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つまらない女だと私を捨て別の女に走った夫が今更復縁を願って来ますが、お断りです。
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「頼む…もう一度、俺を愛してくれ!そして俺の妻に─!」
ボロボロの服を纏ったみすぼらしい男が、私に頭を下げ涙を流している。
そんな彼は、半年ほど前に別れた元夫だ。
「…私のようなつまらない女は嫌だと仰ったのに。今更そんな事を言われても困ります。」
私のつれない返事に、彼は新たな涙を流した─。
そして私は、そんな彼との過去を思い出すのだった─。
「どうだこの絵、素晴らしいだろう?」
「…それ、どうしたんです?」
「知り合いにある画家を紹介されてな、今日会って来たんだ。そしたら記念にこれをくれて。」
彼は嬉しそうに、その絵を壁に飾った。
「絵に興味はなかったのでは?」
「今日好きになったんだ。彼女とは、この先も付き合う事になりそうだ…今度はどんな絵を買おう。」
「そんな絵に、そこまでするのですか!?」
「そんなって…俺の金で買うんだ、お前が口を出すな!全く…生意気で可愛くない女だ。」
それから彼は、宣言通り頻繁にその女から絵を買うように─。
この絵に、私は素晴らしい価値があるとは思えない。
だってこの絵は、嘘の上に成り立って居るのだから─。
***
「はい、次の絵。」
「ではこれがその代金だ。君は才能に溢れた素晴らしい女性だな、妻とは大違いだ。」
「あなたの奥様、家に籠り怠けてばかりなんですって?私が男なら、そんな妻さっさと捨てるわ。そして才能に溢れた素敵な女を新たに妻に迎えるの。」
「それは…君の事かな?」
「ウフフ、そう思ってくれて構わないわ。」
俺と彼女は、何度か会い絵の売り買いをする内に自然と深い仲になった。
彼女はとても美しく色気のある女だ、俺はその魅力に抗えなかった。
新婚時代もとっくに過ぎ去り、妻の身体にも飽きていたし丁度いい。
家同士の繋がりでの結婚で、元々そこまであいつが好きで結婚したわけでもないし…遅かれ早かれ、どこかの女とこういう関係になって居ただろうし─。
「あなた、最近少し絵を買いすぎです。もうあの女とは、縁を切った方が良いと私は思います。」
「口を出すなと言ったじゃないか!分かったぞ…さてはお前、彼女の才能に嫉妬してるな?自分にないものを持つ彼女が、俺に気に入られてるのが嫌なんだろう?実にくだらない…お前のようなつまらない女はもう嫌だ、ううんざりだ!」
「私は、あなたの為を想い─」
「だとしたら余計なお世話だ。いい機会だ…俺と離縁してくれ。お前のような女とは、この先とてもやって行けん。」
妻は辛そう顔をしていたが、俺はそれを無視した。
結局、俺の気持ちはその後も揺るがず妻は俺の元を去り…俺は意気揚々と、彼女を新しく妻に迎えたのだ。
才能ある女を妻に迎え、俺はこれから幸せになる!
そう、思って居たのに─。
「まさか彼女の絵が、他人を騙し誰かに描かせたものだったとは。しかもその中には、お前の絵も含まれていたとは気付かなかった…。お前がああして部屋に籠っていたのは、彼女に命じられ絵を描いていたからだったんだな。」
「だから縁を切れと言ったのに、あなた聞かないから…。そうよ。彼女は絵が得意な者達に家に飾るだけだと絵を描かせ…でも実際は、それを自分が描いた物だと嘘を付き続けて居たそうね。なのにあなたは、新たに妻になった彼女の絵を商売にし、色んな方に売りつけた。でも事実が発覚してから売り上げは激減…その後彼女は行方をくらまし、残ったのは多額の負債だけ。」
「まさかこんな事になるとは思わなかったよ…。復縁が無理なら、俺に金を貸してくれるだけでいい─」
「お断りです。」
「何でだ!?そもそも、お前が実力を持った画家だった事を隠さなければ、俺はあいつを選ばなかったんだぞ!お前にも責任がある!」
「私に責任を押し付けないでよ。正体を明かしたら、あなたの金もうけの道具に利用されると思ったからよ。あなたがこうして負債を抱えたのは自己責任です。私とは離縁をした時点で縁は切れているの。慰謝料も貰って居るし、私の方はあなたに用などないわ。」
「そんな…!」
その後、元夫は必死に彼女を探したがとうとう見つけられなかった。
そして、ついに彼は破産する羽目に─。
今では売れ残った絵に囲まれ、一人寂しく生活を送っているようだ。
一方、私はと言うと…お金持ちの素敵な殿方にその絵の才能を買われ、再婚─。
彼の元で、絵描きをしながらのんびりと優雅な日々を送って居る。
彼は私の才能だけでなく、料理上手で淑やかな人偏性も好きだと言い、私を素晴らしい女性だと褒め称えてくれる。
