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俺に尽くすなら愛してやると言う夫ですが、私にはもうそんな気は無いのです──。
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「私は砂糖を沢山入れないと、紅茶が飲めないの!何度言ったら分かるのよ…。」
「全く、お前は気が利かない女だ…もっとちゃんと彼女に尽くせ!彼女は、夫である俺の大事な客人なんだから!俺の妻がすまない…どうか許してくれないか?」
「そうねぇ…あなたがそこまで言うなら、許してあげる。」
女がそう言うと、夫は嬉しそうに笑みを浮かべた。
あなたは、私の夫でしょう?
なのにどうして私をないがしろにし、その女のご機嫌を取るの?
と言うか、その女に尽くせって…そんなの嫌よ─。
彼女は、彼の幼馴染だ。
とても可愛らしい女で、男たちの心を掴んで離さない。
夫はそんな幼馴染を自慢に思い、とても気に入っていた。
いや、気に入っていると言うより…もはや一人の異性として愛しているのでは─。
だって彼は、機嫌が悪くなるといつもこう口にする。
『妻にするなら、彼女が良かった…。まぁ、こうなったからには仕方がない…妻になったんだから、お前は俺に尽くせ。そうしている内は、愛してやる─。』
私は、夫に愛されていない。
でも、彼が望むように尽くして居れば…そうすれば、いつかは私を─。
などと、信じていた時があったわ。
結婚し一年、私はこの状況に耐えた。
でも全く改善されず、それどころか…。
「…君の気が済むまで、いくらだってこの家に居ていいよ。」
「でも…あなたの妻が、私を邪魔だと言うに決まってるわ!」
「俺がそんな事言わせない…むしろ、あいつの方が邪魔者だ。」
「そっか…そうよね。だって私たちは、あの人があなたの妻に決まる前からの仲だものね!そう思うと、確かに邪魔者はあの人の方ね。」
親と喧嘩したと、いきなり転がり込んできたと思ったら、何を言うの…?
居候の身となるあなたこそ、邪魔者じゃない─。
何だかもう…この結婚生活が嫌になってしまった。
夫に尽くしても、何も良い事など無い。
この一年で、それが嫌という程分かったわ─。
「…離縁だって?何をつまらぬ冗談を─」
「冗談ではありません、私は本気です。あなたが妻である私より、あの女を愛するなら…私はあなたと離縁し、この家を出て行きます。」
すると夫は、鼻で笑った。
「女一人で、この先どうやって生きて行くと言うんだ。この家を出て行ったって、どうせそこらで野垂れ死にするだけだ。お前は身寄りがないんだし…ろくな事にならんぞ?」
確かに私の両親は遥か昔に亡くなり、家も人手に渡ってしまったが─。
するとその時だ。
この家に仕えている執事や使用人たちが、部屋に入って来た。
「奥様が出て行くなら、私達もご一緒します!」
「奥様を一人になどさせません!」
「お前達、何を言ってるんだ…!そんな事されたら、俺の世話をし尽くす者が居なくなってしまうじゃないか!?」
「奥様はあなたに代わり、私達のお給金を払って下さっていました。だから私達は、あなたに仕えているのではない…奥様に仕えているのだと思うようになりました。」
その事実に、夫は目を丸くした。
「こ、こいつにそんな金がある訳─」
「あなたがあの女に湯水のようにお金を与え、事業を私に丸投げし好き勝手している間に、私は自分でいくらか儲けを出せるようになったのです。それで、皆にお金を─」
「だ、だが俺と離縁したら、それもお終いだ!おい…今すぐ俺に謝り、尽くすと誓え!そうすれば、この非礼を許して─」
「いいえ、絶対に謝りません。あなたと離縁しても…私は金銭面で何も困りません。むしろ…困るのはあなたかと─。」
