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夫から愛されない事には我慢が出来ても、その裏切りまでは許す事が出来ませんでした…。
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内気で地味で垢抜けない女─。
そんな私だから、夫に愛されないのは仕方ないと思い我慢して居た。
だがある日…私は、夫の裏切りを知る事となった。
「君は美しくて明るくて華やかで…妻とは正反対だ。俺はあいつと離縁し、君を新たに妻に迎えたい。」
「嬉しい…私もあなたを愛して居るわ!」
そして抱き合う、夫と美しい女。
その女の顔を見た瞬間…私の心に、辛かった過去の記憶が蘇った。
その女は、まさか─。
私は家同士の約束で婚約したあなたに、いつか心から愛される日が来る事を願い結婚した。
でも新婚という時期も過ぎた頃…やはりこんな私では、あなたに愛されなくても仕方ないと思うようになった。
あなたに強く求められる事は無いけれど…妻として傍に居るだけでも十分だと、今ではそう思う程になって居た位だ。
でもだからと言って、私はあなたのその裏切りまで許す事は出来ないわ─。
「あなた…私に隠れ浮気をして居ますね?」
「…気付いて居たのか。だったら話が早い。そうだ…俺には愛する女が居る。彼女とは酒場で出会ったんだが、すぐに良い仲になってな。でも仕方ないだろう?彼女はお前と違い美しかったんだから。」
「確かに、あの女は美しい容姿をしてます…ですが、その心はとても醜いものですよ?」
私の言葉に、夫は怒りを顕わにした。
「醜いなど…お前は、わざとそうやって彼女を陥れる様な事を言って居るな?俺たちの邪魔をする気なら…本当はもう少し後にするつもりだったが、今すぐ離縁だ─!」
夫は机から札束を取り出し、私に投げつけた。
「手切れ金だ、有難く受け取れ!そしてそれを持って、さっさとここを出て行け!」
自分が不貞を犯しておきながらこの態度…絶対に許さない、あの女と共に後悔すればいいわ─。
その後…私を離縁し家から追い出した元夫は、すぐに彼女を家に呼び寄せた。
そして二人は、まるで新婚夫婦の様な暮らしを送って居たが…暫くすると、彼の周りにある異変が起き始めた。
元夫の事業の支援者が次々と彼と縁を切り、去って行ったのだ。
困った元夫は、周りの友人や知人に助けを求めた。
しかし皆、夫の頼みを断り…今後の一切の関りを断ってしまった。
そしてその結果、元夫は完全に世間から孤立してしまったのだった。
「どうしてこんな事に…。せっかくお前を捨て彼女を妻に迎え、幸せな生活を送るはずだったのに─!」
事業が上手く行かなくなった自分にすっかり愛想を尽かした彼女は、最近ではろくに口を利いてくれない…今日も朝から部屋に籠ったままだと、私に金を貸して欲しいと助けを求めて来た元夫は嘆いた。
「…仕方ないわ。過去にこの国の姫君の婚約者に手を出した悪女を妻にしようとするあなたなど、誰も関わりたくないに決まって居るもの。」
「そ、それは本当の事なのか!?」
「実は、彼女と私はかつて同じ学園に通って居てね…。彼女は、その頃から人の男に手を出す悪女だったの。私は初めて出来た恋人を寝取られ…友人達も皆同じような被害に遭って居るわ。そうして色んな女から男を奪った彼女は…最終的には、その学園に通って居た姫君の婚約者にまで手を出してしまってね。それで罰として退学となり、この地からも姿を消してしまった。でも…ほとぼりが冷めたと思った彼女は、またこの地に戻って来たと聞いて居たけれど…まさか、あなたの愛人となって現れるとは。」
「そんな…。」
「いくら年月が経とうとも…悪女はどこまで行っても悪女ったわね。あの女がしでかした事は、学園時代の友人達も未だ許して居ないし…勿論、姫や他の王族も許して居ない。そんな女を傍に置こうと決めたあなたも、今や憎しみと軽蔑の対象となってしまったと言う訳よ。」
「何!?頼む…お前から皆に上手い事言って俺を助けてくれ!元妻のよしみで何とかしてくれよ!」
そう言って、元夫は私に泣きついて来たが…私はもう、そんな彼に何の情も涌かなかった。
「私を愛する事なく、私を裏切り捨てた男に力を貸す義理はありません。あんな悪女を好きになるなど…あなたは所詮、あの女と同列の人間よ。このまま、共に破滅すればいいんじゃないかしら─?」