今の私はもう、元夫が言うつまらない女などではない…愛する人に才能も中身も認められた素晴らしい女性だと、胸を張って言えるわよ─。
ボロボロの服を纏ったみすぼらしい男が、私に頭を下げ涙を流している。
そんな彼は、半年ほど前に別れた元夫だ。
「…私のようなつまらない女は嫌だと仰ったのに。今更そんな事を言われても困ります。」
私のつれない返事に、彼は新たな涙を流した─。
そして私は、そんな彼との過去を思い出すのだった─。
「どうだこの絵、素晴らしいだろう?」
「…それ、どうしたんです?」
「知り合いにある画家を紹介されてな、今日会って来たんだ。そしたら記念にこれをくれて。」
彼は嬉しそうに、その絵を壁に飾った。
「絵に興味はなかったのでは?」
「今日好きになったんだ。彼女とは、この先も付き合う事になりそうだ…今度はどんな絵を買おう。」
「そんな絵に、そこまでするのですか!?」
「そんなって…俺の金で買うんだ、お前が口を出すな!全く…生意気で可愛くない女だ。」
それから彼は、宣言通り頻繁にその女から絵を買うように─。
この絵に、私は素晴らしい価値があるとは思えない。
だってこの絵は、嘘の上に成り立って居るのだから─。
***
「はい、次の絵。」
「ではこれがその代金だ。君は才能に溢れた素晴らしい女性だな、妻とは大違いだ。」
「あなたの奥様、家に籠り怠けてばかりなんですって?私が男なら、そんな妻さっさと捨てるわ。そして才能に溢れた素敵な女を新たに妻に迎えるの。」
「それは…君の事かな?」
「ウフフ、そう思ってくれて構わないわ。」
俺と彼女は、何度か会い絵の売り買いをする内に自然と深い仲になった。
彼女はとても美しく色気のある女だ、俺はその魅力に抗えなかった。
新婚時代もとっくに過ぎ去り、妻の身体にも飽きていたし丁度いい。
家同士の繋がりでの結婚で、元々そこまであいつが好きで結婚したわけでもないし…遅かれ早かれ、どこかの女とこういう関係になって居ただろうし─。
「あなた、最近少し絵を買いすぎです。もうあの女とは、縁を切った方が良いと私は思います。」
「口を出すなと言ったじゃないか!分かったぞ…さてはお前、彼女の才能に嫉妬してるな?自分にないものを持つ彼女が、俺に気に入られてるのが嫌なんだろう?実にくだらない…お前のようなつまらない女はもう嫌だ、ううんざりだ!」
「私は、あなたの為を想い─」
「だとしたら余計なお世話だ。いい機会だ…俺と離縁してくれ。お前のような女とは、この先とてもやって行けん。」
妻は辛そう顔をしていたが、俺はそれを無視した。
結局、俺の気持ちはその後も揺るがず妻は俺の元を去り…俺は意気揚々と、彼女を新しく妻に迎えたのだ。
才能ある女を妻に迎え、俺はこれから幸せになる!
そう、思って居たのに─。
「まさか彼女の絵が、他人を騙し誰かに描かせたものだったとは。しかもその中には、お前の絵も含まれていたとは気付かなかった…。お前がああして部屋に籠っていたのは、彼女に命じられ絵を描いていたからだったんだな。」
「だから縁を切れと言ったのに、あなた聞かないから…。そうよ。彼女は絵が得意な者達に家に飾るだけだと絵を描かせ…でも実際は、それを自分が描いた物だと嘘を付き続けて居たそうね。なのにあなたは、新たに妻になった彼女の絵を商売にし、色んな方に売りつけた。でも事実が発覚してから売り上げは激減…その後彼女は行方をくらまし、残ったのは多額の負債だけ。」
「まさかこんな事になるとは思わなかったよ…。復縁が無理なら、俺に金を貸してくれるだけでいい─」
「お断りです。」
「何でだ!?そもそも、お前が実力を持った画家だった事を隠さなければ、俺はあいつを選ばなかったんだぞ!お前にも責任がある!」
「私に責任を押し付けないでよ。正体を明かしたら、あなたの金もうけの道具に利用されると思ったからよ。あなたがこうして負債を抱えたのは自己責任です。私とは離縁をした時点で縁は切れているの。慰謝料も貰って居るし、私の方はあなたに用などないわ。」
「そんな…!」
その後、元夫は必死に彼女を探したがとうとう見つけられなかった。
そして、ついに彼は破産する羽目に─。
今では売れ残った絵に囲まれ、一人寂しく生活を送っているようだ。
一方、私はと言うと…お金持ちの素敵な殿方にその絵の才能を買われ、再婚─。
彼の元で、絵描きをしながらのんびりと優雅な日々を送って居る。
彼は私の才能だけでなく、料理上手で淑やかな人偏性も好きだと言い、私を素晴らしい女性だと褒め称えてくれる。
今の私はもう、元夫が言うつまらない女などではない…愛する人に才能も中身も認められた素晴らしい女性だと、胸を張って言えるわよ─。
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