上 下
94 / 159

婚約の証と共に王子への恋心が砕け散った私ですが、後に幸せを手にする事が出来ました!

しおりを挟む
 私はある力を持つが故、王子の婚約者に選ばれた。

 しかし王子は地味で大人しい私が気に入らないらしく、この婚約を喜びはしなかった。



 むしろ王子は私ではなく、私の義妹を気に入って居た。

 彼女はとても可愛い容姿をしており、性格も愛嬌があって明るく…まさに王子好みの女だった。



 だが彼女は、私に対してはとても意地が悪く…自分より容姿が劣る私をいつも見下して居た。

 王子は、義妹のそんな裏の顔には全く気付いては居ないようだ─。



 すると王子は、何時しかそんな義妹を婚約者に迎えたいと思うようになった。

 そして、私に一方的に婚約破棄を申し込んで来た。



「…そんな事、王がお許しになるとでも?」

「王は丁度隣国に滞在中で、今がお前と別れるチャンスだ。俺はお前のような地味でつまらない女は、どうしても好きにはなれん!」

 そして王子は、私が身に着けて居る首飾りに手を伸ばした。



「何をなさるのです!?」

「この首飾りは、お前と俺の婚約の証…。これさえ無くなれば、俺とお前の縁も切れたも同然だ!」



 そして王子は、抵抗する私からその首飾りをもぎ取ろうとした。

 するとそれを傍で見て居た義妹も、私の身体を押さえつけ王子に加勢した。



「お姉様が悪いのよ…あなたが、さっさと王子を私に譲らないから!」

「そうだ!俺と彼女が結ばれるのに、お前は邪魔なんだ!この首飾りと共に、いっそお前もここから消えろ!」



 王子がそう言い放った次の瞬間、首飾りはブチリと嫌な音を立て千切れた。

 そして、それに嵌め込んであった石は粉々に─。



 それを見た王子と義妹は、手を取り合い喜び合った。

「俺と君が婚約する際は、あんな安物ではなくもっと高価な首飾りを贈ろう!」

「嬉しい!私にピッタリの派手な首飾りを選んで!」



 そう言ってはしゃぐ二人の傍で…私は、飛び散った石の欠片を拾い集め涙した。

 私にとっては、この首飾りが安物だろうが高価だろうがどうでも良い。

 これは私にとって、王子への恋心そのものだった。



 知り合った頃の王子は、もっと優しくて…私と違い明るく活発な彼に、私はすぐに心惹かれた。

 だから王子の婚約者に選ばれ、とても嬉しかったのに…。

 なのにたった今、私の恋心は王子自らの手で粉々にされた。



「王子…私をお捨てになると言うなら、それ相応の覚悟をして下さいよ?」

「何?」

「この首飾りは、確かに私達の婚約の証ですが…それ以上に、あなたにとっては大事な物だった。それを自らの手で壊したんですもの…どうなっても私は知りません。」

 そして私は、意味が分からないと首をかしげる顔の王子の元を去ったのだった─。



 その数日後─。

 王子と義妹の身に、突然の不幸が舞い込んだ。

 

