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王子にとって理想の聖女が現れると、婚約者で現聖女の私は辺境の地へと追いやられました。

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 この国の王子の婚約者に選ばれた聖女の私。

 だが王子は真っ黒な髪に真っ黒な瞳を持つ私を縁起が悪いだの地味などと嫌い、大事にはしてくれなかった。



 そんなある日、薄桃色の髪に同じく薄桃色の瞳と言う可憐な容姿の聖女が城を訪ねて来た。

 彼女は色々な国を周る旅の聖女だと言うが…そんな彼女に、王子はすぐに心奪われてしまった。

 

 王子は、特に彼女の薄桃色の柔らかな髪を気に入ったらしく…神秘的なその容姿はまさに俺の理想の聖女そのもので、婚約者で現聖女のあいつとは大違いだ─。

 もうどこの国にも行かず、ずっと俺の傍に居て欲しいと彼女に願うのだった。



 すると彼女も、長い旅をするのにはもう疲れた…王子がそう望んでくれるなら、私は喜んであなたのものになるとそれを受け入れるのだった。



 こうして二人が両想いになった事で、私は王子に一方的に婚約破棄される事に─。
 
 と同時に、今すぐ城を出て未だ荒廃したままになって居る辺境の地で聖女としての務めを果たせと命じられた。



 自分やこの城、そして王都などの国の重要地点は新しく婚約者となった彼女に守らせるから、私は残りの人生を辺境の地で大人しく過ごせと言う事らしい。

 つまりはお払い箱と言う訳だが…もう彼の婚約者でなくなった私に、それに逆らう事など出来はしなかった。



 ただその前に、彼女についてある違和感を抱いて居る事を私は王子にお伝えしたかったが…結局彼が私の話に耳を貸す事が無かった為、私は言われた通り城を出て辺境の地へと向かうのだった─。



 そして漸くそこに辿り着いた時、旅の者達がこちらに近付いて来るのが見えた。

 こんな所に旅人とは珍しいと思ったが、それはあちらも同じだったらしい。



 そして話を聞けば、その旅の者達は他国よりやって来たそうで…そしてある罪人を探して居ると言う。

 逃亡の際、その罪人が人目を避ける為こう言う土地を行くのではと考え見張って居たのだ。



 そこで私は自身の身分を明かし、何か力になれないかと言った。

 するとそんな私に、旅の者達はその罪人の似顔絵を見せてくれたのだが…それを見た瞬間、私は再び城に戻る事を決めた。



 どうやら私が彼女に感じた違和感は、確かなものだったようね。

 あの薄桃色の髪からは、うっすらだがおぞましい血の匂いを感じたわ─。



 その後、城に戻った私を待って居たのは体調不良で寝込む王子だった。

 どうやら王子は彼女と交わった事で、神罰を受けてしまったらしい。



 と言うのも、王子が愛したあの女は元は自国である聖女の世話係をして居た。
 
 しかし美しい聖女に嫉妬し、彼女が心から大事にして居た神獣を殺してしまったのだ。

 そしてその際、彼女は神獣の返り血を浴び…元々銀色だった髪は、真っ赤に染まってしまったらいい。



 その後神獣を失った聖女はショックの余り急死し、それを見た彼女はすぐにそこから逃亡…そこで旅の者達、神官達が彼女の行方をずっと追って居たのだった。



 そして逃亡を続けて居た彼女は、髪染めなどを駆使し真っ赤に染まった髪を薄桃色に変え…その結果、王子の理想とする聖女の容姿となったのだ。



 しかし、その身に受けた神獣の怒りや聖女の悲しみ迄は決す事が出来ず…彼女は神罰を受けた状態の身体になってしまい、そんな彼女と交わった王子にもその影響が及んでしまったと言う訳だ。



 綺麗な心の持ち主であれば、そんな悪い影響は受けないが…王子は以前から私の容姿を悪く言い見下して居たし、そんな事になるのも仕方ないわ。


 
 その後、王子の身体はどんどん衰弱して行き…聖女の私でもその神罰はどうする事も出来なかった。

 するとこれ以上の神罰を恐れた王は、王子を城の地下室に幽閉…彼の存在を王家から抹消してしまうのだった。



 また王子が愛した彼女も、同じく身体が衰弱し始め…やがて真っ赤な血を吐き、そのまま息絶えてしまった。

 そしてそれと同時刻に、王子も命を引き取ったらしいが…何せ幽閉された身なので、詳しい事までは分からなかった。



 一方、私はと言うと…あの国を離れ、神官達に連れられ彼女のせいで聖女が不在となってしまったその国へと来て居た。

 聖女を失い困って居る彼らを見て、私はそこで新たな聖女として役目を果たそうと思ったのだ。



 するとそれから暫くし、私はその神殿に偶然参拝に来て居たその国の王子に見初められ…聖女としての役目を果たしつつ、彼の婚約者となる事が決まった。



 その国の王子は、あの王子と違い私をとても大事にしてくれ…辺境の地に追いやられた時はどうなる事かと思ったけれど、でもそのおかげで彼と結ばれる事が出来たと思い嬉しくなるのだった─。
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