上 下
27 / 115

浮気など大した事では無いと考え離縁しない夫との結婚生活を、私は終わらせる事にします。

しおりを挟む
「お前を嫌いと言うか…ただ、抱く気にならないだけだ。だから、離縁までするつもりはない。」

 そう言って、自室へ戻って行く夫。
 


 確かにあなたから嫌いだとか、愛してないとか言われた訳じゃない。

 普通に話もするし、一緒に食事を取り、出掛ける事もある。

 でも、あなたは決して私に触れようとはしない。


 
 私はそんなあなたとの結婚生活を、とても虚しく思って居るわ─。



※※※



「…最近、あいつの口から離縁という言葉が頻繁に出てくるんだ。」

「それは、あなたの気を引きたいのよ。あの子、昔からそういう所があるから。」

「全く、陰湿で鬱陶しいな…。俺は、君のような明るくて裏表のない女の方が好きだよ。」



 孫あ俺の言葉に笑顔を返す彼女は、妻の幼馴染だ。

 いつしか二人で合うようになり、こうして体の関係を持つのにそう時間はかからなかった。



「俺はもう、君しか抱きたいと思わない。妻には…もう、何の魅力も感じないよ。」

「毎日一緒に居れば飽きるのも当然よ。浮気など遊び…皆やってる事だし、あなたも気軽に楽しめばいいのよ。」

 

 彼女のこの言葉に、俺の心は軽くなった。
 


 そうだ、浮気など大した事じゃない。

 離縁しないよう、上手い事両立させればいいんだ。

 幸いあいつは、俺と彼女の関係に気付いてないしな─。



 ところが、あいつは俺に突然離縁を言い渡して来た。



「…冗談だよな?俺はお前を嫌いじゃないと、離縁する気はないと言ったぞ?肉体関係がなくても、夫婦としてやっている者たちはいくらでも居る。俺とお前はそういう夫婦、それでいいじゃないか!」

「私も、あなたがそれを望むなら、もうそういう夫婦でも仕方ないと思った。でも…やっぱりそれじゃ寂しいの。そして…ある事を知ってからは、それが怒りへと変わったわ。」



 ある事って…まさか─!?



「あなた、私の幼馴染と浮気してるわね?」

「ど、どこにそんな証拠が─」

「彼女がなくしたと言っていたイヤリング。これ、どこにあったと思う?私の部屋のクローゼットの中よ。それからこの指輪…これは私が育ててる鉢植えの中から。」

「何だってそんな所に…俺のベッドの下からならともかく…あッ!?」



 うっかり口を滑らせた俺は、顔からサッと血の気が引いた。

 そしてそんな俺を、妻は冷たい目で見て来た。



「彼女はね、これをわざと私の目に付く所に置いたの。あなたを自分の物だと見せつける為にね。あの子は、そういう事を喜んでする女よ。あなたは彼女の事を、明るくて裏表のない女と思ってるようだけど…全然違うわ。」

「何!?」

「あの子はね、昔私が付き合っていた恋人にもちょっかいをかけて来て、これと同じ事をしたの。これらを見つけた時、あなたが浮気している事、その相手が彼女である事はすぐ分かった。」

「そ、そんな…。」

「過去の私は、彼女を咎める事なく許した…家同士の力関係で、そうせざるを得なかったから。だから彼女は、今度も何の罰も受けないと思いあなたにも手を出した。でも、今回ばかりは許さない…あの子にも、そしてあなたにも罰を受けて貰う!」

「だって彼女が、浮気など遊び…皆やってる事だって…!俺は別に本気じゃなかった…お前と離縁しようなど、そんなつもりは…!」

「そんな事を平然と言ってのけるあなたとは、もうやって行けない。嫌いではないから、離縁はしない…?あなたはそうでも、私はもう、顔も見たくない程あなたが嫌いなのです。だから、お別れしましょう─。」



***



 その後…私は、元夫から多額の慰謝料を貰い離縁した。

 彼の父の力添えもあり、全てがトントン拍子で片付いたのだ。



 彼の浮気を、お父様に相談して良かったわ。

 自身の妻の浮気に悩まされたお人だったから、私の気持ちを誰よりも分かってくれると思ってたもの。



 それに私は、息子より頭が回るしっかり者と、実の娘のように可愛がられていたしね。



 こうして元夫は一族から追放され…そのままこの地からも追放となってしまい、今は行方知れずだ。



 また私は、幼馴染にも慰謝料を請求した。

 どうして今度は許してくれないのと彼女は文句を言ってきたが…今の彼女の家は破産寸前、私の家より遥かに格下…あの時とは状況が違うわ。

 もうあなたの家は、あなたの不祥事を握り潰す事は出来ない。



 するとこの事で実家から見放された彼女は、田舎の知り合いの家で使用人として働く事に─。

 自分の力で、一生かけて慰謝料を払う事を約束させられるのだった。




 そして、全てを終えた私はと言うと…その頭の良さからすぐに素敵な殿方に見初められ、将来を前提にお付き合いを始める事となり幸せ一杯の日々を送って居る。



 しかし火遊びのつもりがこんな大事になるとは、あの二人は後悔してもしきれないでしょう。

 私としては、顔も見たくない程大嫌いになったあなたたちがこうして表舞台から消えてくれて清々してるけどもね─。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

[完結]まだ愛を知らない

シマ
恋愛
婚約者が、好きな人が出来たと、真実の愛に出会ったと言いに来た。 学校では腫れ物扱いだけど、私は別に気にしていなかった だって、私、彼を愛していなかったもの 私も誰かを愛し、愛されたい キャラに名前の無い話です。 三話で終わります。

婚約破棄は十年前になされたでしょう?

こうやさい
恋愛
 王太子殿下は最愛の婚約者に向かい、求婚をした。  婚約者の返事は……。  「殿下ざまぁを書きたかったのにだんだんとかわいそうになってくる現象に名前をつけたい」「同情」「(ぽん)」的な話です(謎)。  ツンデレって冷静に考えるとうっとうしいだけって話かつまり。  本編以外はセルフパロディです。本編のイメージ及び設定を著しく損なう可能性があります。ご了承ください。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。

物語は続かない

mios
恋愛
「ローズ・マリーゴールド公爵令嬢!貴様との婚約を破棄する!」 懐かしい名前を聞きました。彼が叫ぶその名を持つ人物は既に別の名前を持っています。 役者が欠けているのに、物語が続くなんてことがあるのでしょうか?

いくら何でも、遅過ぎません?

碧水 遥
恋愛
「本当にキミと結婚してもいいのか、よく考えたいんだ」  ある日突然、婚約者はそう仰いました。  ……え?あと3ヶ月で結婚式ですけど⁉︎もう諸々の手配も終わってるんですけど⁉︎  何故、今になってーっ!!  わたくしたち、6歳の頃から9年間、婚約してましたよね⁉︎

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

醜いと蔑んだ相手は隣国の美姫

音爽(ネソウ)
恋愛
爛れた皮膚の治癒を試みる王女は身分を隠して隣国へ渡り遊学していた。 そんな事情を知らない子爵家の子息は「醜い」と言って蔑む。しかし、心優しいその弟は……

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

処理中です...