その後…元夫の事業は完全に立ち行かなくなり、彼は多額の負債を抱え破産した。
そしてそんな彼と一緒に居た彼女は…その美しさが借金取りの目に留まり、借金のカタにと娼館へ売り飛ばされてしまったらしい。
身分など一切関係なく、次々と人の男に手を出す男好きだったんだもの…彼女には、とてもお似合いの居場所だと思うわ。
そんな彼女の事もあり、借金が少しは減った元夫だったが…それでも返しきれなかった分は、家を売りどうにかする事に─。
その結果、元夫はついに路頭に迷う事となり…ボロボロの服を纏い、一人寂しくこの地を去る事となった。
私はそんな惨めな彼の姿を、再婚相手となる方の家の庭から見送った。
その方は、元夫の事業の支援者で…夫から大事にされて居ない私を何かと気遣い、優しくしてくれて居た方だった。
彼は、元夫から手切れ金を渡され家を追い出された私と偶然出会い…家に連れ帰ると、そのままそこに置いてくれたのだ。
そして、私のやりたい事が見つかるまで好きなだけ家に居て構わないと言う彼の優しさに、私は大いに救われる事に─。
私はそんな彼に感謝しつつ、彼が新しく始めた事業を手伝う事にした。
元夫の事業を手伝う中で色々と学んだ事を生かし、彼に恩返しをする事が出来たらと思ったのだ。
すると彼は、そんな私をとても大事にしてくれ…人生のパートナーとしても傍に居て欲しいと望む様になったと、つい最近私に告白してくれたのだった。
「俺は、この先も君に傍に居て欲しい。でも…もし君に他にやりたい事があるなら、無理を言って引き留める事はしない。君には、今度こそ幸せな人生を歩んで欲しいから─。」
彼は期待と不安を滲ませ、私の返事を待った。
「私のやりたい事は…このまま公私共にあなたの支えとなり、ずっと傍に居る事です。どうか、このまま私をあなたの元に置いて下さい─。」
私の言葉を聞いた彼は目を輝かせ…一生大事にすると言い、私を抱き締めてくれたのだった─。
そしてそんな彼は…去って行く元夫を見送った私を、あの時と同じように抱きしめてくれた。
「あの男は、二度とこの地には帰って来られないだろう。これで、完全に君は俺のものになったんだね。」
「そうよ…これからの私の人生は、全てあなたに捧げます。ですので…どうか私と共に、幸せになって下さい。」
そう話す私に…彼は喜んでと言い、熱い口づけを捧げてくれるのだった─。
そんな私だから、夫に愛されないのは仕方ないと思い我慢して居た。
だがある日…私は、夫の裏切りを知る事となった。
「君は美しくて明るくて華やかで…妻とは正反対だ。俺はあいつと離縁し、君を新たに妻に迎えたい。」
「嬉しい…私もあなたを愛して居るわ!」
そして抱き合う、夫と美しい女。
その女の顔を見た瞬間…私の心に、辛かった過去の記憶が蘇った。
その女は、まさか─。
私は家同士の約束で婚約したあなたに、いつか心から愛される日が来る事を願い結婚した。
でも新婚という時期も過ぎた頃…やはりこんな私では、あなたに愛されなくても仕方ないと思うようになった。
あなたに強く求められる事は無いけれど…妻として傍に居るだけでも十分だと、今ではそう思う程になって居た位だ。
でもだからと言って、私はあなたのその裏切りまで許す事は出来ないわ─。
「あなた…私に隠れ浮気をして居ますね?」
「…気付いて居たのか。だったら話が早い。そうだ…俺には愛する女が居る。彼女とは酒場で出会ったんだが、すぐに良い仲になってな。でも仕方ないだろう?彼女はお前と違い美しかったんだから。」
「確かに、あの女は美しい容姿をしてます…ですが、その心はとても醜いものですよ?」
私の言葉に、夫は怒りを顕わにした。
「醜いなど…お前は、わざとそうやって彼女を陥れる様な事を言って居るな?俺たちの邪魔をする気なら…本当はもう少し後にするつもりだったが、今すぐ離縁だ─!」
夫は机から札束を取り出し、私に投げつけた。
「手切れ金だ、有難く受け取れ!そしてそれを持って、さっさとここを出て行け!」
自分が不貞を犯しておきながらこの態度…絶対に許さない、あの女と共に後悔すればいいわ─。
その後…私を離縁し家から追い出した元夫は、すぐに彼女を家に呼び寄せた。
そして二人は、まるで新婚夫婦の様な暮らしを送って居たが…暫くすると、彼の周りにある異変が起き始めた。
元夫の事業の支援者が次々と彼と縁を切り、去って行ったのだ。
困った元夫は、周りの友人や知人に助けを求めた。
しかし皆、夫の頼みを断り…今後の一切の関りを断ってしまった。
