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私の元に戻って来たのは、愛を無くした夫と大きな裏切りでした…。
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夫は騎士団の団長を務めており、私はそんな彼の帰りをずっと待って居た。
そして今日、漸く彼が帰還したのだが─。
「わ、私に家を出て行けと…?」
「今日からこの家には俺と彼女が住む、お前は邪魔なんだ。」
彼の隣には、笑みを浮かべる美しい女が居た。
「彼女は、騎士団を守ってくれていた聖女でな…一緒に居る内に、心を通わせるようになった。それに、彼女を傷者にしてしまった責任は取らねば。」
見れば、彼女の腕には傷跡があった。
「彼を庇い怪我を…でもいいんです。彼が無事だったなら、私はそれで─。」
「見ただろう?こんなに心の美しい女は、そう居ない。それに、お前とは所詮家同士の約束で結婚したまで…俺はちっともお前を愛していないんだ。」
「とまぁ、そう言う事ですので…彼の事は私がこれまでと変わらず支えて行きます。あなたは何も心配なさらず、ここを去って貰って結構よ?」
「そんな…。」
私はあなたを愛してた。
だから、ずっとあなたの帰りを待ってたのに…こんな酷い裏切りはないわ─!
しかし、結局私は二人に押し切られ離縁…数少ない荷物と手切れ金を渡され、家を出て行かされた。
そんな私だが、疑問に思う事があった。
聖女様ならば、ご自分の身くらいその力で守れるんじゃ…?
だって聖女様には、結界を張る力や治癒能力が備わって居るのでしょう?
人の怪我は治せても、ご自分の怪我は治せないなどという事があるの?
だが道中、ある人物と出会った事で私はその答えを知る事とななった─。
♢夫視点♢
「その傷、中々消えないな。」
「…いいの、これはあなたへの愛の証だもの。」
「だがその傷、始めは五センチ程だった気がするが…今や十センチ近くになってないか?
薬を付けておけば治ると彼女は言うが、少し気になるな。
あの美しい顔にまでその傷が到達したら…そんな不安が胸をよぎるのだ。
その時、彼女が小さく呻き声を上げた。
「どうした!?」
彼女は、腕を押さえ苦しそうな顔をしている。
腕を取り見れば、傷は一気に大きくなり肩の方まで達していた。
い、否…これは傷と言うより─。
「ひび割れ…?」
彼女の腕からはピシピシと嫌な音がして、床にはひび割れによって生じた破片の様な物が落ちていた。
余りの事に、俺はその場で尻もちをついてしまった。
「遅かったようね。」
情けなく尻もちをついた夫を見て、やはりそうなったのかと私は溜息をついた。
「か、彼女がおかしいんだ、どうにかしてくれ!」
私の登場に、夫はそのまま這いずるようにして私に助けを求めて来た。
しかし私の後ろに控える人物を見て、その場で固まってしまった。
「か、彼女が…聖女が二人居る─!?」
そう…傷を押さえ苦しむ聖女と、私と共に部屋に入って来た女性は瓜二つの顔をして居た。
「この家を訪ねて参られた彼女と、道中お会いしましてね。」
「私が本物の聖女です。その子は、私の双子の妹でただの付き人。妹は戦場であなたに恋をしてしまった。だから時々、私の振りをし偽聖女となってあなたの傍に居た。そしてあなたが帰還する際にも、その子は私の振りをし付いて行ってしまったのです。」
「な、何だって!?」
「これで納得よ。彼女は聖女じゃないからそんな傷を受け、聖女じゃないから治らないのよ。…おかしいと思って居たのよ。」
すると本物の聖女様は、偽聖女である妹の傷を見てこう言った。
「それは魔物にやられた傷ですね?そこまで傷か広がったら、とても治らないわ…。あなたはもう、死を待つしかありません。」
「そんな…ちゃんと薬だって塗ってたのに!お願いお姉様、どうにか治して!私、せっかく彼の妻に─」
「私は忠告したはずです。私の振りを続ければ、いつか痛い目を見ると。それに人を傷つけ、人のものを奪った悪人を聖女としては助ける事など出来ません。そうなったのも天罰と思い、大人しく受け入れなさい。」
「そ、そんなぁ…。」
すると聖女様は夫に向き直り、ある事を尋ねた。
「それとあなた…あの子の傷に触れましたね?」
「は、はい…傷の大きさを確認しようと。」
「あの魔物の毒は伝染します。迂闊に触れれば、あなたも同じ症状に見舞われますよ。」
「え!?」
「それを知らせようと、私は本当の聖女様をお連れしたんだけど…時すでに遅しね。」
「い、嫌だ…死にたくない─!
