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『マリアージュ……俺達、婚約は無かった事にしよう。』

『な、何を言って──』

『だってこんな身体では、君を幸せには出来ないじゃないか。このまま結婚したって、君は俺との子供を授かる事は出来ないんだぞ?診断書を見たら分かる、俺は男としては欠陥品だ。そんな俺と一緒になる事によって、君に要らぬ苦労をかけたくないんだよ。』

 そう言って、アデル様は目に涙を浮かべた。



 確かに……少し前に両親を不慮の事故で失くした事で寂しい思いをして居た一人娘の私は、温かい家庭を得る事を強く望んで居た。

 いずれは、愛する人の……アデル様の子を沢山産んで、彼やその子供達と明るく賑やかな日々を送りたいわ──。



 でもそれが叶わないと分かっても、私はそれだけを理由にアデル様を捨てる事など……お別れするなど、到底考えられなかった。

 だから私は、そんなアデル様も受け入れると……この先も変わらぬ愛を捧げると、彼に誓ったのだった。



『マ、マリアージュ……君は、本当にそれで良いのかい?』

『えぇ。それにアデル様……この診断書には、それが決して治らないものだとは書いては居ないでしょう?私は、医学の事には詳しくはありませんが……最近では、主治医ばかりに頼らず他の医者に診て貰う事も勧められて居るそうですし……そうなれば、あなたに合う治療法や治療薬が見つかるかもしれません。まだまだ、希望を捨てる必要はありませんよ。』

『そ、そうだな。』

『良ければ、私の主治医にも診て貰いませんか?今度、一緒に診療所に行きましょう──。』



 そう言って、私は彼を誘ったのだが……それから数日後、私に関するおかしな噂が周囲に広まる事となった。



 それは、私が大層ふしだらな女で……色んな男と関係を持った挙句に病気を貰い、それを婚約者のアデル様に移してしまい……そのせいで、アデル様が苦しい思いをして居ると言うものだった。



『……わ、私はそんな女ではありません!』

『勿論俺は分かって居るよ、マリアージュ。でも周りの皆は、これをすっかり信じてしまって居るんだよ。どうやら、君が男達と乱交する偽の写真まで出回って居るようで……これによって、噂が真実味を帯びてしまって居るんだ。』

『ひ、酷いわ……。一体、誰がそんな事を?』

『それは現在、俺が必死になって調べて居るから安心して欲しい。だが俺の親族達が、君の事をかなり批判して居て……このままだと君を直接攻撃しかねない。それに他の者達も、面白がって君に危害を加えるかも知れないし……。だから、婚約破棄が嫌だと言うなら……マリアージュ、君には一旦俺の傍から離れて欲しいんだ──。』
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