「え…?」
すると部屋に、一人の殿方が入って来た。
「話はついたかい?」
それは、夫の事業の支援者だった。
「それが…この人、中々分かってくれなくて─。」
「そうか、ならば俺がハッキリ言おう。俺はもう、あなたの事業に協力しない…金も一切出さない。他の仲間も同じ意見だ。あなたは妻に事業を丸投げし、女に溺れるどうしようもない人だ。俺や仲間はそんなあなたを見限り、彼女が新しく立ち上げる事業に協力する事にした。」
「何!?」
「彼は、私や使用人の皆が住む屋敷まで用意してくれたわ。おかげで、私が路頭に迷い野垂れ死にするという心配は、無くなったのです。ですから、私は安心してあなたと離縁する事が出来ます。」
「そ、そんな…。」
「あなたは…私が尽くしている内は、愛してやると言ってましたが…私はもう、あなたの愛など要りません。今の私が欲しいのは…離縁すると言う言葉だけ─。」
結局その後、私は夫と無事に離縁する事が出来た。
夫やあの女から多額の慰謝料が貰えたし、これまで貯めて来たお金や支援金もあるから…私は、何の心配もなく新しい生活をスタートさせた。
そして事業も見事大成功し…私は、今は悠々自適な生活を送って居る。
何より一番の喜びは…私と夫の仲介に入ってくれたあの殿方と、特別な関係になれた事だ。
彼は以前から、ひたむきに事業に取り組む私に対し、密かに恋心を持って居たそうで…でも、私は夫のある身だから、ずっとその気持ちを言えずに居た。
でも、私はもう離縁して独り身だから…それで彼は私に想いを告げ、私も彼の優しい性格や頼りがいのある所に惹かれ、お付き合いをする事になったのだ。
彼は、公私共に私に尽くしてくれ…私はその事に感謝し、そのおかげで更に彼に愛されるという、とても幸せな日々を送って居る。
一方、元夫はというと…私を失った事で事業が立ち行かなくなり、すぐに破産してしまった。
するとそれを見た幼馴染から、貧乏人は嫌いだと言われ…縁を切られてしまったらしい。
失意の彼は、やがて住む家まで失い…今はどこでどうしているか、分からずに居るわ─。
「全く、お前は気が利かない女だ…もっとちゃんと彼女に尽くせ!彼女は、夫である俺の大事な客人なんだから!俺の妻がすまない…どうか許してくれないか?」
「そうねぇ…あなたがそこまで言うなら、許してあげる。」
女がそう言うと、夫は嬉しそうに笑みを浮かべた。
あなたは、私の夫でしょう?
なのにどうして私をないがしろにし、その女のご機嫌を取るの?
と言うか、その女に尽くせって…そんなの嫌よ─。
彼女は、彼の幼馴染だ。
とても可愛らしい女で、男たちの心を掴んで離さない。
夫はそんな幼馴染を自慢に思い、とても気に入っていた。
いや、気に入っていると言うより…もはや一人の異性として愛しているのでは─。
だって彼は、機嫌が悪くなるといつもこう口にする。
『妻にするなら、彼女が良かった…。まぁ、こうなったからには仕方がない…妻になったんだから、お前は俺に尽くせ。そうしている内は、愛してやる─。』
私は、夫に愛されていない。
でも、彼が望むように尽くして居れば…そうすれば、いつかは私を─。
などと、信じていた時があったわ。
結婚し一年、私はこの状況に耐えた。
でも全く改善されず、それどころか…。
「…君の気が済むまで、いくらだってこの家に居ていいよ。」
「でも…あなたの妻が、私を邪魔だと言うに決まってるわ!」
「俺がそんな事言わせない…むしろ、あいつの方が邪魔者だ。」
「そっか…そうよね。だって私たちは、あの人があなたの妻に決まる前からの仲だものね!そう思うと、確かに邪魔者はあの人の方ね。」
親と喧嘩したと、いきなり転がり込んできたと思ったら、何を言うの…?