夫は真っ青な顔でその場に崩れ落ち…そして偽聖女は、更に傷が広がった腕を押さえ号泣するのだった─。
その後…偽聖女は姉に連れられ、元居た地に戻って行った。
そんな彼女は、神殿にて幽閉される事が決まっていると言う。
そして残された元夫だが…案の定毒の影響が出始め、彼の腕にはあの偽聖女と同じ傷が発生─。
それは、日に日に大きくなっていると言う。
すると最近になり、毒を恐れ誰も俺の面倒を見てくれない…一人で居るのが辛いから戻って来てくれと、復縁を願う手紙が私の元へ届いた。
私を邪魔だと、愛してないとまで言っておきながら、何を今更─。
それにもし復縁したとしても、あなたはもうすぐ天に召されるわ。
だから復縁などしても、何の意味もないと思うのよね…。
何より私には、既に将来を見据えお付き合いして居る方が居るし…。
お相手は夫の部下で、騎士団に所属して居る殿方だ。
夫は彼の事を、俺よりも剣の腕は劣ると散々馬鹿にして居たが…今では騎士団長の候補に選ばれるまでに上達して居るのよ。
剣を持てなくなったあなたとは、雲泥の差があるわ。
おまけにあなたと違い、一途で優しくて…言い方と結ばれて、今の私は本当に幸せなのよ。
だから、あなたの事などもう知りません。
私はその手紙を破くと、ただのゴミとして捨ててしまうのだった─。
そして今日、漸く彼が帰還したのだが─。
「わ、私に家を出て行けと…?」
「今日からこの家には俺と彼女が住む、お前は邪魔なんだ。」
彼の隣には、笑みを浮かべる美しい女が居た。
「彼女は、騎士団を守ってくれていた聖女でな…一緒に居る内に、心を通わせるようになった。それに、彼女を傷者にしてしまった責任は取らねば。」
見れば、彼女の腕には傷跡があった。
「彼を庇い怪我を…でもいいんです。彼が無事だったなら、私はそれで─。」
「見ただろう?こんなに心の美しい女は、そう居ない。それに、お前とは所詮家同士の約束で結婚したまで…俺はちっともお前を愛していないんだ。」
「とまぁ、そう言う事ですので…彼の事は私がこれまでと変わらず支えて行きます。あなたは何も心配なさらず、ここを去って貰って結構よ?」
「そんな…。」
私はあなたを愛してた。
だから、ずっとあなたの帰りを待ってたのに…こんな酷い裏切りはないわ─!
しかし、結局私は二人に押し切られ離縁…数少ない荷物と手切れ金を渡され、家を出て行かされた。
そんな私だが、疑問に思う事があった。
聖女様ならば、ご自分の身くらいその力で守れるんじゃ…?
だって聖女様には、結界を張る力や治癒能力が備わって居るのでしょう?
人の怪我は治せても、ご自分の怪我は治せないなどという事があるの?
だが道中、ある人物と出会った事で私はその答えを知る事とななった─。
♢夫視点♢
「その傷、中々消えないな。」
「…いいの、これはあなたへの愛の証だもの。」
「だがその傷、始めは五センチ程だった気がするが…今や十センチ近くになってないか?
