【立場逆転短編集】幸せを手に入れたのは、私の方でした。 

Nao*

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二度目の人生では私があなたを引き留める事はありません、どうぞ妹とお幸せに。

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 私はその胸を、夫にナイフで突き刺された。

 と言うのも、彼はやはり妹を忘れられず…妹との仲を引き裂いた私が憎い、そんな私を消し妹と結ばれると言い、そのような凶行に出たのだ。


 
 そして私は意識を失う直前…こんな事になるなら、あの時夫を引き留める様な真似をしなければ良かったと後悔した。

 そうして居れば、私はこんな惨めな最期を迎えずに済んだのに─。



 そう思った私は…いつも胸に下げて居る十字架を握りこう祈った。

 神様…どうかもう一度、私に人生をやり直すチャンスを下さい。

 それが叶うなら、私は夫をもう引き留めはしないし今度こそ愛のある幸せな人生を送りたいです─。

 そして、私の世界は闇に包まれた─。



 すると、突然私の名を呼ぶ声が聞こえ…それが夫の声だと気付いた時、私の意識は急に覚醒した。

「…おい、聞いて居るのか?俺はお前と離縁したいと言ったんだが?」

 目の前には、そう言って私に詰め寄る夫が居た。

 

 私は、確か彼にナイフで刺されて…でも私のお腹に痛みは無く、夫の手にもナイフは無かった。

 そして私がふと窓の外に目をやると…そこには何故か雪が積もって居た。
 
 私が刺されたのは雪もすっかり溶けた春で…それを思い出した私は、これは時が戻ったのだろうと確信した。

 

「俺は、お前の妹と一緒になりたいんだよ。それには、お前と離縁しなけらばどうにもならないからな。」

 そう言われ…あの時の私は酷くショックを受け、夫にどうか考え直してほしいと泣き縋ったんだわ。
 
 そして、必死に懇願する私に根負けした夫は結局離縁する事を諦め、私とやり直すと言ってくれたのだ。

 でも結局、夫は妹を忘れられず…やがて私を憎む様になり、あんな事を─。



 だったら、私はもうあなたを引き留める事はしないわ。

 二度もあなたに殺されるのは、ご免ですから─。



「分かりました、あなたと離縁します。」

「本当か!?」

「えぇ、どうぞ妹とお幸せに。」

「言われなくても、俺程の財力があればいくらでも彼女を幸せにしてやれるさ!」

 こうして私は、二度目の人生では夫と離縁をする事となったのだった。



 その後元夫は、家を出た私に代わり妹をそこに住まわせ…二人は仲良くやって居る様だった。

 そして一年後には、二人は結婚する予定だそうだ。



 ところが、そんな幸せな元夫の身にある不幸が降りかかった。

 この国の王が変わった事で元夫が事業で扱う商品は売る事が禁じられ…それにより事業は傾き、やがて彼は多額の負債を抱える事になってしまったからだ。

 

 しかしそれでも妹の浪費癖は治らず…それを咎める元夫により、二人の仲は急激に悪化する事になってしまった。



 そしてある日…元夫の説教に我慢できなくなった妹は、近くにあった果物ナイフで彼のお腹を刺し…彼は帰らぬ人となってしまったのだ。



 それを知った私は、私があの時運命を変えた事で彼が死んだのかと不安になり近くの教会へと祈りを捧げる事に─。

 するとそこには、私に十字架を贈ってくれた幼馴染が来て居た。



「…やっぱり来ると思った。」

 私にそう声をかける幼馴染に、私はどういう事かと尋ねた。

「君は、二度目の人生を神に祈っただろう?それは俺もなんだ─。」



 実は、私だけでなく彼も二度目の人生を歩んで居たのだ。

 と言うのも、一度目の人生で私の家を訪ねた彼は夫に刺され倒れた私を発見し、そんな事をした夫を取り押さえようともみ合いになり、運悪く自分もナイフで刺され死んでしまったのだ。



 その時、彼は二度と私にこんな辛い思いをさせたくない…今度は自分が彼女を幸せにしたいと、神に祈ったそうだ。



「そして気が付いたら俺は二度目の人生を歩んで居て、そして君も死ぬ事は無く安心して居た。すると昨日、夢に神様が出て来て…明日君が教会を訪れるから、その時に自分の想いを告げよと仰ってくれたんだ。」

 それを聞いた私は、自分だけでなく彼の想いがあったからこそ、この二度目の人生を送る事が出来たのだと思った。



「君が気にしているあの男の死は、神様曰く始めから決まって居たものだそうだ。君を殺し妹と結ばれても…王が変わる事で事業が立ち行かなくなり、それにより二人の仲は拗れ彼は彼女に殺される運命にあったと仰って居た。」

 では、彼の死は私のせいでは無かったと言う事か─。



 それを聞いた私は安堵から力が抜け、思わずその場に崩れ落ちそうになった。
 
 だが幼馴染はそんな私を抱き止めてくれ…そして、どうか自分の気持ちに応えて欲しい…俺が君を幸せにする事を受け入れ欲しいと告白してくれた─。


 
 そしてそれから少しして、私は彼と交際を始めた。

 一度目の人生では気付かなかったが…彼は私をどんな時も一番に気に掛けてくれ、それはそれは大事にしてくれた。

 

 私はそんな彼の深い愛に感謝すると同時に…私が望んだ愛のある人生を与えてくれた神にも、感謝の祈りを捧げるのだった─。
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