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束縛を嫌い愛人と浮気する婚約者ですが、私の正体が判明して以降不幸のどん底に落ちました。

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『俺の婚約者になったからと言って、俺を縛るのは辞めてくれよ?束縛女は嫌いなんだ─。』

 彼と婚約した際に言われた、この言葉。


 
 私は彼の負担になるのは嫌だったから彼に言われた事を守ろうと思ったし、そしてこれまで言われた通りにしてきた。



 でも…彼がある女と一緒に居るのを見て、その気持ちもなくなった。



 少し、あなたを自由にさせすぎてしまったみたい。

 だったら…私だって、好きにさせて貰っても構いませんね─?




「俺と、婚約破棄したい!?それで、この家を出て行くだって?」

「はい。」

 私からの突然お言葉に、彼は大層驚いた。



「一体、どうして急に…?」

「あなたが私に隠れ、ある女と浮気しているからです。それが、どうしても許せなくて─。」



※※※



 こいつ、俺の浮気に気付いて─。



 確かに、俺は一人の女と浮気している。

 それは町で偶然知り合った女だが…普段何をしているのか、どこに住んでいるのかは知らない。



 でも、とんでもなく美人で色気があっいい女だ。

 だから、そんな細かい事などどうでもいいと思っている。



「でも、俺は言ったじゃないか。婚約したからと言って、俺を束縛するなと─。だったら浮気の一つくらい、大目に見ろ。こうして俺が浮気したからって、今お前には何の迷惑も苦労もかけてないだろう?お前みたいな女を貰ってやった俺に、一々文句を言うな!」

「そうですね…両親に先立たれ、身寄りのない私を貰ってくれたあなたは心が広いと思います。でもね、それだって所詮はお金が目的だったのでは?両親の遺産はあなたが管理してると言ってましたが…勿論それは、まだ手元に残ってますよね?」



 遺産と言われ、思わず俺の身体がビクリと反応した。



 こいつから預かった遺産は、その愛人との豪遊に使ってしまった。

 あの女は派手好きで、金遣いが荒いからな…。



「と、とにかく、婚約時にお前があの言葉を呑んだ以上、浮気が原因の婚約破棄は許さん。もっと重大な事があるなら、話は別だが─」

「ありますよ、重大な問題が。実は私、普通の平民ではなくもっと立派な身分なんです。でもあなたと生きて行くには、その身分は要らないとさえ思ってました。」



 すると部屋のドアが開き、俺の浮気相手と兵たちが入って来た。



※※※



「い、一体何事だ!?」

「この女は、実はお城のお姫様…第三王女です。彼女は夜な夜な城からこっそり抜け出し、あなたとの逢瀬を楽しんでいたの。」

「彼女が、王族の…姫…?」

「でもその本当の正体は、ただの平民。本当の姫は…この私です。」

「何だって!?」

「亡き両親の…彼女の親によって、私たちは赤子の頃に入れ替えられてたみたいで。お城の調べにより、漸くそれが判明しましてね。でも私は、普通の娘としてあなたを愛し、あなたの婚約者として生きる道を選んいたでしょう?ですから、どうしたものかと思ってたんですが…よりにもよって、彼女があなたの浮気相手になっていたとは。」

「そ、そんな事が…。」

「それが分かった途端、何だかもうあなたの事などどうでもよくなってしまって…。そろそろ、自分の人生を正しい道筋に戻そうかと思いましてね。」



 私は兵に捕らえられた彼女を、彼に押し付けた。



「私は今日から姫に戻るので、これからは彼女があなたの婚約者よ?」
 
 彼は、私と彼女を交互に見てオロオロしている。



「そして彼女を婚約者にしたからには、彼女の借金もあなたが返して行って下さいね?彼女は姫であるのを良い事に、城のお金を沢山使いあなたと遊んでいたの。私に対する浮気の慰謝料は結構なので、その借金を返し彼女の始末をつけて頂戴。もし姫である私との約束を破ったら…どうなるかは分るでしょう?」

「お願い、私を捨てないで!私にはもうあなたしか居ないの!」

 有無を言わせない私と泣きつく彼女の板挟みになり、彼は放心状態でその場に崩れ落ちた─。



※※※



 その後…彼は姫である私との約束を破れるはずもなく、彼女を婚約者に迎え必死に借金を返済中だ。

 だがその額は余りに桁外れで…この調子だと、彼は一生働き通しでしょうね。



 束縛されたくない、自由に生きたい…そんな事を口癖の様に言っていた彼だから、あの女から、そして借金という呪縛から逃れられない状態が一生続くのは、さぞや辛い事でしょう。



 姫である事を知り、姫として生きる為に彼を捨てる決心をした私。

 その結果がこれだったんだけど…まぁ、彼が手を出した相手が悪かったというか、彼に運がなかったというか…。

 今まで自由に生きてきた分、そのツケを今払ってると思い、その女と仲良く生きて行って頂戴。



 そしてそんな私はと言うと…姫として生きる事になったおかげで、家柄も性格も何もかも申し分ない殿方と良縁を結び、今までの不幸な出来事など綺麗さっぱり忘れられる程に幸せな毎日を送って居るわ─。
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