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私を妃に迎えた王子が記憶喪失になった挙句、自分の本当の妃は妹だと言い出しました…。

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 ある日、王子が記憶を失った。

 運悪く落馬し皆が心配する中で目を覚ました彼は、何と私との出会いから妃に迎える迄の全てを忘れて居たのだ。

 その上、お見舞いに訪れた私の妹を見るなり…彼女を自分の妃だと言い放ったのだ。

 

 それに対し妃は自分だと彼に伝えても、知らない女の言う事など信じられるかと拒絶されてしまった。

 そしてその日から、彼は私と口をきこうともしない─。



「…お姉様、無理に思い出させては王子のお身体に負担がかかりませんか?」

「そうね…それは一理あるわね。私も焦りすぎて居たわ。」

「ここはいっその事王子に話を合わせてみては?そしたら気が落ち着いて、記憶が早く戻るかも…。王子の為にも、私が妃のふりをするんです。」



 妹が、私の代わりを…?

「そう、ね…。じゃあ、少しの間それで様子を見ましょうか─。」



 こうして妹は、彼の記憶が戻るまでの…いわば期間限定の妃となり…その日から、王子の最愛は妹となったのだ─。



「まだ城の中をうろついてるのか?」

「王子…この人には、私とあなたのお世話をして貰うのよ。どうかそんなに毛嫌いせず、優しくしてあげて下さい。」

「お前がそう言うなら我慢するが…おい、もしまた俺におかしな事を言ったら城から追い出すぞ!」



 元妃の私は今、この城の使用人という事になっている。

 お城の皆にも、そのように接して欲しいと話はしてある。



 妹からは一度、王子の前から一時的に姿を隠してはどうかと提案されたが…私は忘れられた上に傍を離れるのは辛い…せめて陰ながら彼を支えたいと、自ら使用人になる事を選んだのだ。

 

 そんなある夜…私はどうにも眠れず、部屋をこっそり抜け出した。

 

 少しだけ王子の様子を見に行こうかしら…彼の寝顔を見れば、少しは気持ちが落ち着くわ─。

 そう思い彼の部屋に向かうと…扉の隙間から光が漏れ、何やら話し声が聞こえてくる。



「…お姉様が妃だと、思い出しましたか?」

「まだだな…というか、もう思い出さなくてもいい。だって俺には、こんなに美しい妃が居るんだから…。聞けばあいつを妃に迎えたのは王の命令だったとか。地味顔の妃など俺は嫌だ。でも最近王は病気で弱ってるし…老いぼれの言う事など、俺はもう聞かないぞ。」

「あらあら、お姉様はあなたの妃になれた事を喜んでらしたのに…悪い方。」

「喜んだのはお前もだろう?お前は俺のものになりたくて、あいつに変わりなりたくて妃になった癖に。そしてこうして毎晩、俺の元にやって来るんだから…。お前の身体を知った以上、俺はもうあいつには欲情できない。」

 そして、ベッドがきしむ音と妹の淫らな声が辺りに響いた。

 

 そう…あなたにとって、私は用済みって事。

 もう私が、あなたに選ばれる事はないのね。

 そしてそうなるように、妹は私から妃の座を─。


 全てを知った私は、城からひっそりと姿を消すのだった─。



(王子視点)



「…全く、使用人が一人消えたくらいで騒ぐな。妃はもうここに居る、彼女が新しい妃だ。」

「そうよ。記憶を失った王子を見捨て姿を消した姉に、二度と妃は務まりませんわ。」



 俺達の言葉に、従者は困り顔を見せた。

 元妃のあいつが消えてから、城の皆は落ち着かない。



 だが、王子の俺に逆らえる者は居ない。

 居るとすれば王か…もしくは─。

 でもあの人は、ここには来られない筈…。



「その娘を妃に迎えたと言うのは、やはり本当だったか。だったらもう、お前はこの城に居られないな。」

 聞き慣れたその声に、俺はビクリと体をすくめた。



「あ、兄上…どうしてあなたが、元妃のそいつと一緒に居るんだ!?何よりあなたは─」

「そうだな、船から海に落ちた時はもう駄目かと思ったが…運良く隣国に流れ着き助かったんだ。それで城に帰還する途中、城を出たと言う彼女に出会った。聞けばお前と妹の裏切りにあったと言うじゃないか。お前という男は、根っからの悪人だな…。俺を海に突き落としたのも、お前の手の者だったし…こうして彼女まで傷つけて─。」




「お、俺は知らない!それは兄上の勘違いで─」

「捕らえた者が、全てお前の企みだと証言して居る。」

「ご自分の兄を殺そうとし、妃の私を裏切るとは…あなたは余りに悪行を重ねました。」

「俺が行方不明になった事で、お前が次期王と言う事になったが…俺が戻った以上、お前から継承権を剥奪し罰を与えると王は言っている。お前は今の座から退き、その女も道連れだ。」

 するとそれを聞いた王子と妹は、ショックの余りその場に崩れ落ちてしまった。



「わ、私、せっかくお妃様になれたのよ…?」

「そもそも、あなたが妃なのはあくまで期間限定。そもそも、身内の姉を平気で裏切るようなあなたに妃など務まりませんよ。」

「そうだ、弟と共に大人しく罰を受けるがいい!」

「こ、こんなの嫌─!」



 こうして私を裏切った二人は、その後それぞれに罰を受ける事に─。



 兄を殺そうとした王子は、王家の恥だとすぐに処刑される事となった。

 彼が兄の命を狙ったのはこの一度だけではない事が判明した上、王の病気にも関与している疑いがあると判断されたからだ。



 そして妹は、隣国へと追放された。

 隣国では若い娘が大層好まれるそうで…彼女はさ迷って居る所を金持ちだが醜い男に目を付けられ、無理矢理性奴隷にされたと言う。

 

 一方、私はと言うと…その後、兄である第一王子と結婚し妃となった。

 

 彼は私に結婚を申し込む際、もし俺が記憶をなくしても、君の事は何度だって好きになると誓ってくれた。

 それを聞き、この人とならもう一度誰かを愛する心を取り戻せる気がすると、私は自然とそう思えたのだ。



 結果、彼の言葉と…そして自分を信じて良かったと私は思って居る。

 彼は私を大層大事にしてくれ…彼の最愛となった私は、今はとても幸せな日々を送って居るわ─。
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