『恋愛短編集①』離縁を乗り越え、私は幸せになります──。

Nao*

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私の元に戻って来たのは、愛を無くした夫と大きな裏切りでした…。

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 夫は騎士団の団長を務めており、私はそんな彼の帰りをずっと待って居た。

 そして今日、漸く彼が帰還したのだが─。



「わ、私に家を出て行けと…?」

「今日からこの家には俺と彼女が住む、お前は邪魔なんだ。」

 彼の隣には、笑みを浮かべる美しい女が居た。



「彼女は、騎士団を守ってくれていた聖女でな…一緒に居る内に、心を通わせるようになった。それに、彼女を傷者にしてしまった責任は取らねば。」

 見れば、彼女の腕には傷跡があった。



「彼を庇い怪我を…でもいいんです。彼が無事だったなら、私はそれで─。」

「見ただろう?こんなに心の美しい女は、そう居ない。それに、お前とは所詮家同士の約束で結婚したまで…俺はちっともお前を愛していないんだ。」

「とまぁ、そう言う事ですので…彼の事は私がこれまでと変わらず支えて行きます。あなたは何も心配なさらず、ここを去って貰って結構よ?」

「そんな…。」



 私はあなたを愛してた。

 だから、ずっとあなたの帰りを待ってたのに…こんな酷い裏切りはないわ─!

 

 しかし、結局私は二人に押し切られ離縁…数少ない荷物と手切れ金を渡され、家を出て行かされた。

 

 そんな私だが、疑問に思う事があった。



 聖女様ならば、ご自分の身くらいその力で守れるんじゃ…?

 だって聖女様には、結界を張る力や治癒能力が備わって居るのでしょう?

 人の怪我は治せても、ご自分の怪我は治せないなどという事があるの?



 だが道中、ある人物と出会った事で私はその答えを知る事とななった─。



♢夫視点♢

「その傷、中々消えないな。」

「…いいの、これはあなたへの愛の証だもの。」

「だがその傷、始めは五センチ程だった気がするが…今や十センチ近くになってないか?



 薬を付けておけば治ると彼女は言うが、少し気になるな。

 あの美しい顔にまでその傷が到達したら…そんな不安が胸をよぎるのだ。



 その時、彼女が小さく呻き声を上げた。



「どうした!?」



 彼女は、腕を押さえ苦しそうな顔をしている。

 腕を取り見れば、傷は一気に大きくなり肩の方まで達していた。



 い、否…これは傷と言うより─。



「ひび割れ…?」



 彼女の腕からはピシピシと嫌な音がして、床にはひび割れによって生じた破片の様な物が落ちていた。

 余りの事に、俺はその場で尻もちをついてしまった。



「遅かったようね。」

 情けなく尻もちをついた夫を見て、やはりそうなったのかと私は溜息をついた。

 

「か、彼女がおかしいんだ、どうにかしてくれ!」

 私の登場に、夫はそのまま這いずるようにして私に助けを求めて来た。

 しかし私の後ろに控える人物を見て、その場で固まってしまった。



「か、彼女が…聖女が二人居る─!?」



 そう…傷を押さえ苦しむ聖女と、私と共に部屋に入って来た女性は瓜二つの顔をして居た。



「この家を訪ねて参られた彼女と、道中お会いしましてね。」

「私が本物の聖女です。その子は、私の双子の妹でただの付き人。妹は戦場であなたに恋をしてしまった。だから時々、私の振りをし偽聖女となってあなたの傍に居た。そしてあなたが帰還する際にも、その子は私の振りをし付いて行ってしまったのです。」

「な、何だって!?」

「これで納得よ。彼女は聖女じゃないからそんな傷を受け、聖女じゃないから治らないのよ。…おかしいと思って居たのよ。」



 すると本物の聖女様は、偽聖女である妹の傷を見てこう言った。

「それは魔物にやられた傷ですね?そこまで傷か広がったら、とても治らないわ…。あなたはもう、死を待つしかありません。」

「そんな…ちゃんと薬だって塗ってたのに!お願いお姉様、どうにか治して!私、せっかく彼の妻に─」

「私は忠告したはずです。私の振りを続ければ、いつか痛い目を見ると。それに人を傷つけ、人のものを奪った悪人を聖女としては助ける事など出来ません。そうなったのも天罰と思い、大人しく受け入れなさい。」

「そ、そんなぁ…。」

 

 すると聖女様は夫に向き直り、ある事を尋ねた。

「それとあなた…あの子の傷に触れましたね?」

「は、はい…傷の大きさを確認しようと。」

「あの魔物の毒は伝染します。迂闊に触れれば、あなたも同じ症状に見舞われますよ。」

「え!?」

「それを知らせようと、私は本当の聖女様をお連れしたんだけど…時すでに遅しね。」

「い、嫌だ…死にたくない─!


 
 夫は真っ青な顔でその場に崩れ落ち…そして偽聖女は、更に傷が広がった腕を押さえ号泣するのだった─。



 その後…偽聖女は姉に連れられ、元居た地に戻って行った。

 そんな彼女は、神殿にて幽閉される事が決まっていると言う。



 そして残された元夫だが…案の定毒の影響が出始め、彼の腕にはあの偽聖女と同じ傷が発生─。

 それは、日に日に大きくなっていると言う。


 すると最近になり、毒を恐れ誰も俺の面倒を見てくれない…一人で居るのが辛いから戻って来てくれと、復縁を願う手紙が私の元へ届いた。



 私を邪魔だと、愛してないとまで言っておきながら、何を今更─。



 それにもし復縁したとしても、あなたはもうすぐ天に召されるわ。

 だから復縁などしても、何の意味もないと思うのよね…。



 何より私には、既に将来を見据えお付き合いして居る方が居るし…。

 お相手は夫の部下で、騎士団に所属して居る殿方だ。



 夫は彼の事を、俺よりも剣の腕は劣ると散々馬鹿にして居たが…今では騎士団長の候補に選ばれるまでに上達して居るのよ。
 
 剣を持てなくなったあなたとは、雲泥の差があるわ。

 おまけにあなたと違い、一途で優しくて…言い方と結ばれて、今の私は本当に幸せなのよ。



 だから、あなたの事などもう知りません。



 私はその手紙を破くと、ただのゴミとして捨ててしまうのだった─。
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