そしてその結果、元夫は完全に世間から孤立してしまったのだった。
「どうしてこんな事に…。せっかくお前を捨て彼女を妻に迎え、幸せな生活を送るはずだったのに─!」
事業が上手く行かなくなった自分にすっかり愛想を尽かした彼女は、最近ではろくに口を利いてくれない…今日も朝から部屋に籠ったままだと、私に金を貸して欲しいと助けを求めて来た元夫は嘆いた。
「…仕方ないわ。過去にこの国の姫君の婚約者に手を出した悪女を妻にしようとするあなたなど、誰も関わりたくないに決まって居るもの。」
「そ、それは本当の事なのか!?」
「実は、彼女と私はかつて同じ学園に通って居てね…。彼女は、その頃から人の男に手を出す悪女だったの。私は初めて出来た恋人を寝取られ…友人達も皆同じような被害に遭って居るわ。そうして色んな女から男を奪った彼女は…最終的には、その学園に通って居た姫君の婚約者にまで手を出してしまってね。それで罰として退学となり、この地からも姿を消してしまった。でも…ほとぼりが冷めたと思った彼女は、またこの地に戻って来たと聞いて居たけれど…まさか、あなたの愛人となって現れるとは。」
「そんな…。」
「いくら年月が経とうとも…悪女はどこまで行っても悪女ったわね。あの女がしでかした事は、学園時代の友人達も未だ許して居ないし…勿論、姫や他の王族も許して居ない。そんな女を傍に置こうと決めたあなたも、今や憎しみと軽蔑の対象となってしまったと言う訳よ。」
「何!?頼む…お前から皆に上手い事言って俺を助けてくれ!元妻のよしみで何とかしてくれよ!」
そう言って、元夫は私に泣きついて来たが…私はもう、そんな彼に何の情も涌かなかった。
「私を愛する事なく、私を裏切り捨てた男に力を貸す義理はありません。あんな悪女を好きになるなど…あなたは所詮、あの女と同列の人間よ。このまま、共に破滅すればいいんじゃないかしら─?」
その後…元夫の事業は完全に立ち行かなくなり、彼は多額の負債を抱え破産した。
そしてそんな彼と一緒に居た彼女は…その美しさが借金取りの目に留まり、借金のカタにと娼館へ売り飛ばされてしまったらしい。
身分など一切関係なく、次々と人の男に手を出す男好きだったんだもの…彼女には、とてもお似合いの居場所だと思うわ。
そんな彼女の事もあり、借金が少しは減った元夫だったが…それでも返しきれなかった分は、家を売りどうにかする事に─。
その結果、元夫はついに路頭に迷う事となり…ボロボロの服を纏い、一人寂しくこの地を去る事となった。
私はそんな惨めな彼の姿を、再婚相手となる方の家の庭から見送った。
その方は、元夫の事業の支援者で…夫から大事にされて居ない私を何かと気遣い、優しくしてくれて居た方だった。
彼は、元夫から手切れ金を渡され家を追い出された私と偶然出会い…家に連れ帰ると、そのままそこに置いてくれたのだ。
そして、私のやりたい事が見つかるまで好きなだけ家に居て構わないと言う彼の優しさに、私は大いに救われる事に─。
私はそんな彼に感謝しつつ、彼が新しく始めた事業を手伝う事にした。
元夫の事業を手伝う中で色々と学んだ事を生かし、彼に恩返しをする事が出来たらと思ったのだ。
すると彼は、そんな私をとても大事にしてくれ…人生のパートナーとしても傍に居て欲しいと望む様になったと、つい最近私に告白してくれたのだった。
「俺は、この先も君に傍に居て欲しい。でも…もし君に他にやりたい事があるなら、無理を言って引き留める事はしない。君には、今度こそ幸せな人生を歩んで欲しいから─。」
彼は期待と不安を滲ませ、私の返事を待った。
「私のやりたい事は…このまま公私共にあなたの支えとなり、ずっと傍に居る事です。どうか、このまま私をあなたの元に置いて下さい─。」
私の言葉を聞いた彼は目を輝かせ…一生大事にすると言い、私を抱き締めてくれたのだった─。
そしてそんな彼は…去って行く元夫を見送った私を、あの時と同じように抱きしめてくれた。
「あの男は、二度とこの地には帰って来られないだろう。これで、完全に君は俺のものになったんだね。」
「そうよ…これからの私の人生は、全てあなたに捧げます。ですので…どうか私と共に、幸せになって下さい。」
そう話す私に…彼は喜んでと言い、熱い口づけを捧げてくれるのだった─。
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