『恋愛短編集①』離縁を乗り越え、私は幸せになります──。

Nao*

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俺に尽くすなら愛してやると言う夫ですが、私にはもうそんな気は無いのです──。

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「私は砂糖を沢山入れないと、紅茶が飲めないの!何度言ったら分かるのよ…。」

「全く、お前は気が利かない女だ…もっとちゃんと彼女に尽くせ!彼女は、夫である俺の大事な客人なんだから!俺の妻がすまない…どうか許してくれないか?」

「そうねぇ…あなたがそこまで言うなら、許してあげる。」

 女がそう言うと、夫は嬉しそうに笑みを浮かべた。



 あなたは、私の夫でしょう?

 なのにどうして私をないがしろにし、その女のご機嫌を取るの?



 と言うか、その女に尽くせって…そんなの嫌よ─。



 彼女は、彼の幼馴染だ。

 とても可愛らしい女で、男たちの心を掴んで離さない。



 夫はそんな幼馴染を自慢に思い、とても気に入っていた。



 いや、気に入っていると言うより…もはや一人の異性として愛しているのでは─。

 だって彼は、機嫌が悪くなるといつもこう口にする。



『妻にするなら、彼女が良かった…。まぁ、こうなったからには仕方がない…妻になったんだから、お前は俺に尽くせ。そうしている内は、愛してやる─。』



 私は、夫に愛されていない。

 でも、彼が望むように尽くして居れば…そうすれば、いつかは私を─。



 などと、信じていた時があったわ。



 結婚し一年、私はこの状況に耐えた。

 でも全く改善されず、それどころか…。



「…君の気が済むまで、いくらだってこの家に居ていいよ。」

「でも…あなたの妻が、私を邪魔だと言うに決まってるわ!」

「俺がそんな事言わせない…むしろ、あいつの方が邪魔者だ。」

「そっか…そうよね。だって私たちは、あの人があなたの妻に決まる前からの仲だものね!そう思うと、確かに邪魔者はあの人の方ね。」



 親と喧嘩したと、いきなり転がり込んできたと思ったら、何を言うの…?

 居候の身となるあなたこそ、邪魔者じゃない─。



 何だかもう…この結婚生活が嫌になってしまった。



 夫に尽くしても、何も良い事など無い。

 この一年で、それが嫌という程分かったわ─。



「…離縁だって?何をつまらぬ冗談を─」

「冗談ではありません、私は本気です。あなたが妻である私より、あの女を愛するなら…私はあなたと離縁し、この家を出て行きます。」

 すると夫は、鼻で笑った。



「女一人で、この先どうやって生きて行くと言うんだ。この家を出て行ったって、どうせそこらで野垂れ死にするだけだ。お前は身寄りがないんだし…ろくな事にならんぞ?」



 確かに私の両親は遥か昔に亡くなり、家も人手に渡ってしまったが─。



 するとその時だ。

 この家に仕えている執事や使用人たちが、部屋に入って来た。



「奥様が出て行くなら、私達もご一緒します!」

「奥様を一人になどさせません!」

「お前達、何を言ってるんだ…!そんな事されたら、俺の世話をし尽くす者が居なくなってしまうじゃないか!?」

「奥様はあなたに代わり、私達のお給金を払って下さっていました。だから私達は、あなたに仕えているのではない…奥様に仕えているのだと思うようになりました。」

 その事実に、夫は目を丸くした。



「こ、こいつにそんな金がある訳─」

「あなたがあの女に湯水のようにお金を与え、事業を私に丸投げし好き勝手している間に、私は自分でいくらか儲けを出せるようになったのです。それで、皆にお金を─」

「だ、だが俺と離縁したら、それもお終いだ!おい…今すぐ俺に謝り、尽くすと誓え!そうすれば、この非礼を許して─」

「いいえ、絶対に謝りません。あなたと離縁しても…私は金銭面で何も困りません。むしろ…困るのはあなたかと─。」

「え…?」



 すると部屋に、一人の殿方が入って来た。



「話はついたかい?」

 それは、夫の事業の支援者だった。



「それが…この人、中々分かってくれなくて─。」

「そうか、ならば俺がハッキリ言おう。俺はもう、あなたの事業に協力しない…金も一切出さない。他の仲間も同じ意見だ。あなたは妻に事業を丸投げし、女に溺れるどうしようもない人だ。俺や仲間はそんなあなたを見限り、彼女が新しく立ち上げる事業に協力する事にした。」

「何!?」

「彼は、私や使用人の皆が住む屋敷まで用意してくれたわ。おかげで、私が路頭に迷い野垂れ死にするという心配は、無くなったのです。ですから、私は安心してあなたと離縁する事が出来ます。」

「そ、そんな…。」

「あなたは…私が尽くしている内は、愛してやると言ってましたが…私はもう、あなたの愛など要りません。今の私が欲しいのは…離縁すると言う言葉だけ─。」



 結局その後、私は夫と無事に離縁する事が出来た。

 夫やあの女から多額の慰謝料が貰えたし、これまで貯めて来たお金や支援金もあるから…私は、何の心配もなく新しい生活をスタートさせた。



 そして事業も見事大成功し…私は、今は悠々自適な生活を送って居る。



 何より一番の喜びは…私と夫の仲介に入ってくれたあの殿方と、特別な関係になれた事だ。



 彼は以前から、ひたむきに事業に取り組む私に対し、密かに恋心を持って居たそうで…でも、私は夫のある身だから、ずっとその気持ちを言えずに居た。



 でも、私はもう離縁して独り身だから…それで彼は私に想いを告げ、私も彼の優しい性格や頼りがいのある所に惹かれ、お付き合いをする事になったのだ。



 彼は、公私共に私に尽くしてくれ…私はその事に感謝し、そのおかげで更に彼に愛されるという、とても幸せな日々を送って居る。



 一方、元夫はというと…私を失った事で事業が立ち行かなくなり、すぐに破産してしまった。

 するとそれを見た幼馴染から、貧乏人は嫌いだと言われ…縁を切られてしまったらしい。



 失意の彼は、やがて住む家まで失い…今はどこでどうしているか、分からずに居るわ─。
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