薬を付けておけば治ると彼女は言うが、少し気になるな。
あの美しい顔にまでその傷が到達したら…そんな不安が胸をよぎるのだ。
その時、彼女が小さく呻き声を上げた。
「どうした!?」
彼女は、腕を押さえ苦しそうな顔をしている。
腕を取り見れば、傷は一気に大きくなり肩の方まで達していた。
い、否…これは傷と言うより─。
「ひび割れ…?」
彼女の腕からはピシピシと嫌な音がして、床にはひび割れによって生じた破片の様な物が落ちていた。
余りの事に、俺はその場で尻もちをついてしまった。
「遅かったようね。」
情けなく尻もちをついた夫を見て、やはりそうなったのかと私は溜息をついた。
「か、彼女がおかしいんだ、どうにかしてくれ!」
私の登場に、夫はそのまま這いずるようにして私に助けを求めて来た。
しかし私の後ろに控える人物を見て、その場で固まってしまった。
「か、彼女が…聖女が二人居る─!?」
そう…傷を押さえ苦しむ聖女と、私と共に部屋に入って来た女性は瓜二つの顔をして居た。
「この家を訪ねて参られた彼女と、道中お会いしましてね。」
「私が本物の聖女です。その子は、私の双子の妹でただの付き人。妹は戦場であなたに恋をしてしまった。だから時々、私の振りをし偽聖女となってあなたの傍に居た。そしてあなたが帰還する際にも、その子は私の振りをし付いて行ってしまったのです。」
「な、何だって!?」
「これで納得よ。彼女は聖女じゃないからそんな傷を受け、聖女じゃないから治らないのよ。…おかしいと思って居たのよ。」
すると本物の聖女様は、偽聖女である妹の傷を見てこう言った。
「それは魔物にやられた傷ですね?そこまで傷か広がったら、とても治らないわ…。あなたはもう、死を待つしかありません。」
「そんな…ちゃんと薬だって塗ってたのに!お願いお姉様、どうにか治して!私、せっかく彼の妻に─」
「私は忠告したはずです。私の振りを続ければ、いつか痛い目を見ると。それに人を傷つけ、人のものを奪った悪人を聖女としては助ける事など出来ません。そうなったのも天罰と思い、大人しく受け入れなさい。」
「そ、そんなぁ…。」
すると聖女様は夫に向き直り、ある事を尋ねた。
「それとあなた…あの子の傷に触れましたね?」
「は、はい…傷の大きさを確認しようと。」
「あの魔物の毒は伝染します。迂闊に触れれば、あなたも同じ症状に見舞われますよ。」
「え!?」
「それを知らせようと、私は本当の聖女様をお連れしたんだけど…時すでに遅しね。」
「い、嫌だ…死にたくない─!
夫は真っ青な顔でその場に崩れ落ち…そして偽聖女は、更に傷が広がった腕を押さえ号泣するのだった─。
その後…偽聖女は姉に連れられ、元居た地に戻って行った。
そんな彼女は、神殿にて幽閉される事が決まっていると言う。
そして残された元夫だが…案の定毒の影響が出始め、彼の腕にはあの偽聖女と同じ傷が発生─。
それは、日に日に大きくなっていると言う。
すると最近になり、毒を恐れ誰も俺の面倒を見てくれない…一人で居るのが辛いから戻って来てくれと、復縁を願う手紙が私の元へ届いた。
私を邪魔だと、愛してないとまで言っておきながら、何を今更─。
それにもし復縁したとしても、あなたはもうすぐ天に召されるわ。
だから復縁などしても、何の意味もないと思うのよね…。
何より私には、既に将来を見据えお付き合いして居る方が居るし…。
お相手は夫の部下で、騎士団に所属して居る殿方だ。
夫は彼の事を、俺よりも剣の腕は劣ると散々馬鹿にして居たが…今では騎士団長の候補に選ばれるまでに上達して居るのよ。
剣を持てなくなったあなたとは、雲泥の差があるわ。
おまけにあなたと違い、一途で優しくて…言い方と結ばれて、今の私は本当に幸せなのよ。
だから、あなたの事などもう知りません。
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