『恋愛短編集①』離縁を乗り越え、私は幸せになります──。

Nao*

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裕福な暮らしを手に入れた途端、夫は良妻である私を裏切りました──。

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 結婚当初夫の事業はそこまで順調では無く、私は両親の遺した遺産を使って彼を陰ながら支える事にした。


 そして、それから五年の月日が経過─。

 夫の事業は、漸く軌道に乗る事が出来た。



 もう、がむしゃらに働かなくても十分やって行ける…。

 これまでは事業を拡大する事だけを考えて来たが…これからは夫婦の時間を大切にし、子供だって欲しいわ─。

 私は、そんな事を考えて居たが…夫は違った様だ─。



 事業が軌道に乗ってからと言うもの、夫は若い女に手を出す様になった。
 
 夫は気に入った女達に金をばら撒き、毎晩の様に飲み歩いてばかり居た。

 私は、どうかそんな事は辞めて欲しいと夫に訴えた。

 しかし夫は…俺が稼いだ金で何をし様が俺の勝手だ、妻の癖に夫に意見をするなど生意気だと怒った。



 大金を手にすると人が変わる事があると聞くが…まさか、自分の夫がそうなるとは思っても居なかった。

 私は、今まで妻としてあなたに尽くして来たのに…こんなの酷すぎる─。


 
 その後も、夫の女癖は治るどころかどんどん酷くなる一方だった。

 昼間から愛人を家に呼び、酒を飲んでは厭らしい事をして居る。

 私が嫌な顔をすれば、犯行的な態度を取るなと手まで上げる様になり…私は、そんな生活に耐えられなくなって居た。


 
 するとそんな中…夫が離縁を迫って来た。

 聞けば、愛人の一人にすっかり心奪われ…彼女を新たな妻に迎えたいそうだ。

 その女の名を聞いた私は…どこか引っかかるものを感じた。

 しかし、その理由が分からない。



 考え込む私に、夫は痺れを切らしこう言った。

「事業が軌道に乗った今、お前はもう用無しなんだよ!慰謝料はちゃんとくれてやるから、さっさとこの家を出て行け!」

 こうして私は、夫から札束の入った鞄を投げつけられると…家から叩き出されたのだった─。



 その後、元夫はすぐにその愛人を家に迎えた。

 そんな彼に、愛人は色々とおねだりし…宝石や高価なドレスをいくつも買って貰い、優雅な暮らしを送り…そうして幸せそうに過ごす愛人を見て、元夫は心から満足して居る様だった。

 だが、そんな生活もすぐに終わりを迎えた。


 
 と言うのも…元夫は嘘の投資話に引っ掛かり、財産の殆どを失った挙句に借金まで背負う事になったからだ。
 
 すると愛人は、そんな彼にすぐに見切りをつけ去って行った。

 しかし、これに元夫は激しい怒りを見せた。

 何故なら…その投資話を持って来たのは、その愛人だったからだ。

 だが…彼女は金目の物を全て持ち去り、完全に姿を消してしまった─。



「…俺はあいつに裏切られたんだ。それに…今思えば、あいつがあんなに色々と俺に物を強請ったのは、俺に財産を浪費させる為だった様な気がしてならない。」

 そう言って、私を訪ねて来た元夫は項垂れた。

「でしょうね。あの女は…あなたを恨んで居たはずだから。」

 そして私は、ある事を夫に伝えた。



 姿を消したあの女は…夫が事業を拡大させる為に利用するだけ利用して潰した、ある名家の娘だった。
 
 そんな彼女は、元夫の事を恨み…それを晴らすべく彼の愛人になり、そんな嘘の投資話を持ち掛けたのだろう。



「彼女の名前に何となく聞き覚えがあったんですが…あなたに離縁されてから、それを思い出しましてね。」

「なら、どうして教えてくれなかった!」

「離縁し赤の他人になったあなたに、そこまでする義理は無いでしょう?それで…今日あなたがここにやって来たのは、きっと私に今の状況をどうにかして貰う為だろうけれど…私は、もうあなたに尽くす様な事はしないわ。」

「そ、そんな─。」

「だって私には…既にあなたではなく、他に尽くしたい相手が居ますから─。」



 すると部屋のドアが開き、一人の殿方が入って来た。

「お前は…俺の事業を一時手伝って居た…?」

「そうよ。彼はあれから独立し…今はその事業を軌道に乗せ、順調にやって居るわ。だから、私との再婚も前向きに考えてくれてるの。」

「何!?」

 

 驚く元夫に、彼はもういいだろうと言って襟を掴むと、家から放り出した。

「彼女の様な良妻を捨てるなど、あなたは本当に愚かだ。そんなあなたの元で働いて居た事は汚点だが…でも、そのおかげで彼女との縁が出来た。俺は…その頃から、賢く慎ましやかな彼女に惹かれて居た。彼女の事は俺が幸せにするから安心しろ─。」

 そして、二度と私に近づくな…もしそれを破ったらただではおかないと言うと…元夫は冷や汗を流し去って行った。

 その後、元夫は借金取りに追われこの地を去ったそうで…今はどこでどうして居るか分からない─。



 その話を聞いて、私はこれで彼と共に穏やかに暮らす事が出来ると安心し…そんな私を、彼は今日も変わらず大事にしてくれるのだった─。
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