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浮気相手との愛の証を私に得意気に見せて来た婚約者は、後に罰を受ける事となりました。
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私は、久しぶりに婚約者を自身の家に招いていた。
「…で、俺に大事な話とは?俺はこの後用がある、忙しいんだから手短にな。」
「その用とは、愛人の元に行く事ですね?私、知ってるんです…あなたが私に隠れ、愛人を作っていた事─。」
私の言葉に、彼は一瞬口の端を引きつらせたが、すぐに元の澄ました顔に戻った。
「知っていたか…なら話は早い。お前の言う通り、俺には好きな女がいる。俺はお前と別れ、彼女を婚約者にするつもりだった。」
「酷い…私を裏切る気だったのね。」
「よく分かって居るじゃないか。俺と彼女は、深い愛で結ばれて居てな…見ろ、これがその証だ。」
そう言うと、彼は胸ポケットからある物を取り出した。
「……指輪?」
「そうだ。彼女がくれた石を、俺が指輪に加工した。この後、彼女に贈る事になっている。」
その指輪には、虹色に輝く不思議な石がはめ込んであった。
綺麗だけれど…でもこの輝き、もしやこの石は─。
色々と考え込む私を無視し、彼はサッと席を立った。
「俺はこれで失礼する。良いか、お前とはこれで婚約破棄だからな?以後しつこく付きまとうんじゃないぞ!」
そして彼は大事そうに指輪をポケットにしまい、振り返る事なく家を出て行った─。
***
「…どうだ、美しく仕上がっただろう?」
「えぇ、うっとりしちゃうわ!ねぇ、早く私の指にはめて頂戴?」
俺は言われた通り、彼女のほっそりとした指にそっと指輪をはめた。
しかしその瞬間、突然彼女は呻き声を上げ苦しみ始めた。
「ど、どうしたんだ!?」
「痛い…指が締め付けられる!それに、身体から力が抜けて行くわ!」
そう言って彼女は冷や汗を流し、苦悶の表情を浮かべた。
「ま、待ってろ…医者を呼んで来るから─!」
ど、どうしてこんな事に…。
今日は彼女と出会った中で、一番素敵な日になるはずだったのに─!
家のドアを開け外へ出ると、何故かそこには先程別れたはずの婚約者が居た。
「な、何をしに来た!お前の相手をしている場合では─」
「彼女が苦しんでいるんでしょう?でも仕方ないわ、それが罰だもの。」
***
「ど、どういう事だ?」
「あなたが彼女から譲り受け、指輪に変えた石─。あれは、隣国の神殿から盗まれた聖なる守り石です。ある窃盗団が神殿に忍び込み、奪って行ったとか…。その為、隣国の方たちは今必死にそれを探しているそうです。」
「そんなの、何かの間違いじゃ…。」
「先に捕らえられた窃盗犯が、仲間に一人女が居たと証言しています。そしてその女の特徴が、あなたの愛人とそっくりなの。」
「そ、そんなの他人の空似では─」
「確信をもったのは、あの石ですよ。私には、その神殿で神官をしている従兄弟が居ましてね─。以前、その彼から守り石の形状や価値を聞いた事があるんです。あなたに指輪を見せられそれを思い出した私は、指輪がその石で出来た物だと思いました。なのですぐに憲兵に報せ、そこで彼女の事を聞いたのです。」
「た、頼む…見逃してくれ。一刻も早く医者を呼ばないと、彼女の命が危ないんだ!」
「あの石は、悪人が手にすれば不幸を呼ぶと言われているそうです。医者にもどうにもできないでしょう。そしてそれを指輪にし身に付けるなど、正に自殺行為─。命を落としても文句は言えないわよ。」
「そんな…。」
「と言うか…彼女の事より、ご自分の心配をしたら?知らなかったとはいえ、神殿の聖なる石を許可なく指輪にしてしまったのよ?そんな事、隣国の王が許すとお思いですか?」
「あ…。お、俺はとんでもない事を─。」
漸く事の重大さを理解した彼は、その場にガクリと崩れ落ちるのだった─。
***
結局…指輪をはめた愛人は、その後すぐに命を落とした。
どうやら、指輪に命を吸い取られてしまったらしい。
そうなって指輪は彼女からすぐに取り外され、神殿へと返された。
そしてもう二度と盗まれる事のないよう、指輪は神殿の奥深くに封印されたと言う。
そして守り石を台無しにした事で捕らえられた元婚約者は、今は暗い地下牢の中に幽閉されている。
あの石は、聖なる石としての価値だけでなく、歴史的にも、また宝石としても大変価値のあるものだった。
正にこの世に一つしかない石…それを、あんな姿に変えてしまった彼の罪は重いわ。
そして看守の話では、彼は毎日私の名を呼び私との面会を心待ちにしているそうだが…私があなたに会いに行く事は絶対に無いわ。
だって私は新しく婚約者を迎え、その彼と幸せに過ごしているのだから。
あなたからは貰えなかった婚約指輪だけれど…新しい婚約者はちゃんと用意してくれて、愛の証だと言って私に捧げてくれた。
そんな愛を裏切り、犯罪者となった男に会いに行く馬鹿がどこに居ると言うのよ。
