上 下
115 / 159

婚約者であった王子に捨てられ敵国へ行く羽目になった聖女の私は、そこで幸せを手に入れました。

しおりを挟む
 私は王子と婚約して居たが、彼は地味で大人しい私を嫌って居た。

 するとそんな中で、城に一人の旅の聖女がやって来た。
 
 彼女は巡礼の旅で色々な国を回って居るそうで、大嵐が治まるまでこの城に滞在したいと言う。

 

 すると王子は、美しいその聖女を気に入り…王たちが隣国に行って居るのを良い事に、彼女を城に置き好き放題する様に─。

 毎日彼女とお喋りをしたり、城下へ遊びに行き…王子は、王から頼まれた職務を果たす事は無かった。



 そんな王子を、私は婚約者として諫めた。

「もう嵐も収まって居る事ですし、そろそろ彼女を旅に出すべきです。そしてあなたは、本来の王子としての役目を果たして下さい。」

 しかし王子は…そんな事は俺が決める事だ、生意気な口を利くなと言い、私を城の地下牢に押し込めてしまった。



 そしてその翌日…私は牢を出る事が出来たが、何故か城の外にある馬車に乗るよう王子に命じられた。

「これは…一体どういう事です!?」

「お前には、もうこの国から消えて貰おうと思ってな。お前の様な冴えない容姿でも、若ければいいというもの好きな男は大勢居る。そう言う男に、たっぷり可愛がって貰え─。」



 そして私は、そのまま馬車に押し込められ…その三日後、辿り着いたのはあの国と敵対して居る国だった。

 まさか王子の婚約者だった私が、敵国に売られる事になるとは─。



 その後、私はその地の領主だと言う男に引き渡される事に─。

 男は私よりも二回りは年上で…下卑た笑みを浮かべ、私を舐める様に見て来た。

 その姿に、私は思わず鳥肌が立った。



 神様、どうかお願いです…。

 私を、こんな運命からお救い下さい─!



 私は敵国の守護神に、思わずそう願った。

 敵対する国の者に、神が慈悲をくれるかは分からなかったが…それでも祈らずにはいられなかったのだ。



 するとそんな私の前に、一人の殿方が現れ…その取引は中止だ、彼女は俺が買うと言った。

 そしてその領主の出したお金の二倍の額で、私を買い取ってくれたのだ。


 
 それはフードを深く被り、顔も良く見えない男だったが…その声色は優しく、私は何故か安心して彼にその身を任せた。

 そして私は、彼が泊まる宿屋に連れて行かれ…そこで彼は、漸くそのフードを外した。



 その顔を見た私は…思わず驚きの声を上げた。

 と言うのも…それは放蕩息子と呼ばれ王に呆れられて居た、あの国の第二王子だったからだ。

「ど、どうしてあなたが敵国に!?」



 すると彼は、スパイとしてこの国に潜り込んで来て…色々と情報を仕入れたから、一度あの国に帰ろうとして居た所だと言った。

「本当の事を言い国を出たら、兄が俺の秘密をうっかり周りに話すと思って─。あの人は、女好きで口が軽いから…。それなら何も言わずあの国を出て、放蕩息子と言われた方がマシだと思ったんだ。」

 成程…確かにあの人なら、気に入った女達に彼のやろうとして居る事を話してしまいそうね。

 

「それで…どうして君はここに居るんだ?あんなスケベな男に買われそうになって居るのを見て、心底驚いたよ。」

「実は─。」
 
 私は、これまでの事を彼に話した。



「…そう言う事か。全く、あの人は相変わらずだ。だったら、俺と共にあの国に戻ろう。」

「でも、あの城には聖女が…。戻っても、どうせ私はまたすぐに追い出されて─」

「その聖女だが…ある情報を仕入れて居てな─。」



 その後、私は第二王子と共に城に帰還した。

 するとそれを見た王子は、どうして戻って来たのかと私を責めた。

「俺には、もうこの彼女が居るんだ!彼女は巡礼旅を辞め、俺の傍に居ると言ってくれて─」

「兄上…あなたは、そんな犯罪者を傍に置くのですか?」

 弟君の言葉に、王子は言葉を失い…聖女はビクリと肩を揺らした。



「敵国に滞在中に仕入れた情報の中に、ある聖女の話がありましてね。その女は旅の聖女と身分を偽り、各国の城や貴族の屋敷に入り込み、盗みを働く悪女だとか─。その女の被害に遭った者は数知れず…。そんな女が、この国に向かって居るので注意しろと伝えたかったのですが…もう遅かったみたいですね。」

