【立場逆転短編集】幸せを手に入れたのは、私の方でした。 

Nao*

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夫にも息子にも捨てられた私ですが、新しい家族を大事に生きて行く事を決めました。

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長らく、子に恵まれなかった私。

 だが少し前に念願叶って夫の子を身籠り、その後出産したのだが…それを機に私は体を壊し寝込んでしまった。



 その為夜の相手が出来なくなった私に不満を持ち始めた夫は、何時の間にかメイドと浮気関係になってしまった。

 また夫は…そんな体の私ではろくに子育ても出来ないだろうと、我が子の面倒を看て貰おうと私から子を取り上げた。


 
 そのせいで、私病から立ち直り元気になった時には…息子は私の事を母親とは認識せず…代わりに、夫の愛人でしかないメイドを実の母親だと慕うのだった。



 その為私は、息子に本当の母親は私だ…これからは一緒に居ようと言ったが…息子は、そんな私を冷めた目で見つめこう言った。



「こんな年増が僕のお母様だなんて嫌だ。あの人の方が若くて可愛いし…それに、お父様も仰っていた。いずれ、あの日をが自分の妻になる…お前の本当のお母様になってくれるって。」

「そ、そんな…。」



 私は息子の言葉がショックで、その日から精神的に弱ってしまった。



 するとそれを見た夫は…妻は今度は体ではなく、頭がおかしくなった。

 子供の教育にもよくないし、何より愛する彼女が怖がっているからと言い…私を使って居ない別荘へと押し込めてしまうのだった。



 一人そこに送られた私は、ますます悲しみに暮れたが…そんな私を、癒してくれる存在ができた

 それは、子の別荘の手入れをしてくれて居る方の息子だった。

 

 その子は私の息子と年齢が同じくらいで、人懐っこくとても可愛らしい子だった。

 聞けば母親を病で亡くしたらしく、どうやら私にその面影を見て居るらしい。

 その子は私を少しでも慰めようと、庭の花を摘んで来ては窓辺に置いて行ってくれた。

 

 また彼の父も、私の居る小屋の窓からよく見える位置に敢えて花を植えてくれたり、毎日のように部屋を掃除し私が気持ちよく過ごせるようにしてくれたり…夫と違い、それはそれは気づかいが出来る優しい人だった。


 
 そんな中、夫から離縁状と…そして、メイドとの間に子ができた事が書かれた手紙が送りつけられた。

 また、封筒には息子からの手紙も入っており…そこには、これで漸く友達に自慢できる美人なお母様が出来ると書かれて居た。



 そしてそれを見た私は、涙が止まらなくなってしまったが…管理人の息子がそれに気づくと、持って居たハンカチでその涙を優しく拭ってくれた。



 そのハンカチには、随分前に私が体調がいい時にやってあげた刺繡が入っており…ハンカチが古くなっても、この子は未だそれを大事にしてくれて居る事が分かった。



「…あなたみたいな優しい子が、私の本当の子だったら良かったのに─。私はもう、あの子にとっては要らない母親何ですって。」

「だったら、僕のお母様になって?僕にはお母様が居ないから…僕もお父様も、とっても寂しかったの。」



 この子の母親は、この子を産むと同時に亡くなったと聞いている。

 私もこの子も、そして彼も寂しいのか…。

 だったら寂しい者同士、これから一緒に居ましょう─。

 

 そうして私は離縁を受け入れ、そして二人と共に別荘を後にした。

 でもだからと言って、その後の生活に困る事はなかった。



 と言うのも、管理人の彼は実はそこそこ有名な絵描きで…管理人の仕事は、あくまで彼の副業のようなものに過ぎなかったのだ。



 そうして私は、彼のアトリエに住む事となり…彼の息子の計らいもあり、私と彼は恋仲となり再婚することとなった。



 すると彼は、私と息子を絵に描きたいと言い出し…無事描き終わると、聖母と天使の絵だと世に出したのだった。



 だが、それから少しして…浮浪児が一人、私を訪ねて来た。



 薄汚れた園子の顔を見れば、何とそれは実の息子であり…息子が言うには、お父様が事業の失敗で貧乏になった─。

 そうなってお母様になってくれたメイドは、僅かなお金を持ち逃げした挙句事故に遭い…お腹の子と共に命を落とした。



 僕は今回の件で頭のおかしくなったお父様と路頭に迷う事になり、毎日を生きて行くのが辛いと涙した。



「あの絵を見て、お母様がここに居る事を突き止めたんだ。ねぇ、僕をここの家の子にしてよ。絵に描かれていた男の子より、僕の方が可愛い顔をしてるよ?だから─」

 だが私は、そんな息子の願いを拒絶した。



「私の息子は、あの根に描かれたあの子だけ…。そもそも、あなたが先に私を要らないと言ったのでしょう?そんなに苦しいなら、孤児院に行きなさい。あなたに直接施しはしないけど、その孤児院には施しが出来る。それが私があなたに出来る唯一の事。」

「そんな!」


 まさか私に拒否されると思って居なかった息子は、その場で大泣きし始めたが…私はそれを無視し、静かに家のドアを閉めた。



 その後…私達は、私の実家へと移り住んだ。

 元夫に、私の居場所が知られるのは面倒だと思ったからだ。

 

 実の子はあれから私が教えた孤児院に入り安定した生活を送ったと聞くし、そこへの施しも一応続けて居るから…親としての務めは果たした。

 元夫の事は…あの人は大人だから、自分でどうにかすればいいわ。


 
 私だ大事にしたい家族は、この新しい家族だけ…先にあなた達が私を捨てたのだから、私にそう思われても当然よね─。 
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