すると私の現状を知った彼は号泣し、今では牢の中で深く深く後悔しているそうよ─。
「…で、俺に大事な話とは?俺はこの後用がある、忙しいんだから手短にな。」
「その用とは、愛人の元に行く事ですね?私、知ってるんです…あなたが私に隠れ、愛人を作っていた事─。」
私の言葉に、彼は一瞬口の端を引きつらせたが、すぐに元の澄ました顔に戻った。
「知っていたか…なら話は早い。お前の言う通り、俺には好きな女がいる。俺はお前と別れ、彼女を婚約者にするつもりだった。」
「酷い…私を裏切る気だったのね。」
「よく分かって居るじゃないか。俺と彼女は、深い愛で結ばれて居てな…見ろ、これがその証だ。」
そう言うと、彼は胸ポケットからある物を取り出した。
「……指輪?」
「そうだ。彼女がくれた石を、俺が指輪に加工した。この後、彼女に贈る事になっている。」
その指輪には、虹色に輝く不思議な石がはめ込んであった。
綺麗だけれど…でもこの輝き、もしやこの石は─。
色々と考え込む私を無視し、彼はサッと席を立った。
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そして彼は大事そうに指輪をポケットにしまい、振り返る事なく家を出て行った─。
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「…どうだ、美しく仕上がっただろう?」
「えぇ、うっとりしちゃうわ!ねぇ、早く私の指にはめて頂戴?」
俺は言われた通り、彼女のほっそりとした指にそっと指輪をはめた。
しかしその瞬間、突然彼女は呻き声を上げ苦しみ始めた。
「ど、どうしたんだ!?」
「痛い…指が締め付けられる!それに、身体から力が抜けて行くわ!」
そう言って彼女は冷や汗を流し、苦悶の表情を浮かべた。
「ま、待ってろ…医者を呼んで来るから─!」
ど、どうしてこんな事に…。
今日は彼女と出会った中で、一番素敵な日になるはずだったのに─!
家のドアを開け外へ出ると、何故かそこには先程別れたはずの婚約者が居た。
「な、何をしに来た!お前の相手をしている場合では─」
「彼女が苦しんでいるんでしょう?でも仕方ないわ、それが罰だもの。」
***
「ど、どういう事だ?」
「あなたが彼女から譲り受け、指輪に変えた石─。あれは、隣国の神殿から盗まれた聖なる守り石です。ある窃盗団が神殿に忍び込み、奪って行ったとか…。その為、隣国の方たちは今必死にそれを探しているそうです。」
「そんなの、何かの間違いじゃ…。」
「先に捕らえられた窃盗犯が、仲間に一人女が居たと証言しています。そしてその女の特徴が、あなたの愛人とそっくりなの。」
「そ、そんなの他人の空似では─」
「確信をもったのは、あの石ですよ。私には、その神殿で神官をしている従兄弟が居ましてね─。以前、その彼から守り石の形状や価値を聞いた事があるんです。あなたに指輪を見せられそれを思い出した私は、指輪がその石で出来た物だと思いました。なのですぐに憲兵に報せ、そこで彼女の事を聞いたのです。」
「た、頼む…見逃してくれ。一刻も早く医者を呼ばないと、彼女の命が危ないんだ!」
「あの石は、悪人が手にすれば不幸を呼ぶと言われているそうです。医者にもどうにもできないでしょう。そしてそれを指輪にし身に付けるなど、正に自殺行為─。命を落としても文句は言えないわよ。」
「そんな…。」
「と言うか…彼女の事より、ご自分の心配をしたら?知らなかったとはいえ、神殿の聖なる石を許可なく指輪にしてしまったのよ?そんな事、隣国の王が許すとお思いですか?」
「あ…。お、俺はとんでもない事を─。」
漸く事の重大さを理解した彼は、その場にガクリと崩れ落ちるのだった─。
***
結局…指輪をはめた愛人は、その後すぐに命を落とした。
どうやら、指輪に命を吸い取られてしまったらしい。
そうなって指輪は彼女からすぐに取り外され、神殿へと返された。
そしてもう二度と盗まれる事のないよう、指輪は神殿の奥深くに封印されたと言う。
そして守り石を台無しにした事で捕らえられた元婚約者は、今は暗い地下牢の中に幽閉されている。
あの石は、聖なる石としての価値だけでなく、歴史的にも、また宝石としても大変価値のあるものだった。
正にこの世に一つしかない石…それを、あんな姿に変えてしまった彼の罪は重いわ。
そして看守の話では、彼は毎日私の名を呼び私との面会を心待ちにしているそうだが…私があなたに会いに行く事は絶対に無いわ。
だって私は新しく婚約者を迎え、その彼と幸せに過ごしているのだから。
あなたからは貰えなかった婚約指輪だけれど…新しい婚約者はちゃんと用意してくれて、愛の証だと言って私に捧げてくれた。
そんな愛を裏切り、犯罪者となった男に会いに行く馬鹿がどこに居ると言うのよ。
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