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「こ、今回の契約はもういいさ!それに、お前とももう別れてやるよ。ミラージュとの関係がここまでバレた以上、もう一緒に居る意味はないもんな!俺はお前と別れ、彼女を新たな妻に迎える……俺達は、これでやっと一緒になれるんだ!」

「いえ……それは、無理だと思うわ。」

「か、彼女なら契約が一つ結べなかったくらい大目に見てくれるさ!何なら、あの身体で優しく俺を慰め──」

「彼女は取り巻きの男を使い、私を何度も襲撃しようとしました。彼女には、私への傷害や恐喝容疑で牢に入って貰うつもりですから。」

「な、何だって!?」


 
 私はダミアンに、街でちょっかいをかけて来た男の正体や先程自国に戻る際に馬車を襲撃した男達の正体を教えた。

 すると、まさか愛らしいミラージュが自身の取り巻き達を使いそんな事迄して居たとは思わなかったダミアンは……驚きで声も出ずに、力なくその場にへたり込んでしまった。



「どうしても彼女に会いたかったら、牢に面会に行く事ですね。でも今後、あなたにはそんな余裕など無いでしょうが。」

「へ?」

「だって、ミラージュの悪事が世間に知れ渡ったら……そんな女と浮気して居たあなただって、色々と悪評が立つでしょう?そうなったら、今回の契約だけでなく今まで問題なく進んで居た事業計画も全て白紙になるのでは?先程も言ったように、お父様のお知り合い達は全て私の味方ですし、見栄だけを大事にするあなたの親族があなたを助けるとは思えませんし……そうなればあなたは孤立し、傾く事業と膨れ上がる負債に一人苦しむ事となるでしょう。まぁ、それも全てあなたの愛した女と……そしてあなた自身のせいですけれど。」

「エ、エリザベス……さっきの離縁の話は無かった事にさせてくないか?お、俺は一人ではとてもやって行けないよ。それだけ味方を付け、力も金も持った名家の娘のお前が居なければ俺は、俺は──!」

「いえ、離縁で結構です。私はもう、あなたの事など一切愛しては居ないので。」

「そ、そんな……ああぁぁ──!」
 
 私の言葉に、ダミアンはその場で声を上げ大粒の涙を流すのだった──。



***


 
 その後、私の通報でミラージュはすぐに憲兵に捕らえられた。

 丁度馬車を襲った男達と報酬の事で揉めに揉めて居た所だったから、それが証拠となってあっさり捕まってしまったらしい。



 するとミラージュは、ダミアンが保釈金を払って自分を助けてくれる……愛する自分を迎えに来てくれるからすぐにここを出れるとタカを括って居たが、結局それは叶わなかった。



 と言うのも、私の予想通り悪評の立ったダミアンの事業は一気に傾きそれどころでは無くなり……また彼の作った事業計画書に虚偽が何個もあった事で、彼自身も詐欺の疑いで牢に入れられる事態になったからだ。



 するとそんなダミアンとミラージュは、偶然にも牢で向かい合わせになり……そうなって毎日のように互いを罵り合っては醜い喧嘩をして居るそうで、他の囚人達や看守達に大いに呆れられて居ると言う。

 

 だがそう言った反省の無い態度が、更に刑期を伸ばして居る事に二人は気付いて居らず……その話を噂で知った私は、本当に愚かな者達だと呆れ返るのだった。



 そんな私はと言うと……ダミアンと過ごした家を思い切って売りに出し、隣国へと渡る事に──。

 心機一転、ここで事業を立ち上げ成功させたかったし……何より、アーサーの故郷を訪れて見たかったからだ。



 あの後……全てが終わっても、アーサーは私の傍にずっと付いて居てくれた。

 ただし、それはもう使用人や護衛としてではなく……ビジネスパートナー、そして私を支える一人の殿方としてだった。



 わずかな期間ではあったが、私と彼は心の深い所で繋がり合い……そして、互いに理解を深めて行った。

 そして今では、彼は私にとって居なくてはならないとても大切な人となった。



 また、アーサーにとってもそれは同じだったようで……家を売りに出すと言う話をした時、彼の方から自分の国に……故郷に来ないかと言ってくれたのだった。



「アーサー……これからも、変わらず私の隣にずっと居て頂戴ね?」

「勿論です、エリザベス様──。」



 そう言うと、アーサーは私の左手を取り……上着のポケットに入れて居た小さな箱から、美しい指輪を取り出した。

 そして、それを私の左手の薬指に嵌めると……以前と同じように、私をギュッと抱きしめてくれた。



 そんなアーサーの額には、かつて妹を守った時の傷と………そして私を守った時の傷が二つ付いて居たが、私は愛おしそうにそれを手で撫で……彼の頬に両手を添え引き寄せると、その想いに応えるかのように口づけを捧げるのだった──。
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