【立場逆転短編集】幸せを手に入れたのは、私の方でした。 

Nao*

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悪女の私が皆に愛され幸せになれたのは、ヒロイン失格のあなたのおかげです──。

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 ある日、親友である彼女から私はこう責められた。

「どうしてあなたばかり、素敵な殿方に好かれるのよ…そんなのズルいわ─!」

 彼女は、更にこう続けた。

「本当は、それは私の方なのよ?地味顔の…しかも、悪役令嬢のあなたがどうして皆に愛されるの!?」



 地味顔で悪かったわね…。

 むしろ、そんな事を言ってのけるあなたの方が悪役にピッタリなのでは─?



 まぁ…あなたの思い通りにならないのは当然よ。だって、あなたは─。



***


 物心ついた時から、私はここがとある乙女ゲームの世界だと理解していた。


 私は、ある悪役令嬢の親友で…本作のヒロインだ。

 金の髪と青い瞳…この美しい容姿は、絶対に間違えようがない!



 何より…私には魔力が備わっている。

 周りの者を魅了し、愛されるという光の魔力よ─。



 光の魔力を持つ者は貴重で、この世界ではとても大切にされる。

 だから私もヒロインと同じく…攻略対象である素敵な殿方に囲まれ、愛され幸せになれるわ─。


 
 実際、私の周りにはその男たちが集まり、すぐに仲良くなった。

 私の好感度は抜群、きっとすぐにでも私を巡り皆が争うはず…そう、思っていた。

 でも…一つだけ、ゲームと違う所が─。
 


 それは、嫌われ者の悪役令嬢であるはずの親友だ。
 
 彼女は、私と正反対の闇の魔力を持っていて…それ故、皆から避けられていた。

 特に攻略対象からはとても嫌われ…いずれは追放や処刑といった、悲惨な未来が待って居る。



 と、本来ならそうなるはずなのに…いつの間にか、あの女も彼らと仲良くなり…皆に好意を持たれて居た。

 しかも最近になって…その中の一人の、王子に告白されたと言うではないか。



 それに、考えすぎかとは思うけど…最近、彼らが私に対して冷たくなった気がする。

 皆以前のように笑いかけてくれないし…私を遠ざけようとしてくるのだ。



 もしかして…あの子が、闇の魔力で彼らに何かしたんじゃ─。

 こうなったら…ヒロインとして、私が彼らの目を覚ましてあげる─!



***



「王子、あの子はとんでもない悪女です。魔力で、あなたの心を操ってるだけです!」

「彼女が悪女…?確かに、闇の魔力を持っているが…。」

「他の殿方たちも、皆操られてるんです。そうじゃなきゃ、あの地味悪女に好意を持つ訳─」

「それは違うわ。皆が私に好意を持ってるのは…元々は、あなたが原因なのよ?」

「嫌だ、隠れて居たの…!?」

 現れた私に、親友はビクリと身体を震わせた。

 

 だが私は構わずそんな彼女に詰め寄り、こう言った。


「あなたは…実は、光の魔力など持っていないの。あなたが使っているのは…私と同じ闇魔法。それを、魔道具を使い光魔法に見せかけていただけ。そしてその魔力で、皆の心を操ってたの。」

「彼女は自身の魔力で、俺たちに掛けられた君の魔力を打ち消してくれたんだ。そんな彼女に感謝し、好意を持つのは当然だろう?」

「そんな…!だって、私はヒロインで…この容姿がそれを証明して居て─」

「それなんだけど…いくら見た目が良くても、中身がそれじゃあ─。」

「え…?」

「実は…あなたが生まれた時、闇の力を纏って居るのを見たあなたのご両親は…先行きが心配になり、あなたを聖職者に見て貰ったそうなの。すると、その身体は確かに光魔法の使い手だが…その中にある魂がとても醜い故に、こうなって居ると言われたそうよ。」

「な、何ですって!?」

「そしてその聖職者は…あなたが成長するにつれ、魂が磨かれ…まともな人物に育つ事が出来たら、本来の光魔法が使える様になるとも話したそうよ。でも…あなたは我儘で、意地悪な女にしかならなかった。そして、使えるのは闇魔法─。あなたの家は、闇魔法をとても恐れて居るから…ご両親は、あなたにその魔道具の指輪を付けさせ、誤魔化していたのよ。」

「そんな…これ、お守りじゃなかったの─?」

「あなたの中身は…あなたが思ってるそのヒロインとは、全くの別物よ。あなたのその魔力は、あなたがヒロインにふさわしくない事の証明ではないかしら?」

「そ、そんなぁ…。」

「魔力で心を操るなど…俺たちは皆、君を許しはしない。王子の俺を誑かした君には…重い罰が待って居るだろう。」

「嫌、それだけは辞めて…どうか許して─!」



※※※



 彼女は、泣いて王子に詫びたが…その訴えは、聞き届けられる事は無かった。

 そして彼女は、その魔力の全て奪われ…他国へと追放されてしまった。

 複数の男たちを…しかも、王子の心まで操った事が、彼女への罰を大きくしたようだ。



 こうして全てが片付いた後…私は王子の気持ちに応え、彼の妃となるべく毎日を過ごしている。

 あの子が、もしちゃんとした人柄だったら…光魔法が使え、そのヒロインとやらにふさわしい女性だったら…私には、きっとこんな未来は訪れなかった気がするわ。

 私が皆から好かれ、こうして幸せになれたのは…全ては、ヒロインにふさわしくなかった、愚かなあの子のおかげという事ね─。
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