『恋愛短編集①』離縁を乗り越え、私は幸せになります──。

Nao*

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夫から役立たずと罵られる私は…もう彼の妻で居る事を辞め、本来生きる道を歩みます。

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 私は、人よりもおっとりとして居てのんびり屋だった。

 その為、夫から鈍間だとか…愚図だと罵られる様に─。



 結婚前は、こんな事を言う人では無かったのに…結婚後、彼の性格は豹変し…私に暴言を吐き、威張り散らしてばかり居る。

 その上、まともに働かなくなり…昼間から酒を飲み、悪い仲間と遊んで居た。

 今はまだ、私の貯えと内職の収入でどうにかなって居るが…このままでは、いつかこの生活は破綻する。



 そう思った私は、酒と悪い遊びはもう辞めて欲しい…あなたは本当は素晴らしい技術を持った彫刻師なのだから、もう一度仕事に打ち込んで欲しいと言った。

 しかし夫は、もうあんなチマチマした仕事は飽きたからやりたくない…その分賭け事で大金を得て来るから、俺に金を寄こせと言った。



 それに対し、私がそんな事に使うお金は無いとそれを拒否すれば…夫は激怒し、私にこう言った。

「この役立たずめ!俺が働かないなら、妻のお前が二倍働いて金を稼げばいいだけなのに…そんな事も出来ないのか!」

 そして彼は…壁に木彫りの像を投げつけ、部屋を出て行った。



 壁にぶつかり壊れたそれは…結婚前に、彼が私だと言って掘ってくれた物で…二人の宝物として、一生大事にしようと飾ってあった物だった。

 それを、彼は怒りに任せ粉々にしたのだ…。

 床に落ちたそれは、まるで私の心の様だと思った。


 
 もう、こんな生活に疲れてしまった─。

 今の私は…あの人が遊ぶ為に、酒を飲む為だけに生かされ、働いて居るだけだ。

 もっと、別の生き方をする事が出来たら─。



 そんな時…私の家に、客人が訪ねて来た。
 
 そしてその人物からある話を聞かされた私は…暗かった目の前が急に明るくなり、幸せへの道が開けた気がした─。



 その夜…夫は、不機嫌な様子で帰って来た。

 きっと遊び仲間に金を借り賭け事をしたが…ボロ負けしたのだろう。

 そんな彼に…私はもうここを出て行くから、私と離縁して欲しいと言った。



「きゅ、急に何を言い出す!そんな勝手が許されると思うのか!?そもそも…お前の様な孤児、ここを出てどこへ行こうと言うんだ。」

 そう…私には、両親が居ない。

 幼い頃、町でさ迷って居る所をある商人に拾われ…その家で使用人として働き生きて来た。

 そして、偶々主人に仕事を依頼され屋敷に呼ばれた彼と知り合い…私達はやがて交際を始め、その後結婚したのだ。



「確かに、あの商人の屋敷には戻れませんが…私には、もっと素敵な…本来帰る場所があるのです。」

 その直後、家のドアが開き…身なりの良い殿方が入って来た。

「別れの挨拶は、もう済んだだろうか?そろそろ、出発をしても大丈夫だろうか?」

「はい!」

 そう言って、彼に駆け寄れば…夫が、そいつは誰だと叫んだ。



「彼は、私が本来結婚するべき相手で…隣国のある地で、領主様をして居る立派な方です。」

「…は?」

「実は私は…隣国のある名家の娘で、赤子の時から彼と結ばれる事が決まって居たそうです。ですが、物心つく前に賊に誘拐され…その後、行方不明となって居たのです。まさか、私にそんな秘密があったとは…驚きよね。」

「そ、そんな…。」

「俺は、そんな彼女をずっと探して居て…漸く見つける事が出来たんだ。彼女の事は、俺が幸せにするから安心しろ。君も…こんな男との結婚生活など早く忘れられるよう、俺が大切にするから…早く隣国へ帰ろう?そしてこの先は、本来歩むべき道を共に歩んで行こう。」

 そう言って差し出された彼の手を、私はしっかりと握り返し…呆然とする夫の元を去ったのだった─。



 その後、隣国に帰還した私は…本当の家族にも再会し、領主である彼の妻として何不自由ない暮らしを送って居る。

 もう、馬車馬の様に働かなくても良いし…ちゃんとご飯も食べる事が出来て、ゆっくりと眠る事も出来る。

 そして、何より嬉しいのは…妻の私を心から大事にし、優しくしてくれる夫の存在だ。

 何気ない会話や触れ合い…望んで居た理想の夫婦像が、そこにはあった。

 その事に感謝し、あなたと生きる道を選んで本当に良かったと夫となった彼に伝えれば…彼もまた、私と一緒に居られて幸せだと言ってくれるのだった。



 一方、私に捨てられた元夫はと言うと…金を稼ぐ私が居なくなった事で、貧しい暮らしを送って居るそうだ。

 そこで彼は、仕方なく彫刻士の仕事に戻ろうとしたが…これまでの生活態度のせいで、彼に仕事を依頼する者など居らず…更にアルコール依存になったらしく、手が震えて上手く彫り物をする事が出来なくなり…彼は、もう二度と彫刻師の仕事をする事は叶わなかった。

 そうなって、初めて自分のして来た事や酒癖を後悔して居るそうだが…何もかもが遅いのだった─。
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