 まず、義妹が城のバルコニーから誤って転落…その可愛い顔に一生消えない傷を負った挙句意識不明となり、それが元で実家に帰された。
 
 そして今度は王子が落馬し…彼はその時の怪我が原因で、一生半身に麻痺を負う事に─。



 これを受け、城の中は大騒ぎになった。

 するとそこに王が帰還し…私が居ない事に気付くと、一体どういう事かと王子に詰め寄った。

 何とか誤魔化そうとした王子だったが…結局、婚約の証である首飾りを壊し私を追放した事を自白した。



 それを聞いた王は、何と愚かな事をしたのだと王子を責めた。

 と言うのも、私にはこの国の守護神から授かった特別な加護があり…今回の婚約で、それを愛する王子の為に使う約束となって居たのだった。



 そしてあの首飾りは、婚約の証であると同時に…私の加護を王子に与える為、聖なる石を嵌め込んだ特別な神具でもあったのだ。
 
 それを故意で破壊したとあっては…守護神に嫌われ、そんな不幸な目に遭うのは仕方のない事だ。



 全てを知った王子は、自らの行いを激しく後悔した。

 そして、私をもっと大事にすれば良かったと嘆くのだった。



 その後も、王子の容体は全く善くならず…彼は次期王の座を弟に譲り、城の外れの屋敷で残りの一生を過ごす事に─。

 そんな彼は城での華やかな暮らしが恋しいようで、いつも窓から外を眺めて居た。



 そしてそんな彼の前を…旅から戻った弟君と仲良く歩く私が通りかかった。

 それを見た王子は、真っ青な顔をしてこちらを凝視して居る。



 実は、城を追い出された私だったが…王が帰還なさると、すぐに城から迎えが来た。

 そして、是非弟君の婚約者になって欲しいと王にお願いされたのだ。



 その後、実際お会いした弟君はとても優しく紳士的な方で…王子の酷い裏切りに遭った私は、彼とは正反対の弟君をすぐに好きになった。


 
 また弟君も、守護神に愛される私をとても大事にして下さり…一人の女性としても、生涯をかけ愛すと約束してくれた。
 
 そして私達は、めでたく結ばれる事となったのだ。



 だから王子…私はもう、あなたへの未練などこれっぽっちも無いわ。

 むしろ、あなたの事などすぐにでも忘れようと思って居たくらい。

 そう言う事ですから、王子も早く私を忘れて下さいね?


 
 そして王子に向かい、さようならと呟くと…王子はその場にガクリと崩れ落ち、その姿は私の視界から消えたのだった─。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと
恋愛
21.05.23完結 ーー 「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」 差し伸べられた手をするりとかわす。 これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。 決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。 彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。 だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。 地位も名誉も権力も。 武力も知力も財力も。 全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。 月並みに好きな自分が、ただただみっともない。 けれど、それでも。 一緒にいられるならば。 婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。 それだけで良かった。 少なくとも、その時は。

「わかれよう」そうおっしゃったのはあなたの方だったのに。

友坂 悠
恋愛
侯爵夫人のマリエルは、夫のジュリウスから一年後の離縁を提案される。 あと一年白い結婚を続ければ、世間体を気にせず離婚できるから、と。 ジュリウスにとっては亡き父が進めた政略結婚、侯爵位を継いだ今、それを解消したいと思っていたのだった。 「君にだってきっと本当に好きな人が現れるさ。私は元々こうした政略婚は嫌いだったんだ。父に逆らうことができず君を娶ってしまったことは本当に後悔している。だからさ、一年後には離婚をして、第二の人生をちゃんと歩んでいくべきだと思うんだよ。お互いにね」 「わかりました……」 「私は君を解放してあげたいんだ。君が幸せになるために」 そうおっしゃるジュリウスに、逆らうこともできず受け入れるマリエルだったけれど……。 勘違い、すれ違いな夫婦の恋。 前半はヒロイン、中盤はヒーロー視点でお贈りします。 四万字ほどの中編。お楽しみいただけたらうれしいです。

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

[完結]病弱を言い訳に使う妹

みちこ
恋愛
病弱を言い訳にしてワガママ放題な妹にもう我慢出来ません 今日こそはざまぁしてみせます

監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されたやり直し令嬢は立派な魔女を目指します!

古森きり
ファンタジー
幼くして隣国に嫁いだ侯爵令嬢、ディーヴィア・ルージェー。 24時間片時も一人きりにならない隣国の王家文化に疲れ果て、その挙句に「王家の財産を私情で使い果たした」と濡れ衣を賭けられ処刑されてしまった。 しかし処刑の直後、ディーヴィアにやり直す機会を与えるという魔女の声。 目を開けると隣国に嫁ぐ五年前――7歳の頃の姿に若返っていた。 あんな生活二度と嫌! 私は立派な魔女になります! カクヨム、小説家になろう、アルファポリス、ベリカフェに掲載しています。

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

双子の転生者は平和を目指す

弥刀咲 夕子
ファンタジー
婚約を破棄され処刑される悪役令嬢と王子に見初められ刺殺されるヒロインの二人とも知らない二人の秘密─── 三話で終わります

処理中です...