『恋愛短編集①』離縁を乗り越え、私は幸せになります──。

Nao*

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私の夫が囲って居た愛人は、死んだはずの姉でした。

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 私の夫は、いつも週末の夜に家を空ける。

 友人と飲みに行くと彼は言って居るが、最近どうもそれは違うのではないかと思う様になった。

 と言うのも、夫の友人には子供が生まれ飲みに行く暇がないと本人から聞いた為だ。


 
 では、夫は一体誰と会って居るのか。

 気になった私は、夜の闇に紛れ彼の跡を付ける事に─。



 彼が向かったのは、町の裏路地にある酒場の二階だった。

 そこは居住用の部屋になって居る様で、夫は玄関の扉をノックした。

 そして中から出て来たのは、一人の美しい女だった。



 だがその女の顔を見た私は、驚きでその場に固まった。

 と言うのも、その女は数年前に事故で死んだとされて居た姉だったからだ。


 
 彼女は、別荘地のボートの転覆によって溺死…無残な姿で発見された。

 その余りの変わり様に私はそれを直視する事は無かったが、髪の長さや背恰好からそれは姉だと認められたのだ。

 その姉がどうしてこんな所に、しかも私の夫と会って居るの!?



 そこで私は、かつての姉の事故について詳しく調べる事に─。

 すると、驚くべき事実が発覚した。

 実は、姉は友人と出かけそのボートに乗って居た事になって居たが…一緒に居たのは、私の夫(その時は婚約者だったが)である事が分かったのだ。



 あの時二人の乗ったボートの底に穴が開いて居て転覆、二人は溺れた。

 彼は泳ぎが得意だった為、すぐに岸辺に辿り着いたが…姉は他のボートに助けられ何とか無事だった。

 だが事を荒立てたくない二人は、ボートに乗って居たのは姉一人でそのまま溺死した事にし様と考えた。



 と言うのも、偶然一人の女性の溺死体が発見され…現場は大騒ぎになった事もあり、そのどさくさに紛れ自分達の浮気を無かった事にしたかったのだろう。



 そして情報が錯綜する中、その遺体はボートの転覆で溺死した姉という事になってしまったのだ。

 姉を助けた者達には、金を掴ませ真実を黙って居る様に命じたそうだし…本当にどこまでも汚い二人ね。



 全てを知った私は、姉の元に向かった。

 彼を真似て独特のリズムで玄関のドアを叩けば、彼が来たと勘違いした姉がとびきりの笑顔で出て来た。



 だがその相手が妹の私だったと知ると、彼女の顔はすぐに血の気が引いて行った。

 そんな死人みたいな顔、しなくてもいいのに─。



 私は、あなたと夫の関係は全て知って居る、私や両親を騙しよくこんな薄汚い真似が出来たなと責めた。

 そして、もうこの家から出て行く様に言った。



 姉は、私は死んだ事になって居るからここを追い出されたら行く所が無いと泣いて訴えたが…私は許さなかった。

 そして、行く所が無いならここに行けと姉に地図を渡した。



「そこはね、あなたの様な身元のはっきりしない女を預かってくれる良い所よ?お姉様は美人だし、きっと歓迎されるわ。」

「わ、分かったわ。でも最後にどうしても彼と会いたいから、後でここに来る様に言って頂戴。彼とお別れの挨拶がどうしてもしたいの!」

「そうね、伝えておくわ。」



 私の言葉に姉は漸く納得した様で、私の従者に連れられそこへと向かった。

 

 その夜、ドアからあの独特の音がし私はそれを開けた。
 
 そこに立って居たのはやはり私の夫で、姉では無く妻の私が居る事に夫はその場で腰を抜かした。



「ど、どうしてお前がここに…!」

「お姉様ならもう居ないわ。ここはもう引き払う事にしたから。」

「お前、気付いて…!?か、勝手な真似をするな!ここは俺が金を払い─」

「でもそのお金は、私が渡したお小遣いでしょう?あなたは私が稼いだお金で姉を愛人として囲って居た。よくもそんな事の為に大事なお金を使ってくれたわね。」

 

 私の言葉に、夫は何も言い返せないで居る。

 最近、夫の事業は上手く行っておらず…私の事業で何とか生活が維持出来て居たのだ。

 でもそれでも苦しかったけれど、愛人を囲って居たら当然よね。



「あの人には、今まで使った分のお金を返す様にある仕事に就かせたわ。あなたも後で会いに行けば?」

「仕事って、一体どこへ─」

「あそこよ。」



 私が指さしたのは、娼館が集まるとされる区域だった。

「あの中でも美人ばかりを揃えた店に連れて行かせたから、今頃早速一人目の客の相手でもしてるんじゃない?」

「お前─」

「あなたが怒れる立場?怒るなら…今まで姉に使ったお金をこの場ですぐに返して頂戴。」

 勿論、夫はそんな事は出来ず…姉が居るであろう娼館にフラフラした足取りで向かったのだった─。



 私の中で、姉は二回死んだ。

 一度目はあの溺死で、二度目は今日の夜。

 あの女は姉ではなく、ただの卑しい娼婦となったのだ─。



 その後、私と夫は離縁した。

 そして私を失った夫は…事業を立て直す事が出来ず負債を抱え破産、借金取りに追われこの地を出て行った。



 そんな事とは知らない姉は、夫の来訪を待ち続けると同時に何人もの男に抱かれ続け…遂に精神が崩壊、狂ってしまった。

 あの時本当に溺死して居れば、あなたはこんな苦しみを味わう事は無かったわね─。



 その後、私はある実業家と再婚した。

 彼は私一筋で愛人など作らず、裏の顔も持たない誠実な人で…私はあの二人の事など思い出す事も無くとても幸せな日々を送って居るわ─。
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