『恋愛短編集①』離縁を乗り越え、私は幸せになります──。

Nao*

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我が子の名前を間違えて呼んだ夫…うっかりしたと言ってますが、そんな事などあり得ます?

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 息子を呼ぼうとした夫は、突然息子とは違う名を口にした。

 息子は不思議そうな顔をし…私も家事をする手を止め、夫を見つめた。

 私達から見つめられ、夫は慌てて口を手で抑えた。



 そんな夫に、息子はどうして名前を間違えるのか…それは僕のお友達の名前だと言った。

 すると夫は…お前がその子とよく遊んで居るから、ついうっかり間違えたんだよと答えた。

 それを聞いた私は…その子が今この場に居るならまだ分かるが、息子しか居ないのに間違えるだろうか…そんな事があり得るのかと疑問に感じた。



 そして私は、夫が名を呼んだ男の子の母親の事を想い浮かべた。
 
 彼女…やたらと夫に話しかけて来て、距離が近かったわね。

 息子同士仲が良いから、そうして居るのかと思って居たけれど…よく考えれば、私にはそんな事はしない。
 
 それに…彼女を見る夫の目が、何だかギラギラして居るのも気になって居たし…ここは一つ、調べてみるか─。


 
 そして私は…実家から付いて来た信頼のおける使用人に協力して貰い、彼を尾行して貰う事にした。

 その数日後…夫と彼女が、不倫関係にある事が判明した。

 しかも…彼女の息子は、もしかしたら夫の子供ではないかと言う説が浮上した。



 と言うのも、夫にはある遺伝性の疾患があるのだが…最近、その子にも同じ様な症状が現れて居たからだ。

 母親である彼女と父親である夫は、そんな病は持っておらず…彼女の夫は不思議がって居たそうだ。

 しかし…遠い先祖がそう言う病を患って居たのだろうと、彼女は夫を納得させたらしい。


 
 そんな中…夫と彼女が、ある店で密会しようとして居る事が分かった。

 そこで私は、彼女の夫に事情を話し…共にその場に付いて来て貰う事に─。

 すると案の定、その店に二人は居た。

 そして身を寄せ合い、こんな話をして居た。



「この前、息子の事をついうっかりお前の子供の名で呼んでしまった。」

「あの女が怪しんだんじゃないの?」

「いや…あいつは鈍感だし、大丈夫だろう。しかし…この先は気を付ける事にするよ。君の息子が俺との間に出来た子供だと分かったら、妻からも君の夫からもどんな目に遭うか…。」

「でも…私はあの男とは金が目当てで結婚しただけで、本当に好きなのはあなたなのに…。もっとあなたと堂々と愛し合いたいわ。」

「それを言うなら俺も同じだ。あいつの死んだ両親の遺産が欲しくて、一緒になっただけだし─。」



 そんな会話を聞いた私と彼女の夫は…もう居ても立っても居られず、二人の元に近寄った。

 そしてそんな事とは知らず、呑気に酒を飲む二人を引き剥がした。

 私達を見た二人は、途端に真っ青な顔になり…夫はその場で腰を抜かし、彼女はそこから逃げ様とした。


 
 だが、彼女の夫がその腕を掴み…その場に座らせた。

 そして、お前とはもう離縁する…俺をこれまで裏切って居た慰謝料を払えと要求した。

 そんな夫に、彼女は泣いて縋ろうとしたが…彼は鬱陶しそうに彼女を突き放すと店を出て行き、彼女hそれを追いかけて行った─。

 

 そして、残された夫は…目の前に立つ私を、オロオロとした表情で見上げて居た。

 そんな夫に、私もあなたと離縁する…この事はあなたの両親にも報告すると言った。

「あなたはもう赤の他人…あなたには、二度とあの子の名を呼ばせないわ。」

 そして私は、彼を店に置き去りにし…彼の両親に預けていた息子の元へと急いだのだった─。



 その後、私から話を聞いた彼の両親は激怒─。

 彼に二度とこの家に帰って来るなと言い、彼との縁を切ってしまった。

 そして、孫が大切で仕方なかった二人は…私に頭を下げ、どうかこの家を出て行かないでくれと言った。

 両親を亡くして居た私は、二人を本当の両親の様に思って居たし…息子も二人が大好きで離れたくないと言った事から、私達は変わらずそこで生活する事に─。



 そんな私達に彼の両親は、息子が大きくなったらこの家を継がせる…そして私も再婚してくれて一向に構わないとまで言ってくれた。

「あんな馬鹿な息子の為に、あなたの様な素敵な女性がこの先独り身で居るのは勿体ないわ。」

「それに…この子もいつか、新しい父親が欲しいと思う様になるかも知れないからな。」



 すると、それから暫くして…彼の父親の事業を支援する方のご子息から、私は見初められる事に─。

 彼は、とても真面目で優しい人で…息子や彼の両親は、すぐに彼を気に入った。

 また、私もそんな彼ともっと一緒に居たいと思う様になり…私達は交際を始め、やがて再婚する事を決めた。



 彼は血の繋がらない息子の事をとても大事にしてくれ…勿論、名前を間違って呼ぶ様な事は無い。

 そんな彼を、息子は今や本当の父親と思い接して居る様で…寄り添う二人の姿に、私は自然と笑みが浮かんでくるのだった─。
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