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「どうだ、最近はミラージュ……あの女の来訪は無いか?」
「ダミアン……お帰りなさい。大丈夫よ、あれきり彼女はここには来て居ないわ。」
「そうか、ならば結構だ。」
数日振りに帰宅したダミアンに、私はすぐに駆け寄りギュッと抱き着いた。
そしてその後、私は彼から上着を受け取ると客間へと促した。
「実はね、護衛を兼ねて新しい使用人を雇う事にしたの。男の使用人が一人辞めてしまって、力仕事を任せる者が居なかったでしょう?」
「そうだったな。で、それがその男と言う訳か。」
そう言って、ダミアンは目の前に座った男を見た。
しかしすぐに私の方を振り返ると、手招きして私を近くに呼び寄せた。
「何かしら?」
「……いや、何だか野暮ったい男だな。使用人は良いとして、こいつに護衛が務まるのか?雇うと言う事は、金を支払うと言う事だろう?役に立たない者に支払う余分な金など、この家には無いぞ?」
「そんな事は言わないで頂戴。彼は十分強いわよ?この前だって、街で変な男に絡まれた時もちゃんと助けてくれたのだから──。」
「何、そんな事があったのか?そうか……それなりに役に立っては居るのだな。だったら構わない、これからも何かと守って貰えばいい。」
「……はい、そうします。」
言いたい事を全て言い終えたのか、ダミアンは仕事で疲れた……一休みすると言って自室へと向かった。
そして私は……そんなダミアンの背中を、冷めた目で見送るのだった。
少し前の私なら、彼の帰りに喜び……久しぶりの夫婦の時間を楽しもうとその背中に抱き着き引き留めた事でしょう。
でも、今はとてもそんな気持ちにはなれない──。
「ごめんなさい、夫が失礼な事を。」
「……いえ、この見た目ですから。いずれ改めます。」
そう言って、使用人兼護衛の彼……アーサーは目を伏せた。
「それで、この前あなたを襲った男ですが……まだあなたの事を諦めず、家の近くをウロウロして居たので今度はしっかり痛めつけておきました。それきりもう二度と姿を現さないので、今度こそは諦めたのかと──。」
「ありがとう。それで、その男はやはりあの女の──?」
「そうです。あの右腕の傷……何よりあの巨体、間違いないです。この俺が見間違う訳がありません。それと、こちらはダミアン様の部屋に隠してあった過去の日記です。こちらに、あなたへの想いなどが色々と綴られております。」
アーサーから早速それを受け取り、その中身を一通り拝見した私は思わず眉を顰めてしまった。
ダミアン……あなたのかつての婚約者は、あなたが思って居るような女では無いわよ?
そんな彼女は、あなたと一緒になる事を望んで居るけれど……どうやらダミアン、あなたも同じ気持ちのようね。
私を心配する振りをしながら、本当はあなたは──。
彼女に離縁を要求されるまでもない。
あなたのような人など、こちらから離縁を言い渡す事にするから──。
「ダミアン……お帰りなさい。大丈夫よ、あれきり彼女はここには来て居ないわ。」
「そうか、ならば結構だ。」
数日振りに帰宅したダミアンに、私はすぐに駆け寄りギュッと抱き着いた。
そしてその後、私は彼から上着を受け取ると客間へと促した。
「実はね、護衛を兼ねて新しい使用人を雇う事にしたの。男の使用人が一人辞めてしまって、力仕事を任せる者が居なかったでしょう?」
「そうだったな。で、それがその男と言う訳か。」
そう言って、ダミアンは目の前に座った男を見た。
しかしすぐに私の方を振り返ると、手招きして私を近くに呼び寄せた。
「何かしら?」
「……いや、何だか野暮ったい男だな。使用人は良いとして、こいつに護衛が務まるのか?雇うと言う事は、金を支払うと言う事だろう?役に立たない者に支払う余分な金など、この家には無いぞ?」
「そんな事は言わないで頂戴。彼は十分強いわよ?この前だって、街で変な男に絡まれた時もちゃんと助けてくれたのだから──。」
「何、そんな事があったのか?そうか……それなりに役に立っては居るのだな。だったら構わない、これからも何かと守って貰えばいい。」
「……はい、そうします。」
言いたい事を全て言い終えたのか、ダミアンは仕事で疲れた……一休みすると言って自室へと向かった。
そして私は……そんなダミアンの背中を、冷めた目で見送るのだった。
少し前の私なら、彼の帰りに喜び……久しぶりの夫婦の時間を楽しもうとその背中に抱き着き引き留めた事でしょう。
でも、今はとてもそんな気持ちにはなれない──。
「ごめんなさい、夫が失礼な事を。」
「……いえ、この見た目ですから。いずれ改めます。」
そう言って、使用人兼護衛の彼……アーサーは目を伏せた。
「それで、この前あなたを襲った男ですが……まだあなたの事を諦めず、家の近くをウロウロして居たので今度はしっかり痛めつけておきました。それきりもう二度と姿を現さないので、今度こそは諦めたのかと──。」
「ありがとう。それで、その男はやはりあの女の──?」
「そうです。あの右腕の傷……何よりあの巨体、間違いないです。この俺が見間違う訳がありません。それと、こちらはダミアン様の部屋に隠してあった過去の日記です。こちらに、あなたへの想いなどが色々と綴られております。」
アーサーから早速それを受け取り、その中身を一通り拝見した私は思わず眉を顰めてしまった。
ダミアン……あなたのかつての婚約者は、あなたが思って居るような女では無いわよ?
そんな彼女は、あなたと一緒になる事を望んで居るけれど……どうやらダミアン、あなたも同じ気持ちのようね。
私を心配する振りをしながら、本当はあなたは──。
彼女に離縁を要求されるまでもない。
あなたのような人など、こちらから離縁を言い渡す事にするから──。
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