居候の身となるあなたこそ、邪魔者じゃない─。
何だかもう…この結婚生活が嫌になってしまった。
夫に尽くしても、何も良い事など無い。
この一年で、それが嫌という程分かったわ─。
「…離縁だって?何をつまらぬ冗談を─」
「冗談ではありません、私は本気です。あなたが妻である私より、あの女を愛するなら…私はあなたと離縁し、この家を出て行きます。」
すると夫は、鼻で笑った。
「女一人で、この先どうやって生きて行くと言うんだ。この家を出て行ったって、どうせそこらで野垂れ死にするだけだ。お前は身寄りがないんだし…ろくな事にならんぞ?」
確かに私の両親は遥か昔に亡くなり、家も人手に渡ってしまったが─。
するとその時だ。
この家に仕えている執事や使用人たちが、部屋に入って来た。
「奥様が出て行くなら、私達もご一緒します!」
「奥様を一人になどさせません!」
「お前達、何を言ってるんだ…!そんな事されたら、俺の世話をし尽くす者が居なくなってしまうじゃないか!?」
「奥様はあなたに代わり、私達のお給金を払って下さっていました。だから私達は、あなたに仕えているのではない…奥様に仕えているのだと思うようになりました。」
その事実に、夫は目を丸くした。
「こ、こいつにそんな金がある訳─」
「あなたがあの女に湯水のようにお金を与え、事業を私に丸投げし好き勝手している間に、私は自分でいくらか儲けを出せるようになったのです。それで、皆にお金を─」
「だ、だが俺と離縁したら、それもお終いだ!おい…今すぐ俺に謝り、尽くすと誓え!そうすれば、この非礼を許して─」
「いいえ、絶対に謝りません。あなたと離縁しても…私は金銭面で何も困りません。むしろ…困るのはあなたかと─。」
「え…?」
すると部屋に、一人の殿方が入って来た。
「話はついたかい?」
それは、夫の事業の支援者だった。
「それが…この人、中々分かってくれなくて─。」
「そうか、ならば俺がハッキリ言おう。俺はもう、あなたの事業に協力しない…金も一切出さない。他の仲間も同じ意見だ。あなたは妻に事業を丸投げし、女に溺れるどうしようもない人だ。俺や仲間はそんなあなたを見限り、彼女が新しく立ち上げる事業に協力する事にした。」
「何!?」
「彼は、私や使用人の皆が住む屋敷まで用意してくれたわ。おかげで、私が路頭に迷い野垂れ死にするという心配は、無くなったのです。ですから、私は安心してあなたと離縁する事が出来ます。」
「そ、そんな…。」
「あなたは…私が尽くしている内は、愛してやると言ってましたが…私はもう、あなたの愛など要りません。今の私が欲しいのは…離縁すると言う言葉だけ─。」
結局その後、私は夫と無事に離縁する事が出来た。
夫やあの女から多額の慰謝料が貰えたし、これまで貯めて来たお金や支援金もあるから…私は、何の心配もなく新しい生活をスタートさせた。
そして事業も見事大成功し…私は、今は悠々自適な生活を送って居る。
何より一番の喜びは…私と夫の仲介に入ってくれたあの殿方と、特別な関係になれた事だ。
彼は以前から、ひたむきに事業に取り組む私に対し、密かに恋心を持って居たそうで…でも、私は夫のある身だから、ずっとその気持ちを言えずに居た。
でも、私はもう離縁して独り身だから…それで彼は私に想いを告げ、私も彼の優しい性格や頼りがいのある所に惹かれ、お付き合いをする事になったのだ。
彼は、公私共に私に尽くしてくれ…私はその事に感謝し、そのおかげで更に彼に愛されるという、とても幸せな日々を送って居る。
一方、元夫はというと…私を失った事で事業が立ち行かなくなり、すぐに破産してしまった。
するとそれを見た幼馴染から、貧乏人は嫌いだと言われ…縁を切られてしまったらしい。
失意の彼は、やがて住む家まで失い…今はどこでどうしているか、分からずに居るわ─。
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