『恋愛短編集①』離縁を乗り越え、私は幸せになります──。

Nao*

文字の大きさ
上 下
28 / 132

愛に恵まれなかったと言う幼馴染を溺愛する夫と義両親には、もう愛想が尽きました…。

しおりを挟む
「遠慮せず自由にこの家で過ごしてくれ、妻の事は物だと思ってくれて構わないから。」

「ウフフ、分かりました。これからよろしくね?」

 そう言って、自分に甘える幼馴染を溺愛する夫。



「この子は愛嬌があって本当に可愛いわ!」

「そうだな、今すぐ嫁と立場を入れ替わって欲しいよ。」

 夫の両親も、嫁である私よりその幼馴染を可愛がってばかりだ。



 私はこの現状に、そっと溜息を吐いた─。



***



 始まりは、夫の幼馴染が突然この家に押しかけて来た事だった。


 彼女曰く、嫁ぎ先の夫が酷い酒乱で何とか離縁し逃げて来たが…離縁が恥ずかしくて、実家には頼れないらしい。



「恥ずかしいって…実家に頼るのは、何も悪い事では─」

「あの子は愛に飢えた可哀相な子なんだ…両親にろくに愛されなかったそうでな。両親にも夫にも愛されないとは、さぞや辛いだろう。」



 そう言って、夫は彼女の身の上を憐れんだが…私は、そんな彼に不満をぶつけた。



「でも、私の身にもなって下さい。彼女が来た事で、私はもうすぐあなたに捨てられる…そんな噂が出回ってしまって居るのです。それについてあなたのご両親は否定するどころか、いずれ本当にそうなると話して回ってるとか…。それと、彼女の事で大事な話が─」

「お前な、そんな噂など一々気にするな。お前が細かい事に拘る鬱陶しい性格の女だから、俺の両親から可愛がられないんだぞ?少しは彼女を見習え!」



 そう言って、夫は私の話をまともに聞かないどころか私を非難した。



 あなたは、私の夫よね?

 どうして悪い噂や義両親から、私を守ってはくれないの?



 それにさっき、幼馴染の事を愛に飢えた可哀相な子と言ったわね。

 じゃあ、私は?

 あなたに置物だと言われ、あなたに愛されない私は可哀相じゃないの…?



 何より、あの子の事で伝えたい事があったのに…。

 もういいわ、あなたには愛想が尽きた。

 幼馴染ばかり溺愛する夫や義両親など、もう要らない─。



***



「あいつが出て行った…?」

「そうなのよ!家の仕事をほったらかして居なくなるなんて、役に立たない子だわ!」

「仕方ない嫁だな、全く!」



 あいつ…俺の両親の機嫌をこれだけ損ねたんだ、戻って来てもタダじゃ済まないな。


 いや、いっそ戻ってこない方がいい。

 そしたらあいつを有責に離縁…幼馴染の彼女と結婚できるから─。



 暫く一緒に過ごす内に、俺は彼女に惚れてしまった。

 今は幼馴染ではなく、一人の女として見ている。



 そしてそれを両親に伝えると、二人とも是非幼馴染の尚所と一緒になれと言ってくれた。



 だから、あいつが自らこの家を出て行ってくれて嬉しかったのに…それから少しして、あいつが突然一人の男を連れ戻って来た。



***

 

「お前、今更何しに戻って来た!それにその男は誰だ!?」

「この方は、あなたの幼馴染の旦那様です。」

「旦那って…彼女、離縁したんじゃ!?」

「馬鹿を言わないでくれ!あなたの奥様が、あいつがここに居ると知らせてくれた。俺たち夫婦は離縁などしてない…あいつが家の金を使い込み、問い詰めたら勝手に逃げ出したんだ!さぁ、あいつはどこに居るんです?」

「か、彼女なら街へ買い物に…。」

「ところであなた…家のお金はどうなってます?まさか、彼女に預けたりしてませんよね?金庫の場所や番号など、彼女に教えては居ませんか?」



 そんな私の言葉に夫はみるみる内に真っ青な顔になり、慌てて部屋を飛び出した。

 そして部屋のあちこちでドタバタ音がしやがて静かになったかと思うと…少しして、彼は暗い顔で私の元に戻って来た。



「…な、何もなかった。全部空だった。」

「あなたも俺と同じだな。あいつは嘘つきだ…両親に愛されなかったのも嘘。あいつは盗み癖が治らなくて、家を勘当されただけだ…。」

「何だって!?」

「俺は彼女を探しに行く…恐らく、もうここには戻ってこないだろうから。」

 幼馴染の夫は、そう言って部屋を出て行った─。



「全く、幼馴染の癖にすっかり騙されて…溺愛する余り盲目になってしまったのね。」

 そう言って、私は絨毯をめくり地下収納から箱を取り出した。



「それは…!」

「あなたが私に隠れ貯めてたお金よ。私は家を出る前、これだけはここに移しておいたの。あなたはあの女に夢中になってたし、この収納には気づいてなかったから…。これを、慰謝料替わりに貰って行きますね。だってこのお金以外、あなたに払えるお金は残って居ないでしょう?」

