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「……そんな。ではやはり、あなたが前に話してくれた事は本当だったのね。ごめんなさい、あなたを疑ってしまって──。」

「謝罪はいいから、どうか頭を上げてくれ。」

 頭を下げる私に……目の前の人物、幼馴染のジャンは優しく声をかけてくれた。



 私は今、売却中と言う紙が貼られたアデル様の屋敷の前に立って居た。

 そしてその屋敷の中には、その主であるアデル様と……そして彼の愛するメイド、エリザベートの姿は無かった。



「あの二人は、今頃は仲良く婚前旅行を楽しんで居て……そして戻って来る頃には完成している新居に入ると、そう言う予定だったのね。そして何も知らない私は、ひたすらあの別荘で帰らぬ彼を待ち続け……漸く捨てられたと気付く頃には、既に二人は結ばれ家庭を持って居ると──。」

 私は自分の言葉に対し、悔しそうに唇を噛んだ。



 するとそれを見たジャンは、私の頭を昔のようにそっと撫でてくれ……そんなに強く噛んでは傷になるから駄目だと、まるで医者のような言葉を述べた。

 否……彼は念願叶って医師の免許を取ったのだから、その発言は何もおかしくはない──。



「……君の婚約者も中々に卑劣だが、あの女が傍に居た事で更に悪知恵が働いたようだ。全く……エリザベートと来たら、相変わらずろくな事をしないな。」

 そう言って、ジャンもまた売却中の屋敷をじっと見つめるのだった。




***


 
 ジャンが私の元を訪ねて来たのは……アデル様が私の元へ顔を出さなくなってから、少し後の事だった。

 そしてそんなジャンは、私の幼馴染だが……こうして会うのは久しぶりだった。



 と言うのも、ジャンは昔から大層賢く……彼の両親が流行り病で亡くなると、お金持ちのある子供の居ない夫婦が是非自分達の子にと、そんな彼を養子に迎える事にした。




 するとそれ迄、ジャンと毎日のように一緒の時間を過ごして居た私だったが……彼がそんな良い家の養子に迎えられると聞き、これ以上彼の傍に居ては彼の新しい暮らしの邪魔になるのではないかと考えるように──。



 実際、私の父親からも……これからは彼は両家の子息として生きる事になるのだから、その邪魔になるような事をしてはいけないよと釘を刺されて居た。



 それをさりげなくジャンに伝え、私は彼と距離を置く為別れを告げたのだが……彼は分かったと言うものの、とても悲しい顔をして居た。



『……今はお互いに子供だから、大人の都合に振り回されるけれど……自分達が大人になったら、また以前のように仲良くして欲しいんだ。』
 
『そうね……その頃になったら、それが叶うかも知れないわね。でも、大人になったジャンは何をして居るのかしら?優しいから、きっと素敵な紳士になって居る事でしょうね!』 

『俺は、大きくなったら医者になりたいんだ。その為に、今も毎日勉強して居るんだ。じゃあ……俺の夢が無事叶ったら、君の元を訪ねるよ。そう言う目標があると、俺はもっと頑張れると思うんだ──。』
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