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笑顔を失い嫌われ妃と王に罵られた私は、聖女の誕生によって捨てられるのでした…。

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「もっと愛想よく出来ないのか?本当に可愛げのない女め…。お前のような嫌われ者の妃は、どこの国にも存在しないだろうな。」

「…申し訳ありません。」


 あぁ…また王を怒らせてしまった。

 私がこんなふうになったのは、幼い頃に笑顔が不細工だと虐められた事が原因だ。



 そして余りのショックに、私はそれ以降笑顔を失った。

 だけど、天命によって王の妃に選ばれ今の立場になり…これではいけないと、何とか笑顔の練習はしているんだけれど上手く行かないわ─。



 そんなある日の事。
 
 城に一筋の光が差し込み、それが消えるとそこには一人の娘が─。



「私は異世界から来ました…必ずこの国と王を幸せにします。どうか私をここに置いて下さい!」

「おぉ!お前が神官が言っていた、この国を変える聖女だな?まさか、こんなに可愛らしい娘だったとは─。」



 王の言う通り、その娘はとても可愛らしい顔立ちをしていて、何よりその笑顔が魅力的だった。

 そして王はすぐに彼女を気に入り、常に傍に置くようになった─。



***



「…全く、俺の妃ときたらニコリともしないんだ。お前はそれとは正反対で、いつもニコニコしていて見てて気分がいいな。」

「ならば王様、そんな妃など捨ててしまえば?私の世界では、性格の不一致の離婚は日常茶飯事よ。代わりに、聖女である私をお妃様にして?」

「だ、だが天命が─」

「神に仕える聖女の私が良いって言ってるの。聖女の言葉は神の声…何を迷う事があるの?」



 確かにそうだな…。
 
 あの妃をこの国から追い出し、この聖女を新しく妃の座に置く。

 聖なる力もあり、いつも笑顔の可愛い妃が傍に…最高ではないか─!



「…そういう訳でな、お前はもう俺にとってもこの国にとっても不要だ。どこへなりとも行ってしまえ。」

「王、私にはその聖女の言葉は信じられません。何故なら─」

「フン、今更媚を売ろうとしても無駄だ。何度も言わせるな…お前の様な嫌われ者の妃は、もう要らないんだよ。」

「…分かりました、王の言う通りに致します。」



 そして、妃は城を出て行った。

 だがそれから暫し…聖女が不調を訴えた。



「最近、疲れが取れなくて…数人に加護を授けただけで、もう体が辛いわ。」



 その後、聖女の身体は弱る一方だった。

 そのせいだろう…国を守る結界や与えられた加護が、次々と効力を失い消えて行った。



「このままでは災厄が入り込み、この国は終わりだ。既にあちこちで災害が起き、病が流行り始めている。聖女の力は何故失われたんだ…!」



 すると、俺の様子を見た神官長がおずおずとこう言った。



「きっと、お妃様を追い出したせいかと…。この国で最も神に愛されるのは妃…聖女ではありません。そして、そんなお妃様が居る事で、聖女は力が使えるのです。言おうにも、王は聖女との時間を邪魔するなと私を追い返し話もお聞きにならず…。」



 た、確かに神官長には、何度も話があると言われていた。

 でも俺は、聖女との時間が無くなるのが惜しくて、いつも無視を─!



***



「それで、私にもう一度国に戻って欲しいと?」

「このままでは聖女が…否、国が崩壊する。そうなったら俺は、愚かな王として処刑だ!」

「…実際、愚かだから構わないのでは?それに聖女だって自業自得です。その話は、神官長から説明があったはず。どうせあなたの傍に置いて貰える事に舞い上がり、ろくに話を聞いてなかったのでしょう。あなたたちは同類です。」

「く、国の民はどうなる!?」

「今やほとんどの民は、あの国を捨て他の国に逃げ出してますよ。残って居るのは、あなたの取り巻きや支持者だけ。それに私は…もうこの国で幸せに生きてますから。」



 国を追い出された私は、隣国へと向かった。

 そこは北にある寒い国で、国の民はいつも食べ物に飢え困っていた。



「あの国の神は、有難い事に今でも私に力をお貸し下さいます。そんな私が訪れた事で、この国の暮らしは向上…やがて私はこの国の王に見初められ、もうすぐ妃になります。それに彼のおかげで、私は笑顔を取り戻しつつあります。ですので、あなたの元へは戻りません。」

「そんな…!」

「何が大切かも知ろうとせず、愛欲に溺れるからこうなるのよ…あなたが私を捨てたのだから、その責任はきっちりご自分で果たして下さい─。」



 王は私を諦め国に戻ったが…戻ったからと言ってどうにもできず、ついに国は崩壊─。

 その責任を取らされ王は処刑に、そして聖女は処刑前に衰弱死した。
 
 こうして二人の死をもって、あの国の歴史は幕を下ろしたのだった─。
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