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「術で結界を張っておいたのにこの扉の存在に気付くとは…中々に強い憎しみ、負の感情を持って居るんだな、君は。そしてそれ故に、その本に呼ばれる事になったのだろうか。」

「あ、あなた誰…?この本について何か知ってるの?」

「…まぁな。俺は、魔術師の子孫だから。」

「魔術師…?そ、そうよ…あなたが居たじゃない!少し前に転入して来た、黒魔術師の子孫と噂され皆から恐れられるあなたが─!あ…私ったら、し、失礼な言い方を─」

「…別に、本当の事だから構わない。ここは、そんな俺が唯一心落ち着ける場所だったんだ。」

 そう言って彼は、近くにあったイスを引き寄せ腰かけた。

 

「あの、私はミリー。訳あって黒魔術が使える人を探して居たの!あなたは黒魔術師の子孫なのよね?だったら、どうか私の復讐に力を貸して!協力しそれを叶えてくれたら、私はあなたの望みを何でも聞くし…この命さえ捧げても構わないわ!」

「俺に命を捧げようだ何て…君は正気か?」

「正気かと言われれば…もう私は狂ってるかもしれないわ。あの二人の裏切りをこの目で見た時からね。今の私は、とにかくあの二人に復讐できればいいの。今を生きる上で、それしか望みが無いのよ…。」



 すると彼は、そんな私を見て小さくため息を吐き…ゆっくりこちらへと近づいて来た。

 そしてその場に跪き私の手を掬い上げると、そっと口づけこう言った。

「我が名は黒魔術師アデル…あなたを主と認め、ここに契約を致します。どうぞ、何なりとお申し付け下さい─。」



 私はそんな彼にドキリとしつつ、だがしっかりと頷いた。

「じゃあアデル、まずは私の幼馴染で友達…いえ、友達であったサリアに復讐したいわ。彼女自身は非力だけれど…でも彼女には、いつでもどこでも護衛が付いていてね。その男がまた腕の立つ男で…あの男が傍にいる限り、私は彼女に近づけないの。」

「なるほど。だから黒魔術を利用しその護衛をどうにかすれば、思うように君の復讐が果たせると?」

「そう。あなたの力で、まずは彼女から上手く護衛を引き離したいのよ。そこから先どうするか…私がちゃんと考えるから。」



 可愛くて色んな殿方から好かれ、告白が絶えなかった彼女の事…やましい事の一つや二つはあると思うのよね。

 だからその辺りを探ってみるか─。



「そうか。では、俺の一つ考えを…。黒魔術を用いれば、その代償を依頼主である君が受ける。しかし特別だ…全ての復讐が終わるまで、君にその力が跳ね返らないようにしよう。」

「そんな事も出来るの?アデルって、噂通りの凄い黒魔術師なのね!」

「…まぁな。俺の力があれば、護衛を引き離すだけでなく消す事も簡単だが?」

「いえ…それはしないわ。私が恨んでいるのはあくまであの二人。護衛は職務として勤めを果たしているだけ…私情で彼女を守り、私の邪魔をしているわけではないもの。何より、私はあなたに殺人の片棒を担がせる事迄は望んで居ない。」

「そうか。(まぁ…君ならそう言うと思った。)」

「え?良く聞こえなかった。」

「いや、何でもない。じゃあ、早速動くとしようか─。」 



 そして、アデルと主従関係を結んでから一週間が経った。

「サリアは学校が終わると、カフェテリアで休憩をしてから家に帰るの。休憩時は、いつも一人で静かにお茶を飲んで居るわ。でも、遠くから護衛がしっかりと彼女を見守って居てね…。まずはその護衛をどうにかしたいから…アデル、早速私に黒魔術をかけて頂戴─。」

 私の言葉にアデルは頷くと、地面に魔法陣を描き呪文を唱えた。



 その瞬間、魔法陣から湧き上がった漆黒の影(アデル曰く悪霊や悪魔の集合体らしい)に私は包まれ…私の姿は、誰にも見えなくなった。



 そして私は、そのままの状態で護衛の背後に回り込んみ…その額に手をかざした。

 すると護衛の体は、私と同じように闇に包まれ…悪霊や悪魔の悪い気にあてられた彼は、すぐにその場にぐったりと座り込んでしまった。



 そしてそれを確認したアデルが手をクイッと動かすと…護衛の体は浮き上がり、茂みの中へと運ばれて行った。



 ありがとう、アデル!

 後は私が上手くやるわ─。
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