 しかし彼女は、何の事かさっぱり分からないと反論した。

 が、それを無視し弟君はこう言った。

「実は、その女は既に一度捕まって居て…その際、右腕に罪人の焼印を押されたとか─。」

 

 すると王子は、すぐさま彼女の右袖を捲った。
 
 するとそこには…醜く爛れた、罪人の焼印があった。

「か、彼女が、そんな悪女だった何て…!」

 王子は、その場にガクリと崩れ落ちた。



「そんな女に騙され、彼女のような真面目で誠実で賢い女性を捨てるなど…兄上は本当に愚かだ。しかも敵国に売り飛ばすとは、何て卑劣な─。」

 するとそこに、隣国に行って居た王たちが戻って来て…弟君と私から、これまでの話を聞かされる事に─。

 
 
 全てを知り怒った王は…彼から次期王の座を剥奪し、城の地下牢に一生幽閉する事を決め…偽聖女は、もう二度と悪さが出来ないようにと死罪を言い渡した。

 更に、今まで弟君の事を誤解して居て申し訳なかった…危険を冒してまでこの国の為によく頑張ってくれたと言い、彼を次期王にすると述べた。

 また私には、そんな彼の婚約者になって欲しい…そしていずれ妃になり、彼を支えて行って欲しいと仰った。
 


「…私のような冴えない女が婚約者など、本当によろしいのですか?」
 
 心配になり、そう尋ねる私に…弟君は、自分は容姿になどこだわらない…大事なのは人間性だと言い、私が婚約者になってくれる事はとても嬉しい事だと言ってくれた。



「俺は、ああしてたまに無茶をしてしまう事があるから…そんな俺には、控え目で落ち着いた君のような女性が良いんだ。何より、あの敵国で出会えたのは…偶然ではなく、神のお導きだと俺は思う。」
 
「神の…。」

 

 あの時、私は神に救いを求め…そしたら、彼が現れ私を救ってくれた。

 あの時から、私達は深い縁で結ばれて居たのかも知れない─。
 
 それを彼に話せば…やはりあれは運命の出会いで、自分達は運命の糸で結ばれて居たのだろうと彼は笑顔になり…その眩しい笑顔に私は心をときめかせ、彼とならきっと幸せな人生を歩んで行けるだろうと確信したわ─。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※エブリスタに投稿した作品の加筆修正版です。小説家になろうにも投稿しています。

【完結】転生した悪役令嬢の断罪 (改訂中)

神宮寺 あおい
恋愛
公爵令嬢エレナ・ウェルズは思い出した。 前世で楽しんでいたゲームの中の悪役令嬢に転生していることを。 このままいけば断罪後に修道院行きか国外追放かはたまた死刑か。 なぜ、婚約者がいる身でありながら浮気をした皇太子はお咎めなしなのか。 なぜ、多くの貴族子弟に言い寄り人の婚約者を奪った男爵令嬢は無罪なのか。 冤罪で罪に問われるなんて納得いかない。 悪いことをした人がその報いを受けないなんて許さない。 ならば私が断罪して差し上げましょう。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 読む前にご確認いただけると助かります。 1)西洋の貴族社会をベースにした世界観ではあるものの、あくまでファンタジーです 2)作中では第一王位継承者のみ『皇太子』とし、それ以外は『王子』『王女』としています よろしくお願いいたします。 →現在改訂中です。  一時的に『皇太子』と『王太子』の表記が混在しています。

