその際、彼は私にこう言った。

『自分には、忘れられない初恋の相手が居る。だが君と結婚するに当たり、もう彼女の事を忘れるよ。そして、君を心から愛する夫になる─。』



 私は、そんな彼を受け入れる事にした。

 始めから自分の気持ちを隠し結婚されるより、こっちの方が余程良い。

 彼がいつか私だけを愛してくれる様、私は良妻となり彼を大事にするわ─。



 そして、それから三年の月日が経ったのだが…彼が私を愛する日は来なかった。

 と言うのも…私は中々子を授かる事が出来ず、彼が期待する跡取りを産む事が出来ないで居たからだ。


 
 すると彼は、そんな私と結婚した事は失敗だったと言う様になった。

 と同時に、家を空ける日が多くなり…帰って来ても、それはいつも日付が変わる頃だった。



 そんなある日の事─。

 私は、友人から衝撃的な事実を告げられた。

 何と夫が初恋の相手と偶然にも再会し、自分の恋心を伝え…そしてその女も、彼がずっと好きだったと返したそうだ。



「…それで二人は盛り上がり、その場で口づけを交わし…そして夜の街に消えって行ったんだ。彼は君の友人である俺がやっている店と知らず、そこでそういう不貞を犯したんだ。」

 しかも、それはもう三ヶ月も前からの事だそうだ。

「人の家庭の事に口を出すのはどうかと悩んで居たが…これ以上、君があの男に騙されるのは許せなくて─。」



 騙す、か…。

 確かに、彼の言う通りだ。

 君をいつか好きになると言った癖に、裏ではそんな事をして居たのだから─。


 
 しかも夫は、新しく事業を始めると言う理由で私から事業資金を貰ったばかりだ。

 でも私がそうしたのは、彼が妻である私をこの先愛してくれると思ったから─。



 すると彼は、夫は新しい事業を始める気はない…金が欲しかったのは、彼女を囲う別荘を建てる為だったと教えてくれた。

「この前、二人は店でそう言う計画を立てて居た。君の夫は…この先も君を愛する気は毛頭ない。彼の愛は、もうその女だけに注がれて居るんだ。君はもう、十分彼の愛を待ったよ。でも、もうそろそろ見切りをつけても良いんじゃないか─?」



 
 その翌日─。

 私は酒が回りご機嫌で帰宅した夫を捕まえ、離縁して欲しいと告げた。

「あなたが初恋の女と浮気して居る事は、もう分かってます。その証人となってくれる方も居ます。あなたの不貞で離縁するのですから、慰謝料を払って下さい。」

 そして私が提示した額を見た夫は、信じられないと言った顔をした。



「こ、こんな額が払える訳が無いだろう!?」

「払わないなら、約束を違えたとしてもっと額がつり上がりますよ?だってこの前、あなたがサインした書類にそう書いてあったじゃないですか─。」


 
 実は、夫に資金を渡した時…私は最近夫が冷たくなった事に不安を感じ、ある書類を用意して居た。

『もし、夫であるあなたが妻の私を裏切る様な真似をしたら…今渡したお金の三倍の額を払う事─。』

 その書類に、夫はサインを入れた。



「あ、あの時は夜遅くて眠かったから…そんな詳しい所まで読まなかったんだ!」

「でも、大事な事だからちゃんと読んでからサインをしてと、私は言いましたよ?それに対し、あなたも分かったと返しました。その結果こうしてサインをしたのだから、あなたにはこの額を払う義務があるんです─。」


 
 その後、元夫は急遽別荘の建築を中止し…必死でお金をかき集め、私が提示した額の慰謝料を払ってくれた。

 でもその事で初恋の相手を怒らせ…約束を破った挙句貧乏になった男はもう要らないと、こっ酷くフラれてしまった。

 しかもそんな騒ぎを起こしたせいで、今まで順調だった事業は傾き始めてしまい…元夫は、自宅を手放す羽目になってしまった。

 こうして彼は、私との約束を破った事で何もかもを失う事になったのだ─。



 一方、私はと言うと…夫の不貞を教えてくれ、その後も色々と相談に乗ってくれた友人と交際を始める事に─。

 そんな彼は、以前から私が好きだったそうで…私が家同士の約束で結婚しても、その気持ちを捨てる事無く持って居てくれたのだった。



「いつか君を愛するなどと言う男より、君を愛して居るとハッキリ言えるあなたたと付き合う事が出来て本当に嬉しいわ。」

 そう話す私に、彼は笑顔でこう言った。

「俺は昔や今だけじゃなく…この先も、ずっと君だけを愛すよ。だから、これからもずっと俺の傍に居て欲しい。」

 私はそんな彼の気持ちがとても嬉しくて…頷くと同時に、彼の逞しい胸に飛び込んだのだった─。
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