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冷遇される妃候補の私を城から連れ出してくれたのは、嫌われ者の第二王子様でした。

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 私はこの国一賢いと言う理由で、第一王子の妃候補に選ばれた。
 
 しかし、他の候補者達よりも容姿が見劣りして居た為、王子に全く見向きもされなかった。

 それどころか…自分より賢い女は生意気だとか、虫唾が走ると王子に嫌われてしまい…私は彼や他の候補者、城の者達から冷遇される様に─。



 ならばいっそ、城から追い出してくれた方が嬉しいのに─。

 なのに王子ときたら、賢いお前ならすぐ出来るだろうと言って自分の仕事を私に押し付けて来て…一向に家に帰してくれなかった。

 他の候補者達と遊びたいからって、何て最低な人なの…。

 あの人がいずれ王になったら、この国はお終いね。



 だから次の王は…あんな男ではなく、彼の方が─。

 そう思い、私は少し離れた所で歴史書を呼んでいる彼を見つめた。

 彼は弟の第二王子様で…私と同じく本を読む事がお好きなのか、城の書庫で度々顔を合わせて居た。

 私は彼の真面目さや落ち着いた所に好感を持って居るが…私以外の人は、彼を陰気だの存在感がないだの…色々と悪口を言って嫌って居る。



 すると、余りに見つめすぎたのか…彼は本を閉じ、私に話しかけて来た。

「君は、この城に居るのが辛いんじゃないか?俺だったら…君をこの城から連れ出す事が出来るぞ?」

「で、ですが…この城の見張りは厳しく、理由も無く外へ出る事は─」

「君には、十分な理由があるじゃないか。兄の様な男に好き勝手利用され、冷遇されて居ると言う─。」



 そして第二王子は、私を連れ人気の無い通路を通ると…行き止まりの壁の一ヵ所を強く押した。

 すると隠し扉が現れ…それは、城の外へと通じる通路へと繋がって居た。

 彼は私の手を取ると、暗い通路を歩み始めた。

「この通路は何代も前の王が作った物で、この存在を知るのは今は俺しか居ない。と言うのも、この城に関する事が書かれたこの本にしか載って居ないからだ。」

 そう言って、彼は先程読んで居た本を私に見せた。

「これはすぐに処分しておく。そうすれば…君は急に城から消えた事になる。君は賢く、そして真面目で誠実な女性だ。そんな君は、この国以外でも十分生きて行ける。兄がいずれ王になれば、この国は終わるだろう…。だから、早い内に国外に出るんだ。」



 それを聞いた私は、コクリと頷き…そして彼に尋ねた。

「あなたはどうなさるのです?まさか…あの男と共に、この国で終わりを迎えるのですか?」

「…それも仕方のない事だ。」

 そう言って、彼は虚しそうに微笑んだが…それを見て、私の口から自然にこんな言葉が出て来た。

「だったら…このまま、私と共に消えてしまいませんか?あなたが私を高く評価して下さった様に、私もあなたをとても素晴らしい人と思っております。あの様な男のせいであなたの人生が潰されるなど、私はとても許せません。」


 
 そう話す私に…第二王子は一瞬驚いた顔をしたが…少し考え込むと、こう言った。

「嫌われ者の俺を、そこまで褒めてくれるとは…君は賢いだけでなく、面白い人だな。これでは、まるで駆け落ちの様だが…君は、俺が相手でいいのか?」

「はい!むしろ…あなたが相手だからいいのです。」

 そう言って、繋がれた手を強く握り返せば…彼は、優しい笑顔を返してくれたのだった─。



 その後、城を出た私達は…古い街道を辿り、他国へと渡った。

 そして、その後も一緒に暮らして居る。

 彼は賢いだけでなく、商才もあった様で…私は辛い思いをする事無く、彼と共に穏やかな日々を送って居る。



 あの後、城では妃候補と第二王子が失踪しただの、何者かに攫われただの言われて居た様だが…やがてそれも、すぐに風化して行った。

 と言うのも…あの国は王が病で亡くなり、あの男が急ぎ王になったもののろくに国をまとめる事が出来ず…更に妃候補達の豪遊で城の財政は圧迫し、王家が滅ぶかも知れない一大事になって居るからだ。

 それを聞いた私は、あの時彼が私を城から連れ出してくれた事に感謝すると同時に…今こうして二人で幸せに生きて居られる事を、心から嬉しく思ったのだった─。
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