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

【完結】「ゲスな婚約者と、姉の婚約者に手を出す節操のない妹を切り捨てたら、元クラスメイトの貴公子に溺愛されました」

まほりろ
恋愛
※小説家になろうにて日間ランキング総合4位まで上がった作品です。 ※2023年4月27日、アルファポリス女性向けHOTランキングにて3位まで上がりました!ありがとうございます!  私の婚約者は少しアホで、ちょっと愚かで、ほんのり|傍若無人《ぼうじゃくぶじん》で、時おり|暴虐非道《ぼうぎゃくひどう》だ。  婚約者との顔合わせの日彼に最初に言われた言葉は、 「枯葉みたいに茶色い髪に黒檀のような黒い目の地味な女が僕の婚約者なんて最悪だ。  だが亡きお祖父様が結んだ婚約だから、お祖父様の顔を立てて結婚してやる。  お前みたいなブスが見目麗しい僕と結婚できるんだ。  有り難いことだと神に感謝するんだな。  いっぱい勉強して将来伯爵になる僕を支えろよ! アーハッハッハ!」  ……だった。  私の婚約者は伯爵家に婿養子に入ることすら理解していないおバカさんだった。  こんなのが婚約者なんて最低だ。  どうしてお祖父様はこんな男を私の婚約者に選んだのかしら?  私は亡き祖父をちょっとだけ恨んだ。  この日から私は、彼との婚約を解消するために奔走することになる。 【この小説はこんな人におすすめ】 ・やられた事はやり返したい ・ざまぁは徹底的に ・一癖あるヒロインが好き ・イケメンに溺愛されたい ・ハッピーエンドが好きだ ・完結作品しか読みたくない ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他のサイトにも投稿してます。 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」 ※ペンネーム変更しました。 「九頭竜坂まほろん」→「まほりろ/若松咲良」 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

家から追い出された後、私は皇帝陛下の隠し子だったということが判明したらしいです。

新野乃花(大舟)
恋愛
13歳の少女レベッカは物心ついた時から、自分の父だと名乗るリーゲルから虐げられていた。その最中、リーゲルはセレスティンという女性と結ばれることとなり、その時のセレスティンの連れ子がマイアであった。それ以降、レベッカは父リーゲル、母セレスティン、義妹マイアの3人からそれまで以上に虐げられる生活を送らなければならなくなった…。 そんなある日の事、些細なきっかけから機嫌を損ねたリーゲルはレベッカに対し、今すぐ家から出ていくよう言い放った。レベッカはその言葉に従い、弱弱しい体を引きずって家を出ていくほかなかった…。 しかしその後、リーゲルたちのもとに信じられない知らせがもたらされることとなる。これまで自分たちが虐げていたレベッカは、時の皇帝であるグローリアの隠し子だったのだと…。その知らせを聞いて顔を青くする3人だったが、もうすべてが手遅れなのだった…。 ※カクヨムにも投稿しています!

私がヒロイン?いいえ、ごく普通の令嬢です

藍田ひびき
恋愛
「貴方も転生者なんでしょう!?ヒロインならヒロインらしく、逆断罪されなさいよ!!」 「えっと……どなたかとお間違えではないでしょうか?」 ピンクブロンドの令嬢、アイリーン・バックリー男爵令嬢は卒業パーティでレヴァイン公爵令嬢から身に覚えのない罵倒を受けた。 逆ハーもヒロインも、何のことかさっぱり分からない。だって、アイリーンはごく普通の、常識的な令嬢なのだから。 ピンクブロンド令嬢がまともだったシリーズ第二弾。 設定はゆるふわです。 ※ なろうにも投稿しています。

双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい
恋愛
同じ父と母から生まれたシャルルとミシャル。 誰もがそっくりだと言った2人は瞳の色が違う以外全て瓜二つだった。 シャルルは父の青と、母の金を混ぜたエメラルドのような瞳を、ミシャルは誰とも違う黒色。 ミシャルの目の色は異端とされ、彼女は家族からも使用人からも嫌がられてしまう。 どれだけ勉強しても刺繍に打ち込んでも全ての功績はシャルルのものに。 婚約者のエドウィンも初めこそミシャルに優しかったが、シャルルの方へと心動かされ、婚約者をシャルルに変更したいと望む。 何もかもが嫌になったミシャルは身体ひとつで呪われた屋敷と噂の公爵邸に足を踏み入れ、 行方知れずになってしまう。 ミシャルが行方不明となって死んだと思っていたシャルル達の前にミシャルが再び姿を現した時。 ミシャルはシャルルが欲しいものを全て手にして幸せそうに微笑んでいた。 このお話は、嫌われていた令嬢が新しい場所でたくさんの人に愛され、幸せになって妹と家族を見返すお話。

処理中です...