『恋愛短編集①』離縁を乗り越え、私は幸せになります──。

Nao*

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旦那様が生まれて初めて恋をした相手は、妻の私ではありませんでした…。

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 新婚だというのに、旦那様が家に帰って来なくなった。

 どうやら、ある令嬢にすっかり夢中になり…彼女の家に入り浸っているらしい。

 私と彼が結婚したのは、家同士の約束で…彼が私の事を、そこまで愛して居ないのは分かって居た。



 それに…彼は、私に言ったのだ。

『俺は、恋というものをした事がない。初恋もまだなのに…こうして、結婚をする事になってしまった。』

 だから、私はこう返した。

『でしたら…あなたが私に恋して下さるよう…あなたの初恋は私だと言って貰えるよう、私は良い妻になります。ですからどうか、あなたの初恋を私に捧げて下さい。』


 今思えば、何て馬鹿な事を言ってしまったんだろう。

 だって…どんなに頑張っても、それを見てくれる彼が帰って来ないんじゃ、何の意味もないじゃない…。

 私は、冷めてすっかり固くなってしまった夕食を黙々と片づけた。


 それから暫くして…旦那様が、フラリと家に戻って来た。

 そしてその日は、彼の誕生日で…私は、今日だけは絶対一緒に過ごして欲しいと、彼に頼み込んだ。

 しかし彼は、金と着替えを獲りに来ただけだと言って、すぐに家を出て行こうとする。



「駄目です!今日は何が何でも、私と一緒に居て下さい!」

「俺は、せっかくの誕生日を、お前ではなく彼女に祝って貰いたいんだよ!」

「あなたは…結婚前の誓いを忘れたのですか?あなたの誕生日は、一緒に過ごすと…。でないと、あなたは─」

「そんな誓いなど、もうどうでもいい!俺の心は、完全に彼女のものだ。ほら…ここにある金は全部やるから…もう離縁してくれ。そして、お前もこの家を出ろ。実家にでも帰って、新しい男を見つければいい─。」

 そして彼は荷物を鞄に詰め、この家を出て行った。



 何て、馬鹿な事を─。

 あなたが私と結婚したのは、全てはあなたの為だったじゃないの─。


 
 そして、その夜の事だ─。

 令嬢の家に、令嬢の元愛人が忍び込み…痴情のもつれから彼女を刺し殺してしまった。

 そして彼女を守ろうと盾になった彼は、その刃の前に倒れ…奇跡的に命は助かったものの、一生歩けず目も見えない状態となってしまった。



「ど、どうして俺がこんな目に…。」

「だから言ったじゃないですか。誕生日は、私とあの家で過ごそうと─。」

「お、お前…見舞いに来てくれたのか?それとも、復縁しに来て─」

「馬鹿言わないで下さい。あなたの親族から、あなたを見舞ってやれと無理やり連れて来られただけです。あの人達…あわよくば、あなたの今後の面倒を私に押し付ける気よ…全く、困ったものだわ!」

「それはいい!元妻のよしみで、助けてくれよ…な?」

「いいえ、嫌です。そもそも、私の話も聞かず出て行ったあなたが悪いのよ?私があなたの妻に選ばれたのは…かつて聖女様から加護を貰った娘だったから。そしてあなたは…ある誕生日の夜、一生分の災難を背負う事になると、生まれた時から運命づけられていたそうですね?そこで今は亡きあなたのお父様は、加護持ちの私を敢えてあなたの妻に選んだのです。」

「…俺の運命については、そんなものはただの法螺話だと思って居たんだ!でも、今回の事で漸く目が覚めた。俺の初恋は、別の女に捧げてしまった。でも、もうその女は居ない。だから、二度目の恋はお前に─」

「いいや、その相手は俺だ─。」



 部屋に入って来たのは…私の幼馴染だった。

「俺は、ずっと彼女に恋をしていた。そして、彼女に告白しようと決めた前日に、お前の父親がお前との結婚を決めてしまった。だから、気持ちを言えずに居たが…お前が彼女を裏切り、彼女がもうお前を嫌って居るなら…自分の気持ちを隠す必要は無いと思ってな。彼女に求婚させて貰った。」

「私は、彼の気持ちに応えます。私が結婚しても、彼は一途に私だけを思って居てくれたんですもの。彼はこの初恋が破れても、何度だって私に恋をする自信があるとまで言ってくれたんです。私は、そんな彼の気持ちを信じたい。だから、あなたと復縁など絶対にしません。二度目の恋は、別の相手となさって下さい。」

「そ、そんな…。」



 元夫は、私に向かって必死に手を伸ばしたが…目が見えないせいで、その手は全く別の方に伸び…ただ虚しく、空気を掴むだけだった。

 そんなに必死に私を求めて…どうせなら、結婚中にそうして欲しかった…。

 じっとその様子をじっと見ている私の手を、幼馴染はギュッと握ると…病室のドアに向かって歩き出し、私達はもう何も言わず、彼の元を去ったのだった─。


 それから暫くして…私と彼は再婚し、毎日仲良く暮らして居る。

 そして彼は…毎日の様に、私のここが好きだ、こんな所を愛していると、恥ずかし気も無く伝えてくれる。

 その時の彼の目は…まるで恋する少年の様にキラキラと輝いて居て…私はそんな彼を愛おしく思うと同時に、彼の妻になれて本当に良かったと、心からそう思えるのだった─。
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