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王から恋路を邪魔するなと消されそうになった私ですが、あなたの思い通りになどさせません!

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 私は、この国を守る聖女。

 この国の平和を保つため、毎日神々に祈りを捧げるのが務めだ。



 そんな私に、最近になってある悩みができた。



 それは─。



「…恥ずかしいです、こんな所で。」

「いいじゃないか、誰も見てないさ。」



 神殿の片隅で抱き合う男女。

 男はこの国の王であり、いずれ私を妃に迎える人物…女は、最近この世界にやって来た異世界の娘だった。



 彼女が私をも超える聖女の力を持っていると王は言ったけど…怪しいものね。

 それにこの神聖なる場で、あんなふしだらな行為を…これは見過ごす訳にはいかないわ─。



***



「何だ、俺に話とは。」

「あなたと彼女の事です。今は他の者に気付かれていませんが、そうなるのは時間の問題。ここをどこだと思っているのです?少しは慎んで頂かねば困ります。」

「…小うるさい奴だな。」
 
 私の言葉に、王は鬱陶しそうに眉を顰めた。



「あなたとの事はこの国の習わし…ですから、あなたが私を愛していないのは分かってます。でも一国を守る王ならば、どうぞ神殿であのような行為はお辞め下さい。」



 しかし、私の願いは聞き届けられる事は無く…王の行動はエスカレートしていった。

 日中でも彼女との行為にふけり、職務を放り出し神殿で密会を繰り返し─。



「王様、もういい加減になさって下さい…!」

「あぁ鬱陶しい…もうお前の顔など見たくもない!そんなに俺の事が嫌ならお前が消えろ!俺からすれば、お前は俺と彼女の恋路を邪魔するただの悪女だ!」

「な、何て事を…。」



 私が消えたら、この国は滅茶苦茶になるのに…。



 しかしその日を境に、王は私を神殿から追い出しにかかった。



「お前さえ居なければ彼女と結ばれるのに…お前など消えろ!」

 私の顔を見る度に、憎々し気な表情でそう罵る王。



 するとそれを見た異世界の娘も、一緒になって私にそんな言葉をぶつけてくるようになり…更には、私を陰で虐めるようになったのだ。



 食事にゴミを混ぜられたり、部屋を荒されたり、聖典を破られたり…彼女には、それはもう様々な事をされた。



 しかし私は、そんな卑劣な行為に屈する事無く聖女としての務めを果たした。



 すると痺れを切らしたあの二人は、ついに実力行使に出た。



 私はあの娘に突然襲い掛かられ、羽交い絞めにされ…そして隠れて居た王が、私に向かって剣を振り下ろして来たのだ。



「お前が消えないなら、俺がこの手で消してやる─!」



 しかし…その刃が私に届く事は無かった。



 私の身体を眩い光が包み…王の剣は弾き飛ばされ、王自身もその場に倒れ込んだ。

 そして私を捕えていた娘も目が眩み、その場に倒れ込んでしまった。



「…聖女の私に刃を向けるなど、許される事ではありません。聖女は神の申し子…私に刃を向けるは、神に刃を剥けるのと同じ事。ですので、この行為を神への反逆とみなし、私はあなたたちに罰を与えます。そうね…二人揃って、ここではないどこか…異次元へ飛ばしてあげます。そうしたら、私の顔を見なくて済むでしょう?逆に私も、そして神も、異次元ならばあなたたちをこの先永遠に見なくて済みますし。」

「何だと!?」

「私はこの娘の分も聖女の務めに励んだおかげで、今やこの世界の神々に愛されし聖女…大聖女になれたのです。ですので、そんな私を消そうと…いえ、殺そうとする者がこの世界に居る事など、許される訳が無いのです。」



 私が話し終わると同時に、二人の足元にぽっかりと暗い穴が開いた。

 そしてその中に、二人はズルズルと引きずり込まれて行く。



「い、嫌、助けて─!」

「辞めてくれ…!もう消えろなんて言わないから!」

「そんなに二人の仲を邪魔されたくないなら、あなたたちがここから居なくなればいいのです。どうぞあちらで、いつまでもお幸せに─。」



***



 こうして、二人の姿は完全にこの世界から消えた。

 この世界の神々に嫌われたんだもの、きっとろくな場所に飛ばされていないわね。



 この前王の件で、今後この国の王は血筋で選ばない、国を守る神とその神に認められた大聖女が選んだ者が新たに王を務めるという事になったのだが…自分がその立場になり、ある人物がとてつもない輝きを放っている事を感じ取った。



 それは長らくこの国の騎士団長を務めて居た男で、過去の私の巡礼旅でも護衛に付いてくれていた人物だった。


 
「あの時は、私を守って下さってありがとうございました。そしてこの先は王となり…私と共に、この国を守って行って下さいますか?」

「勿論です。この国を、どんな国よりも平和で豊かな国にしていきましょう。」



 そうして私たちは、神の前で将来を誓い合ったのだ。



 邪魔な悪女…消えろと言われた惨めな私はもう居ない。
 
 神々の祝福を受け、私は今度こそ幸せを手にし愛する人と共にこの国を守り生きて行くのよ─。
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