「そ、それを持って行かれたら本当にこの家は終わりだ!」

「あなたね…妻を捨てるという事は、それなりの代償を伴うのよ。あなたが私に慰謝料を払うのは当然の事です。それより、あなたもあの女を探しに行ったら?早くしないと、大事なお金を全部使われちゃうわよ─?」

「な、何でこんな事に─!」




 その後…夫の幼馴染は早い内に捕らえられたものの、奪ったお金は既に全部使われてしまっていた。

 そしてそのせいで、彼の家は破産する事に─。



 するとこの事件はやがて世間に知れ渡り…真実を知った者たちは皆、彼や彼の両親を非難し冷たい視線を浴びせた。



 揃いも揃って悪女に騙され、まともな嫁を捨てた夫とその両親だと散々笑われた三人は…とうとうそれに耐えきれなくなったのか、逃げるようにこの地を去って行ったわ。



 一方、私はと言うと…その後社交の場で新しい出会いがあり、近く再婚が決まった。
 
 お相手の彼は私をとても溺愛してくれて…私は、今度こそ夫に愛される幸せな妻になるつもりよ─。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾り呼ばわりされた公爵令嬢の本当の価値は

andante
恋愛
婚約者を奪おうとする令嬢からからお飾り扱いだと侮辱される公爵令嬢。 しかし彼女はお飾りではなく、彼女を評価する者もいた。

絵姿

金峯蓮華
恋愛
お飾りの妻になるなんて思わなかった。貴族の娘なのだから政略結婚は仕方ないと思っていた。でも、きっと、お互いに歩み寄り、母のように幸せになれると信じていた。 それなのに……。 独自の異世界の緩いお話です。

いつから恋人?

ざっく
恋愛
告白して、オーケーをしてくれたはずの相手が、詩織と付き合ってないと言っているのを聞いてしまった。彼は、幼馴染の女の子を気遣って、断れなかっただけなのだ。

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで

あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。 怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。 ……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。 *** 『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』  

【完結】アナタが選んだんでしょう?

BBやっこ
恋愛
ディーノ・ファンは、裕福な商人の息子。長男でないから、父から預かった支店の店長をしている。 学生でいられるのも後少し。社交もほどほどに、のんびり過ごしていた。 そのうち、父の友人の娘を紹介され縁談が進む。 選んだのに、なぜこんなけっかになったのだろう?

高貴なる決別 〜婚約破棄は貴方のために〜

ゆる
恋愛
「私を捨てたこと、後悔なさいませ?」 婚約破棄された公爵令嬢、華麗なる大逆転! 公爵令嬢 スカーレット・ウィンザー は、王太子 エドワード から突然の婚約破棄を言い渡される。 理由は「新しい愛を見つけたから」――しかも相手は、貴族の娘 イザベル・ラファエル。 スカーレットは王太子とその取り巻きに嘲笑され、社交界の表舞台から姿を消すことに。 だが、それで終わる彼女ではなかった。 婚約破棄をきっかけに、王太子派の裏に隠された “国家を揺るがす陰謀” を知ることになったスカーレット。 腐敗した貴族たちの不正を暴くべく、彼女は 第二王子アレクサンダー と手を組み、静かに反撃の準備を進める。 そして迎えた 秋の大舞踏会―― 「王太子妃」として華やかに披露されるイザベルの隣に、スカーレットが堂々と現れる。 「王太子殿下、その不正、すべて暴かせていただきますわ」 裏帳簿を手に、国家の命運を賭けた決戦が始まる――! 王太子派の崩壊、スカーレットの華麗なる逆転、そして第二王子との 新たな未来―― 「婚約破棄してくれて、ありがとう」 かつての屈辱を乗り越え、スカーレットは 本当の幸せ を掴み取る――!

あなたの瞳に映るのは妹だけ…闇の中で生きる私など、きっと一生愛されはしない。

coco
恋愛
家に籠り人前に出ない私。 そんな私にも、婚約者は居た。 だけど彼は、随分前から自身の義妹に夢中になってしまい…?

その婚約破棄喜んで

空月 若葉
恋愛
 婚約者のエスコートなしに卒業パーティーにいる私は不思議がられていた。けれどなんとなく気がついている人もこの中に何人かは居るだろう。  そして、私も知っている。これから私がどうなるのか。私の婚約者がどこにいるのか。知っているのはそれだけじゃないわ。私、知っているの。この世界の秘密を、ね。 注意…主人公がちょっと怖いかも(笑) 4話で完結します。短いです。の割に詰め込んだので、かなりめちゃくちゃで読みにくいかもしれません。もし改善できるところを見つけてくださった方がいれば、教えていただけると嬉しいです。 完結後、番外編を付け足しました。 カクヨムにも掲載しています。

処理中です...